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アナザーストーリー  作者: りょーじぃ
第三章 過去の世界編
25/38

第24話 迷宮内の戦闘

2016/7/18 全文校正実施

 光の渦が見え、その光の前で、一人の女性が微笑んでいる。

 

 その女性は光の中に入へ向かい何も言わず去っていくその横顔はガラス細工の様に精細でもろい儚げな表情をし、次第に大きくなる光は彼女の周りを包み込むと光次第に小さくなり、その光と共に彼女も消えて行く。

 その姿に大声で何かを叫んでいる自分が居て、それを遠い空で眺めている自分もまた上村だった。

 

 これは上村の夢の中。

 

 夢の中の上村が何を叫んだが聞き取れなかったが、光の中に消えて行った女性は以前に居酒屋で見た大山 由希子の姿で、それを理解出来た所で目が覚め驚いたように跳び起き、眼を開き少し過呼吸気味に暫く荒い息をしながら夢であった事を確認出来たと感じた時、頬から一滴の涙が流れているのに気付いた。

 

 いつもそうだ。

 大山の夢を見るとなぜだか涙が出てきている自分は、人生の選択に後悔を感じているのだろうと感じる上村は、その涙を見る度に今までの自分にやるせなさが込み上げて来る。

 我に返った上村は頬に残る涙を拭い周りを見渡すと、辺り一面が沼地のような水分を多く含んだ土地に覆われているせいなのか湿度が高く、水の膜が覆い被さって来たようなムシムシとした不快を感じる。

 

「お、上村よ起きたか!」

「・・・はい。まだ多少のめまいは残っていますが・・・」

「いやー、なんちゅう移動方法や。こりゃ完全に人体実験やないかい」

「大佐、ここは何処なのですか?」

 

 起き上がった上村の目の前に宮田ミヤダが現れ、上村が再び周りを見ると他のメンバーも起き上がり始めていて、ワームホールを使うと空間の歪みによって一瞬ではあるが恐ろしい程の頭痛とめまいに襲われる為、目的地に着く頃には気絶してしまう程の痛みに増田が愚痴る。

 上村が最後の気絶者だったらしく、起き上がると前では座っていた笹塚が質問する井田の言葉に話を始める。

 

「ここは、大阪の大仙陵だ」

「大仙陵って、仁徳天皇陵やったっけ?」

「大佐!迷宮とはいかなる物ですか!?」

「内部には罠もあったが、移動中に大体のものは解除しておいた。だが、気になったのはその罠で、この時代の物にしちゃ精巧に作られている。しかも古墳内の石室に行くには、迷宮を通ってフロアにいる生物2体を倒さなきゃならねぇ」

「罠でっか・・・。しかも、その先に未知の生物2体なんてキツイですわなぁ~」

「わたしと大山じゃとても相手出来なかったが、一度相手の特性は見てる。お前達がいれば何とかなる」

「大山は・・・」

「ああ・・・。アイツは生物との戦闘で、誤って作動したトラップの光に巻き込まれて消えて行った。ダメージを受けた感じを受けない、あれは多分ワープトラップの類だろうな・・・」

 

 大仙陵と聞いて増田はすぐ仁徳天皇陵だと気付き、迷宮と聞き張り切って質問する宮田ミヤダに笹塚はいつもの事のようにサラッと答えるが、迷宮や罠よりもその先にいる2体同時の生物だと答え、大山の心配をする上村の言葉に笹塚は古墳内の迷宮で罠に掛かり輝く光と共に消息を絶ったと話す。 

 笹塚の言葉を聞きタイムトップの際に気絶した時に見た夢に似ていると上村は、強張る唇をかみ締め話笹塚の話を聞き続ける。

 

「大山とは連絡がつかねぇが、井田から借りた隊員用携帯のLEDは点いている。つー事は、さほど遠い場所には居ない。それに、あの光はワームホールと似ている光だった。可能性だが、大山が踏んだ罠は源流の石を使った地点移動の罠かもしれねぇ」

