第8話 半存在生物?!
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朝食を済ませたエーコは、小平師匠が甲板に居ないことを確認すると釣竿を持ち出して船首に陣取る。
「今日こそは鯛を釣るんです!朝食に出たんだからここら辺に居るはずです!」
どうやら川魚のハヤを鯛だと思い込んでしまっている様子。
釣りは『朝マズメ・夕マズメ(あさまずめ・ゆうまずめ)』と言われ、夜が明ける前か日が暮れる頃が一番よく釣れるというのが常識。
しっかり朝日が昇り水面に人影が写り込むと、まず釣れることは無いのだがエーコには関係ないようである。
得意げに餌もつけずに釣糸を川面に垂らす。
「これであの美味しい鯛が大漁です!!」
ダジャレにも力が入るが何事にもポイントがずれているのはいつもの事。
「あほだ。」
船橋の入り口付近の壁に船長は寄りかかりながら、そんなエーコを見てボソッと呟いた。
しかし教えてやる気は無さそうである。
しばらくジッとして魚のヒットを待っていたエーコではあったが、何の手ごたえも無いまま時間が過ぎてゆくうちに、遂には船首から川面を見下ろしてバシャバシャと釣竿で水面を叩き始めた。
「もぅ~!何で魚が釣れないんですかね!!川ごと魔法で焼いてしまおうかな?」
あながちウソではない。
エーコの『魔法』を以ってすれば容易いことなのだ。
「おい、そんな事をしたらお前の丸焼きが夕食に並ぶぞ。」
船長が背後から声を掛けたのでビクッと驚くエーコ。
恐る恐る振り向きながら引き攣り笑顔を作る。
「じょ、冗談ですよぉ。それに船長『女言葉』になってますよぉ~。」
転んでもタダでは起きないエーコは船長の言葉遣いを指摘する。
「誰かに喋っても丸焼きな。」
更にエーコを追い詰める船長。
目が笑ってないので相当に怖いらしく、エーコは何度も頷いてまた釣りの続きを再開した。
「船長~!!ちょっと来てくださ~~い!」
金庫番アベ君が階下から船長を呼んでいる。
エーコの背中を軽く睨むと黙ったまま階段を下る。
「どうしたの金庫番ちゃん?」
元の『男言葉』に戻った船長は、困り顔のアベ君に何事か尋ねる。
「それが、伊東さん達が来てて奇妙なことを言ってるんですよ。」
階段を降り切ると中央通路に繫がる。
その通路の先の中央広場は広いドーム状の空間になっている。
もちろんエーコの『ニナール魔法』のおかげでこの星の理論を超越した力が働いているからこそ可能なのだが。
その豪華客船の中庭のような広場の端っこにカウンターだけの喫茶&バー『竹子』はある。
店主の『竹子』さんは元タカラジェンヌ(もと宝爪過激団のメンバー)だけあって引き締まった筋肉と見目麗しい容姿の持ち主である。
船中の男性にとっては高根の花のような存在である。
カウンターには古澤氏と伊東氏が座り、交互に竹子に何かを必死に説明していた。
「どうしたの、口から泡飛ばして?」
船長は宥める様に声をかけると自身も椅子に座る。
「あ、船長!丁度良かった、聞いてくださらない?竹子さんたら信じてくれないのよ!」
伊東氏と古澤氏はこれで自分達の話を信じてくれる相手を得たと安堵しているようである。
「だってぇ、今どき河童だとか言われてもなぁ・・・」
お客の気分を損ねたくはないのだが、奇妙な話を大声でされると他のお客に気味悪がられて困るのだろう。
困り果てた末にアベ君に助けを求めたようであった。
「で、何の話かしら?」
船長は人差し指を立てて『いつものグリークコーヒー』を注文する。
竹子はようやくカウンターの二人から解放され、ホッと軽いため息をつく。
「昨夜の、いえ、正確には今日の早朝のことなんだけど・・・」
二人は、早朝に遭遇した奇妙な生き物の事を代わる代わる船長に話して聞かせる。
頭頂部がツルッとしてて全身が緑色に染まった伝説の生き物『河童』について臨場感たっぷりに説明する二人の話を黙って聞いていた船長が口を開いたのは、二人の興奮が治まってからだった。
「つまり、川沿いの山道にその河童らしき人物が突然飛び出して来て、『危ないから逃げろ』と言ってそのまま川に飛び込んだって訳ね?」
二人の話を要約する船長に二人はいちいち深く頷くのであった。
「そうなのよ!たったこれだけの話なのに竹子さんたら全然信じてくれないんだもの!」
少しムクレ顔になる伊東氏と古澤氏。
「でもねぇ、正直言って私も見たことが無いのよね、河童。それに一体何が危ないって伝えたかったのかしらねぇ。」
船長も半信半疑なのだ。
「そういえば・・・この芹川で朝釣りしてたら河童が出て来て川に引き摺り込まれそうになったから相撲を取って投げ飛ばしたって話なら爺様から聞いたことはあったわねぇ・・・」
遠くをぼんやり見つめながら他人事のように話す。
「そんな年よりのホラ話じゃなくって、私たちのはリアルな話なのよぉ。」
ムキになる伊東氏。
「船長~~~~~~っ!!」
そこへエーコが大声をあげながら物凄い勢いで広場に入って来た。
手には糸でグルグル巻きになった緑色の何かをぶら下げている。
あっという間に船長達のところに辿りついた超人魔法使いエーコは、興奮した様子で手にぶら下げた獲物を船長に突き付けて叫んだ。
「船長、これクジラ??」
それは全身緑色の人型の生き物だった。
頭頂部のツルッとした部分が何かの衝撃で割れているようだった。
「こ、こ、これよ~~~~~~~っ!!」
伊東氏と古澤氏は声を重ねて絶叫するのであった。
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