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第6話 ムーちゃんの秘密

この話のイラスト付き本サイトはこちら

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「ここなら笹川さんがお部屋を片付けても見つからないわね!」


神田崎省吾は秘密の日記帳の隠し場所を思案していたがようやく納得の行く場所を見つけたようだった。


「うふっ!私だけのひ・み・つ!チュッ」


占い師が使っていそうな曰くありげな派手な装飾の日記の表紙に口づけする神田崎。

その日記を紙袋に入れると壁に吊るされている絵画の額縁の裏側にテープで貼り付ける。


「さあ、今日も頑張っちゃうんだから!」


逆三角形の上半身は、ぴったりと張り付いたTシャツの上からも広背筋がくっきり見える程鍛えられていた。

元海兵隊という特殊な経歴の持ち主だけあって見事な筋肉質の体である。


「さてと腹が減っては戦は出来ぬ!朝ごはんを食べましょう!」


鼻歌交じりで食堂へ向かう神田崎の後姿は、体格とは裏腹にどこか乙女チックに見えるのであった。


「今朝は船長と小平さんが釣ってくれたハヤを素揚げにして南蛮の汁に浸した『ハヤ南蛮』が美味しいですよ!あ、浸かりがまだ浅いから骨は硬いので気をつけてくださいね。」


今日も朝から血色の良い料理長なべさんはテーブル一杯に色とりどりの料理を並べる。

ふきのとうの天ぷらに菜の花のカラシマヨネーズ和え、タケノコのカツオ節煮、など早春を彩る旬の料理が所狭しとテーブルを埋め尽くす。


「うわぁ~美味しそう!」


神田崎は目をキラキラ輝かせながら定位置の椅子に腰を下ろす。


「今朝も豪華ですね~!」


笹川さんも食堂へ入ってくるなり感嘆の声を漏らす。


「船長と小平さんの頑張りのおかげですよぉ。」


謙虚ななべさんは皆からの賛辞を彼らへ振る。


「おかげで眠いわぁ・・・ふぁ~~~」


大きな口をあけて欠伸をする船長を冷ややかな目つきで見る小平師匠。


「嫌だわぁ、いくら年を取っても身だしなみを忘れる人ってぇ。」


どうにも同じ空間にいると嫌味の応酬が始まってしまう二人にアベ君はハラハラする。


「わぁ~っ!!鯛だあ!これ、鯛ですよね?!」


エーコは入ってくるなりハヤの南蛮漬けを指差して大きな声で歓喜する。


「はいはい、あんたはオメデ鯛わよ。」


船長がからかうが意味が理解できないのか聞いてないのか神田崎同様、目をキラキラ輝かせて嬉しそうに席に着く。


「おはようございま~す。」


やや寝不足の私とすぐ後に『町の法律家』小野先生、『毒舌』羽田さんが続けて食堂に入った。


「これで全員集まりましたね!ではいっただきま~~っす!!」


勝手に音頭を取るエーコの掛け声で朝食は始まるのだった。


-------------

「満月の晩にしか見えんちゆぅのんも面倒じゃのぅ。」


ムーちゃん爺さんは、渓流沿いの滑りやすい岩の上を釣竿を片手に担ぎながら器用に歩いている。


この先に小さな滝があり、その滝壺を目指しているのである。


「もう少しじゃの。」


その時、ドスーーーン、ドスーーーーンという物凄い音が沢に轟いた。

ほんの一瞬、用心深いムーちゃんでも気が取られてしまったのか、足が滑り後方へ思いっきり転んでしまった。

その拍子に後頭部を岩で強打してそのまま気を失ってしまったのだった。

まだ2月だというのにこの夜は4月下旬並の暖かさであったことは不幸中の幸いだったかもしれない。


ムーちゃん爺さんの握り締めた釣竿からは釣り糸が川の流れに乗ってどんどんリールから解けて行く。

それでも釣竿だけはしっかり握りしめている根っからの漁師である。

ムーちゃんは釣りばかりでなく鉄砲も撃つ猟師でもあった。

イノシシや鹿などによる畑への獣害を食い止めるためにも田舎では必要な人材なのだ。

早朝は漁師であり、日中は猟師をやって生計を立てているのであった。


やがて釣り糸は100m巻きのリールから全て出てしまい、リールと最後の一点で繋がるばかりとなってしまっていた。


------------

ようやく安全地帯へ戻ってきたタク君はまさに水を得た魚よろしくスイスイと川を泳ぎながら登ってゆく。


「もう少しで奥さんと赤ちゃんが待つ家ですよぉ。今日は本当に危なかったなぁ。帰ったら皆に教えてあげないと・・・」


そんなことを考えながら泳いでいると右足首にチクっと何かが刺さったことに気が付いた。


「あいててて・・・今日はなんかツイテ無い日だなぁ。」


泳ぐのを止め、水中でチクチクする右足首を見る。

どうやら釣り針が引っかかったようだった。


「これだから釣り人は嫌なんですよねぇ。え~っと・・・暗くてよく見えないぞ。う~~~ん・・・」


そもそも爪を切る習慣が無い河童の指先は長く鋭い爪が伸びていて細かい仕事に向いていない。


「このまま家に帰って奥さんに外してもらった方が早いかもね。」


そう思ったタク君は何事も無かったように再び泳ぎ始めた。

しかしそれが全ての間違いの始まりであった・・・


洗濯船シリーズ第1作目「洗濯船航海日誌」はこちら

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