「地点移動の罠ですか!?しかし、それであれば出口側になるもう片方の石の欠片があるって事ですか!?」

「もしその罠が源流の石を使った物と想定すれば、石の欠片の片方は2体の生物を召喚した術者場所に繋がっていると言う事ですか。そして・・・、その先に大山さんも」

「あくまで想像だが・・・な。どちらにせよ、答えは2体の生物を倒せばハッキリするだろうよ」

 

 大山は光に包まれ消えたと話す笹塚が見たその光がワームホールと酷似したそれが源流の石を使った罠の可能性があると話し、そうであれば源流の石のもう片方を術者が持っている可能性は高いと笹塚は語る。

 確かに術者の所へいくのが最も手っ取り早い方法で、術者はこの先にあるだろう石室に居ると考えれば、どちらにせよフロアにいる2体の最高神を倒さなければならないと上村達は結論付ける。

 

 上村達は即座にその先のフロアいる生物と戦う為打ち合わせを行い、例のごとく宮田ミヤダは別行動を取り他の箇所の罠を探りながら石室への入り口を探り、上村、増田、田島で攻撃を仕掛け、まだ傷の癒えない笹塚とノクトビジョンを持つ井田とで後方サポートをする体制を取り迷宮へ潜入する。

 

 やがて笹塚が生物と交戦したフロアへ到着し現代の世界から持って来たライトを照らすと、その先に見える微かな暗闇に何者かがいる雰囲気をいち早く察知した増田が切り込み隊として先陣を切るように纏っていたローブを靡かせながら全員の前に立つ。

 

「ま、ここはワイの成長の成果見せたるわ。上村達がトルコへ言っている間、日本を守って力を付けた新たな能力見せたるわ」

「増田さん」

「敵は恐らく二体、お前の能力では敵の見えない暗闇では有効では無いのではないか!?」

「・・・そこが、あれから鍛錬を積んだ成果っちゅう事ですわ」

 

 増田の特殊能力は相手の動きを見てシュミレーションする能力だが、それは相手が見えている場合の話であり、この薄暗い環境では動きはおろか相手すら見えづらい筈だが、その事を承知で自信を前面に出し前衛に立ち上村と宮田ミヤダの言葉に自信を見せる口調で答え目を閉じ神経を集中させた増田は、暫くすると再び目を開き長いローブの中の納まる短刀を取り出す。

 

「・・・まずは一匹、動きが見えたで」

 

 敵を捉えた事で不適な笑みを浮かべた増田は、得意のスピードで暗闇の中を突っ込んで行くその姿は傍から見ればやみくもの突進かと思われる行動だが、暫くして暗闇の向こうで乾いた音が交差する音が聞こえた事で、増田が相手の居場所を正確に掴んでいる事を全員が理解する。

 

 増田が新たに手に入れた能力は、相手の足音や仕草の音で敵の居場所と攻撃タイミングを計っていて、第2生物の視野的な移動阻害能力が無い筈の敵に対し目を閉じていたのは、自身の聴力を最大限に発揮する為であった。

 

「よし!私たちも行きましょう!」

「ああ!」

 

 増田の先陣に続き上村と田島の2人のコンビは、上村の掛け声と共に田島の刀に上村が気を込め、笹塚が放った気の光で増田と交戦しているムンムと反対側にいるアプスの位置が分かった2人は一気にアプスへ向かって行く。

 

「大佐、10時の方向からアプスの攻撃。直径1メートルで気を放って下さい!」

「おお!」

 

 笹塚がアプスへ気を放出した瞬間、その攻撃に気付き暗闇と同色のアプスの槍が笹塚を襲い、それを笹塚の放出し気が壁になり全て受け止めている間に、井田が持ってきたノクトビジョンでアプスの居場所を捉え指示を出す。

 

「11時の方向移動しアプスが攻撃。上村さん気の剣で防御を、田島さんは衝撃波の準備を」

「了解。田島さん、攻撃後すぐに次の衝撃波の準備をしておきます」

「ああ!」

 

 井田の的確な指示に上村は気を纏わせた剣を振りアプスの槍をなぎ倒し、田島は腰を落として力を溜めるように体を捻り衝撃波を放つと、上村に気を取られ攻撃をしていたアプスは衝撃波の不意打ちを食らう。

 井田の管制能力は大山を遥かに凌ぎ、先を読み攻撃を繰り出すのであれば大山の識別眼には敵わないが、敵の必殺技の癖や発動範囲の把握や敵と仲間の攻撃力や防御力を分析し戦術を的確に指示する能力こそが、中東の戦線でも無敵の強さを誇った井田の管制能力だ。

 

「上村さん、少し下がって。増田さん、ムンムの爆発攻撃の構え敵の懐へ」

「はいよぉ~!」

 

 上村の位置ではアプスの触手の範囲内と読んで下がらせた井田は、ムンムの爆発攻撃を笹塚事前に特徴を聞いていた事で既に攻撃の特性を見抜いていて、爆破攻撃は両手を前に出し前方と上下に爆風を飛ばす攻撃だが放った自身には爆風は来ていない事から、スピードでムンムに勝る増田なら高速移動で相手の懐に入る事が可能なはずと考えた指示で、可能性に過ぎないが有効ではあると踏んだ井田は躊躇なく増田に敵の懐に入る事を指示した。

 その予想は的中し、ムンムの伸ばした手より内側に入った増田は多少の爆発攻撃を受けたが、ほぼ無傷で相手の懐に侵入する。

 

「このー!!」

 

 増田は持っていた特殊プラスチックナイフでムンムの胸を突き刺し、その傷口から血が噴出したムンムは苦しそうにするがその表情は一瞬で戻ったムンムは氷で固めた腕を振り上げ増田を攻撃し、増田はムンムの氷の腕の攻撃をかわし笹塚の所へ戻って来る。

 

「増田、良く聞け。お前が戦っているヤツは、先日わたしとの戦闘で攻撃を受け耐性が付いた『耐性後の生物』だ」

「・・・なるほど。だから、ワイのナイフが効かないんですな」

「アイツを倒すには気を込めた武器しか通じない。・・・これを使え。この棒は現存する物質で唯一気を留めていられる人工的な道具で、これにはわたしの気が込めてある」

「ありがとう!笹塚大佐!」

「大佐はいらん・・・笹塚でいい」

「笹塚はん、やって来きますわ!」

 

 研究者の端くれである自身も知る伝説の人物に声を掛けてもらい満更でもない表情の増田は、笹塚から受け取った玄能石を握り締めその場からジャンプするかのような勢いでムンムの間合いに入ると、ムンムは既に手のひらに氷柱を作り出し攻撃の準備をしその手を増田の方へ向けると無数の氷柱が襲い掛かる。

 

「大佐、ムンムの氷柱攻撃です。広めに気の壁を!」

「おう!」

「増田さん、これから霧の移動阻害を使う筈なので私からは見えなくなります。接近戦ならムンムは爆発を使う時に手を伸ばしたスキがチャンスです。それまで我慢して下さい」

「了解や!」

 

 井田の指示に笹塚は大きめの気の壁を作り投げ放ちムンムと増田の前に壁を作り氷柱防ぎ切れない数本の氷柱が増田に向かって来るが、既にムンムの行動パターンを読んでいる井田は、攻撃力は高いがパターンは単調で霧の移動阻害も増田が相手なら通用しないこの勝負なら、ムンムは爆破攻撃を仕掛ける確率はかなり高いと考え、氷柱の合間を縫って突き進む増田へ指示をする。

 

 井田は霧のせいで姿が追えなくなったムンムから上村達が戦うアプスへ視線を変え、田島の繰り出した衝撃波でアプスの触手は数本千切られているその様子から次に来る筈の同色で見難い黒い槍の発動タイミングを見極めるが、田島の持つ刀の気が小さくなり始めている事に気付き唇を噛み締めながら沈黙を続けた後に指示を出す。

 

「上村さん・田島さん、一旦アプスと距離を取って下さい。私が足止めします!その間に刀に気を補給してください」

「ですが、幾ら井田さんでも生物相手に1人では・・・」

「上村さんは田島さんの刀に気を込める事に集中して下さい!・・・私だって、伊達に中東の死線をくぐり抜けて来ていませんから」

 

 井田の言葉に一瞬戸惑いの表情を見せた上村だったが、田島の気の補給の為一旦下がり、その様子を見た井田は壁を背にしていた位置からアプスのいる中央付近まで移動する。

 ノクトビジョンがあるから暗闇での相手の位置や動作は問題ないが、スコープ形状の為に視野が狭いので横に移動されると不利だと考えた井田は、ならばこちらから仕掛けると腹を決め鞘から短刀を取り出しアプスに向かって走り出す。

 井田の戦闘能力は他の隊員に比べれば対した事は無いが、自衛隊に所属し中東戦争など幾多の戦争に参加し生き残って来た彼女の基礎体力は一般人に比べればアスリート並みの身体能力だが、上村の気を込める数分の間の時間稼ぎでいいと考える井田は、それでも目の前の生物は自身1人で倒せる相手ではない事は十分理解していたが、直接戦う事で得られる敵の癖が判るのであれば一石二鳥だと思い突進して行く。

 アプスはまだ残る数本の触手を井田目掛けて襲い掛からせ、その攻撃をナイフを使い触手に絡まれぬように弾き返しもう片方にあった鞘からナイフを取り出しアプス目掛けて投げると、アプスのタコのように大きく丸まった頭部にナイフが刺さり襲っていた触手が全てその頭部へ集まり痛がる様子でうめき声を上げる。

 次の瞬間アプスは、口先を尖らせ大きく息を吸うように頬を膨らまし、その口から黒い槍が無数に飛び出し、井田はその槍を懸命に避けたが最後の数本が肩をかすめたうちの一本が井田の足を貫く。

 

「うっ!」

「井田さん!」

「だ、大丈夫です・・・。上村さんは気を込める事を続けて下さい」

「井田さん・・・。分かりました」

「上村さん、田島さん。次の攻撃で仕留めます!田島さんは衝撃波の準備を、上村さんはアプスの動きを止めて下さい。場所は2時の方向です」

 

 その場で跪く井田に上村は加勢をしようと叫ぶが、アプスの無数の槍の攻撃を受けた事でアプスの攻撃パターンも読めた事に自身の片足を犠牲にするだけの甲斐はあったと感じている井田の表情を見た上村はその言葉を受け了承すると、その状況でも常に戦況を見ていた井田からの指示が即座に飛ぶ。

 井田の指示に田島は衝撃波の準備をし、上村は両手に気の剣を作りアプスに挑み、井田は自身を襲う激痛に耐えながらアプスと上村の攻防の一挙手一投足に気を配る。

 先程までの苦戦が嘘の様な上村の剣は切れ味を上げアプスの触手を切り裂き、懐の空いた瞬間を狙いさらに奥へと突撃する上村に怯んだアプスは、槍の攻撃を繰り出す為に距離を置こうと後退した瞬間、井田はその時を待っていたとばかりに上村へ叫ぶ。

 

「上村さん!アプスが槍の攻撃を仕掛けます。あれは口から吹き矢のように発射するので槍の軌道先に口元があります。タイミングは私が言いますので、一歩下がって攻撃をかわして下さい。息が切れれば攻撃は止みますので、その時は口元を狙って下さい」

「分かりました」

 

 先程の対戦で発射される場所が分かればそこを注意すればいいと読んでいた井田は、アプスが頬に空気を溜め口から吐き出す時の発射タイミングを上村に伝える。

 

「発射!発射!2発発射!・・・今です!」

「そこだー!!」

 

 井田の発するタイミングで上村は気の剣を振り攻撃を防ぎ、やがて嵐の様な連続攻撃が途切れるタイミングを狙っていた井田が叫ぶと同時に上村が勢いよくアプスの間合いに入り口元目掛けて剣を付き立てた。

 上村は剣先に気を集中し拡大させ威力を増させ強引に押し込むと、アプスは息が出来ないのだろうかもがき苦しみ、上村は即座に剣から手を離し後ろへ飛ぶがその剣から気は手から離れても消えない。

 

 これが上村の特性、気の具現化だ。

 

 他に気の使える人物の笹塚・宮田ミヤダ・大島は、放出系や物に留める事等は出来るが自身の手を離れた場合は即座に気は消えてしまうが、上村の具現化は気その物を物理的に出す事が出来るので使用者の手を離れても長時間形を保っていられる。

 

 剣を離し場所を離れた上村の後ろには田島が刀を中段に構えオーラヴレードを放つ準備をしている。

 

「今です、田島さん!」

「おぉぉぉぉー!!」

 

 図体通りの大声を張り上げる田島は中段に構えた気の込められた刀を勢いよく水平に振りぬくと、上村の込めた気と共に田島の異常なまでの検速によって生じた衝撃波がアプスの本体目掛けて飛んでゆく。

 その光に包まれる衝撃波の光景はまるでフェニックスのように、優雅に、かつ高速でアプスの体を捕らえると、その胴体を真っ二つに割れた胴体上部分は衝撃波の上に乗ったままフロア奥深くにある壁にぶち当たり、その後に突風と共に激しい石の破片を撒き散らし、激しい激突だったが幸いにもフロアは崩れることはなくその激突の後は巻き上げた煙のみの清閑な空間に戻る。

 

「・・・やったの?」

「・・・いや、多分生きています」

「えっ!?田島さん!アプスが攻撃を仕掛けて来ます」

「しまった・・・。さっきの衝撃波で、もう刀に気が残っていない・・・」

「田島さん!私がアプスの気を引きます」

 

 井田は生物の最後はあまり知らない為手ごたえを感じている様子だったが、最近の生物と戦闘経験のある上村と田島は再生能力が高い生物に半信半疑の様子を見せる。

 オーラヴレードを受け二つに分かれた状態に手応えを感じる井田に対して生きていると感じ話す上村の言葉通りに、アプスは上頭部がない状態にも関わらず残っている触手を攻撃した田島目掛けて放つ。

 田島の刀に気はもう残っておらず、井田も動けない状態であれば自分が行くしかないそう結論し上村は気の剣を作りアプスに気を引かせる為に向かって行ったが間に合わず、田島は襲い掛かる数本の触手を避ける事は出来たがスピードで勝るアプスの残りの触手が田島に命中し弾き飛ばれ暗闇の中へ消えて行く。

 

「田島さん!」

「上村さん!アプスがそっちへ向かって来ています」

「クソ!ここまで来て」

 

 田島の飛ばされた所まで来た上村にアプスは気付き上村目掛けて向かって来ている事に気付き井田がその事を伝えるが、槍が出せないとは言え最高神であるアプスの残った触手をバネにし上村へ向かい、そのスピードに手の打ちようが無い状態の井田は上村の名を叫ぶ事しか出来なかった。

 迫り来る死の恐怖を感じる上村は、死ぬ間際に感じる思い出の走馬燈よりもここで負ける訳には行かないと感じる。

 それは大山を助けたいと一心に考える上村の心の本音であり、ここまで来てようやく会える筈の大山に会えない悔しさが、自身の体に残る僅かな気を剣にして襲い掛かるアプスを向え討つ。

 

「私は・・・ここで、負けられないんだぁー!」

 

 襲い掛かるアプスに剣を振りかざすその剣は触手を捕らえるが、枯渇寸前の気ではアプスを切れる程切れ味が無く動きを止める事が精一杯で、続け様に次の触手が鋭く襲い掛かるが剣を振り抜いた後の上村は無防備同然だった。

 

 上村が覚悟を決めた瞬間、向かっていた触手は一瞬で切り刻まれ次の瞬間には残りの触手も全て切り刻まれた事に気付き目の前の状況を確認すると、切り刻まれ殆どの触手を失ったアプス本体には緑色のオーラの矢が刺さり、それを受けてアプスがもがき苦しんでいる。

 先程見た上村の見えた太刀筋は今まで見た事の無いような無駄の無い閃光のようだったが、その軌道には上村と同じ気が乗せられているのが分かった。

 アプスの動きを止め太刀を振った人物達が薄暗い中からゆっくりと乾いた音を立て歩いて来るその姿を、ノクトビジョンで既に姿を確認している井田はその人物を認識すると頬に一滴の涙を流しながら叫ぶ。

 

「隊長!修さん!」

「井田か、久しぶりだな」

「お久さ、心配掛けたね」

 

 井田達の前に現れたのは東北で行方不明になっていた大山 修と大島で、いつもの調子の大山とクールな大島を見た井田は止まらない涙を拭いながら二人の名を呼び、振りかざした刀を再び戦闘の構えに戻し薄暗い中に見えるアプスを睨み付けながら歩みを進める大島は、その先に居る上村の所まで来て立ち止まる。

 

「・・・お前が上村だな、ここは任せろ。お前は大山を探せ」

「あ、は、はい!」

 

 大島アプスを見ながら横顔で上村に語る言葉に突然の事で驚きを隠せない上村は初対面の大島に少し戸惑いながら答えると、上村に伝えるべく事を終えたと言わんばかりの大島は再びアプスに向いその後ろから援護役として来た大山 修が上村に話し掛ける。

 

「上村君、今のうちに行ってくれ。ウチの隊長はそっちと違って不愛想な人だから気にしないでくれよ」

「あ、はい、分かりました」

 

 不愛想な大島の事をフォローするかのように話した大山 修は、弦を引き念が込められた矢を放つとその矢は大島のすぐ横を通り過ぎアプス目掛けて飛んで行き、それを避けたアプスがバランスを崩し右によろける姿を見逃さなかった井田は大島へ叫ぶ。

 

「隊長、アプスがそのままバランスを崩し右に倒れます。そのうちに!」

「ああ・・・。分かっている」

 

 井田と同じくアプスの隙を見逃さなかった大島は、よろけた体を支える為に体重を掛けたアプスの右側目掛けて巨大な気砲弾を放つと、その砲弾は強大な袋となりアプスの全身を包み込み飲み込んで行った。

 アプスが消えた後に残った大島を確認した井田はノクトビジョンを掛けたまま大島の下へ駆け寄り、そのノクトビジョンの隙間からは大量の涙が流れ落ちる。

 

「隊長!」

「心配掛けたな。私達もこの世界で倒した生物の手掛かりを経て大仙陵まで来たのだ」

「まだ、奥で増田さんが戦っていますので、私はそっちへ向います」

「増田なら大丈夫だろう・・・アイツの強さは知っている。経緯はさっき宮田ミヤダに会ってある程度話は聞いた。まずは行方不明になっている大山を捜す為に、石室への入り口を探すのが先決だ。増田の方へは、とりあえず修がサポートに行ってくれ」

「はいよ、分かりました」

「井田は宮田ミヤダと一緒に、このフロアの捜索を手伝ってやってくれ。ヤツは壁沿いにいる」

「分かりました」

 

 実は謎の生物対策省に増田を推薦したのは大島で、鈴森との生物討伐で彼の強さは知っていた大島は、第二部隊が出来る前は東京からでは間に合わない西での生物発生時は全て増田に任せていた程に接近戦に関しては彼の自由にさせた方がいい事を知っていた。

 それを知っている大島は、戦闘の邪魔にならないように支援職の大山 修を送り、井田へは元上司である宮田ミヤタの手伝いの指示をし、大山 修と井田が大島の指示に従い互いの持ち場へ移動し2人が去ったその場にまだ他の人の気配を感じた大島は刀を向けるが、その暗闇から見えた人物を確認すると驚いた表情でその人物を見つめる大島に、その人物はその風貌に似合わない軽い口調で話し出す。

 

「おう、大島。久しぶりじゃねーか」

「・・・大佐。なぜここに?」

「そんなに驚くなよ。世界がこんなんじゃ、わたしだって戦わないと、【戦闘の大佐】の名が泣くだろ?・・・ま、今回はまったく役に立っちゃいないが、まったく・・・年には勝てねぇな」

「・・・そんな。あなたは、それが嫌で辞めた筈ではないですか。あれから、何度こちらからオファーしても一向に返事がなかった貴方がなぜ・・・」

 

 目の前に現れた人物は、大島の師匠であり【戦闘の大佐】として数々の栄光持つ伝説の軍人の笹塚で、今回の生物の発生の際に防衛省は笹塚へ再度入隊を希望したが断られ、一度は大島も直接交渉に行った事もあったが門前払いにされた経由を思い出すと、もう、このような世界には戻って来ない人だと思っていた人物との再会に、大島は驚きを隠せないでいた。

 大島の表情を見て彼女のその理由に覚えがある笹塚は、バツが悪そうに頭をかきながら話し始める。

 

「まぁ・・・、あの時はわたしも大人気なかったと思っているよ。別に、防衛省が嫌って訳じゃなく、自分自身の力に嫌気が差していただけなんだよ。・・・だがよ、隠居して落ち着いて来た時、わたしは上村に会った。アイツにお前らと同じくこの能力は兵器になる恐ろしさを話したが、それを承知で自分の気を他人に分けて自分自身の判断で武器を作る事をヤツは選んだんだ。お前と宮田ミヤダはわたしの意見に同調して武器を作らなかったが、アイツは人を信用して武器を作る道を選んだ。それが今の皆の命に繋がっているのであれば、この選択は間違っちゃいねぇし、アイツの馬鹿真面目に乗せられて、年甲斐もなくここまで来ちまったって感じだよ」

 

 自身の答えが正しいと思い込み誰の意見も聞かず閉じこもっていた自分に、自身よりも2回りは違う年齢の上村に真摯に生きる事を今更学んだ事を素直に嬉しく少し照れ臭かったと語る笹塚に、大島は会ったばかりの上村が笹塚の心をも動かした人間性に再び驚きを見せていた。

 

「・・・上村とは、それ程までの人間なのですか」

「まぁ、普通の世界にはいるのかも知れねぇが、間違いなくこっち(・・)の世界には存在しない人間だな」

「・・・大佐、私は上村達と共に大山を探しに行きます。大佐は、ここでお休み下さい」

「まったく・・・、わたしはもう立派な一般人だぜ」

「・・・いえ。今ここにいる貴方は、こっちの世界の大佐ではありません。自分を顧みずテロとの悪と戦った、私達が求め、憧れていた大佐です」

「・・・そうか。まぁ、動けないから待っとくとするか。早く迎えに来いよ」

「わかりました・・・」

 

 笹塚の言葉を聞いた大島は、上村の人間性は腰の重い国をも動かす驚異的な力があり、それは現に鈴森や笹塚を動かし国の一機関であった謎の生物対策省を正義の味方へと変えた事を改めて実感する。

 だが大島の心の奥にある本心は、大島自身が今の上村の役目をしたかったと感じていて、笹塚を説得した時も話し合いくらいは出来るだろうと思っていたがそれすら叶わなかった当時のショックを思い出す。

 あの時は自分の為ではなく政府の為に来ていたのが本音だったが、当時の大島は既に多くの部下を抱える立場にあった事もあり、自身が泥臭い世界に足を踏み入れていたのが正直な所で、会うはずも無い場所での突然の再開に大島の動揺と落胆は想像を絶していた。

 笹塚の言葉に背を向けたままの大島はその場を振り返る事無く話すと、その場を歩き出した今の大島には嫉妬のような憎悪もあったが、やはり私もこっち側の世界の人間なのだろうかと考えるとやるせない気持ちにかられ、笹塚の姿を見る事が出来なかったのが正直な所だった。

 

 フロア奥の別側では、ムンムと増田が最後の戦いを始めようとしていて、この霧で井田の管制能力は使えないが増田の足音を辿る能力があればこの霧は問題無く、ムンムが作り出す氷柱の攻撃は手を上に挙げ空気を冷やし凍結させその手に氷柱を作る際に発生する氷結の音を増田は拾い、音から氷結時間を把握しそれに合わせて短刀を振り氷柱を割っていく。

 

 笹塚から貰った玄能石に込められた気を使うチャンスは1回。

 井田の話していた爆破攻撃の際の隙を狙い、ぶち込むしかないと考えた増田は持っていた短刀をムンム目掛けて投げムンムが片手で弾いた隙に距離を縮めると、増田との距離が近くなり接近戦と理解したのかムンムは両手を前に出すそれは爆破攻撃の構えだと増田は暗闇に響く音で理解する。

 ムンムの行動に増田は一度地面に足を着きそこをジャンプ台にして加速を付け自身のスピードを増すと、そのままムンムの爆破攻撃の死角になる手と体の間に侵入しようとした。

 

 だがその時、ムンムはそれを判っていたかのように伸ばしていた手を下に下げ地面に向って爆破の構えをし、ムンムは以前の増田の行動からこの状況を想定しフェイントを入れて来たと同時に、ムンムの下から突入してくる増田に下で待っている事で直撃を与える体制に入る。

 ムンムの両手から蒸気が発生している様子から爆発の準備だと理解するが、勢いが付いた増田は止まれずそのまま向って行くしか出来ず、ムンムが増田を完全に捕らえ爆破させようとした寸前に遠くから矢が飛んで来た矢がムンムの顔面にヒットし、攻撃を受け荒れ狂うムンムは両手に作っていた爆発を解除した。

 勢いのまま増田はムンムの懐へ侵入し、玄能石の棒を振りかざしムンムの頭部を捕らえると増田は頭部の無いムンムを上部から切り刻み、玄能石に覆われた気は増田の気持ちに合わせるかのように棒の先を巨大な円にしてムンムの体を取り込み、その気が消えると共にムンムの姿は消え去り、その場に立ち尽くす増田は消えたムンムに安堵の表情を浮かべる。

 

「ふー、危なかったわー。・・・そやけど、さっきの攻撃。あれは誰や?」

 

 薄暗い霧の中を見渡しても姿は確認出来ない増田は、井田の声はしないので彼女がサポートをしたのでは無いと感じるが、同時に物理攻撃が聞かない生物に対して放たれた矢はムンムへダメージを与えた事に疑問を覚えるが、見えなくなった霧の中を足跡が聞こえて来る事に気付いた増田は耳を澄まし能力で確認するとそれは残りのアプスでもなく人間の足音で、そこに現れたのは大島に増田の援護を頼まれていた大山 修だった。

 

「いやー、間に合ってよかったよ」

「あなた誰や?」

「わたしは、大山 修。第一部隊の人間だよ」

「ああ、あんたが大山さんか!よろしゅう!ワイは第二部隊の増田 隆之ですわ。・・・しかし、この霧であの距離から攻撃って大したもんやなぁ」

「あなたの話は鈴森から聞いてるよ。今回の狙撃は鷹の目って力を使って援護させてもらった。わたしの鷹の目は対象者と面識があれば相手の位置を把握出来る能力なんだ」

「へぇ、それは便利な技やな」

「あなたと生物の姿は、さっき戦闘で確認していたから位置がわかるんだ。それより、こっちもアプスも倒したから、これでこのフロアは制圧したから、井田さんと宮田ミヤダ隊長は大山を探しに向っているよ」

「よし行きましょ!・・・って、大山さんは2人おるんやな、どーも呼びずらいわ」

「なら、わたしは修で構わないよ」

「ホンマか!?では、修はん行きましょか!」

 

 初対面となる大山はいつも通りの口調で挨拶をすると、性格的には近い2人はすぐに馴染むと、既にこのフロアに居た2体の生物を倒した事を告げた大山 修は、石室までの入り口は先に捜索していた宮田ミヤダが大山 由希子を探しに言っている事を告げると、増田と共にフロアの奥へ進む。

 

 大山 修と増田が最後に合流しフロア内に残った笹塚は、傷を負った井田と連絡役として田島と共に一旦引き上げる事にし、残ったメンバー5人で石室へ向かう事になった。

 

 狭い通路を進みやがて道が開けた先に5人は、この世界では有り得ない光景を目にする事になる。


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