第4話 回る運命の歯車
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「えっ!?鮎って6月じゃないと釣っちゃいけないの!?」
驚く船長を前にニタニタと意地悪な笑みを溢す小平師匠。
「そんなことも知らないで『渓流釣り愉しむわよ~!』じゃないわよ。」
嫌みたっぷりの口調にカチンと来た船長。
「鮎の釣り方も女の釣り方もお上手ですものねぇ小平さんは。」
嫌みには嫌みで対抗する船長に今度は小平師匠がカチンと来たようだ。
「何よ文句あるのっ!!」
腕まくりをする小平師匠と船長。
一触即発の様相を呈してきた。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよぉ!」
二人の間に割って入るアベちゃん。
端正な顔立ちと、地平線まで続いてるかのような果てしない爽やかさが彼の特徴である。
「良い大人が喧嘩なんて恥ずかしくないんですか!?」
一回り以上は年上の二人に、必死な表情で訴えかけるアベちゃんは今日も良い奴である。
「最近なんか二人ともおかしいですよ?!何があったんですかっ?!」
確かにここ最近は、何かにつけて言い争いになる二人。
もともと仲は悪くは無かったのだが・・・
「別に~」
お互いにソッポを向くと釣竿を担いだまんま、それぞれ甲板の反対側へと行ってしまった。
「ったくもう、何なんですかねぇ・・・」
南の天空に浮いていた満月も、今では西の空へと傾き始めている未明の事であった。
そんな彼らを物陰から恨めしそうに見つめる人影一つ。
「今夜我慢してるのは私も同じなんですよぉ~。」
彼の大きく丸い体は、甲板に東へと伸びる長い楕円形の影を落としているのだった。
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「こんばんわぁ~。・・・確かにこの先から音が聞こえるんだけどなぁ。恥ずかしいのかな?」
河童のタク君はどこまでも続く暗く凸凹の下り道を歩いてゆく。
彼は、足元に注意しながら左に大きく曲がったトンネルを下っていくと、先方の壁が仄かに明るくなっていることに気がついた。
「ん?やっと底に着いたかな?」
ここまで返事をしなかった相手が少し不気味に感じられ始めていた彼は、今度は慎重に足音を忍ばせながら明かりの方に近寄っていった。
そして最後のカーブの手前で壁に体をピッタリ寄せると聞き耳を立てた。
『・・・長湯の・・・何年だ?・・』
地の底から湧き出るような地響きのする低い声が聞こえてきた。
『・・・125年・・・』
今度は別の低い声が答える。
『・・・北の果て・・・何年だ?・・・』
今答えた声が逆に質問しているようだ。
一体何の年を言い合っているのか話が見えない河童のタク君は、彼らの姿を確認しようと、もう少し身を乗り出して灯の方を覗いた。
どうやらそこは広いドーム状の空間になっているらしく、中央に置かれた光源を取り囲むように数体の人影が立っていた。
しかしその大きさは決して人間のものではなかった。
彼らの身長は大小あるがどれも3m近くはあった。
しかも彼らは衣服を一切まとっていない。
いや、その必要がないのだ。
なぜならタク君の目に映ったのは、4~5体の岩で出来た石仏だったのだ!
「う・・・わぁ~~~・・・」
必死に声を潜めているつもりだが、あまりの恐怖に漏れてしまっている。
河童の国の言い伝えでは、はるか昔、この星は1種類の人間しかいなかった。
しかしある日、空から光臨してきた神様は、何を基準にか『人間とそうでは無い者』に分けてしまった。
その『人間ではない者』に分けられたのが河童や他の妖怪と呼ばれる者たちなのだ。
しかも、今度神様に遭うと人間にされてしまうと言われていたのである。
「ぼ、僕には可愛い奥さんと子供が居るんだ。こんな所で人間なんかにされたら・・・」
『・・・誰だぁ?・・・』
石仏の一体がタク君の気配に気づいた。
「ごめんなさ~い!!何も見てませんよぉ!!さよなら~っ!!」
言うが早いか、もと来た道を物凄い勢いで駆けだすタク君。
河童の足ヒレは決して走るのには向いていないが、そんなことは微塵も感じさせない逃げ足である。
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「・・・え~っと・・・ここどこ?」
伊東氏たちは長湯温泉街の道の駅の駐車場に居た。
どうやらダムの標識を見逃してしまったらしい。
「通り・・・過ぎちゃったみたい?・・・たはは・・」
バツが悪そうな古澤氏。
特に機嫌を損ねた風もなく伊東氏は答える。
「仕方がないわ。こうなったら歌でも歌って戻りましょう!」
自分のミスを責めるでも無く、明るくそう言ってのける伊東氏にますます好感を抱く古澤氏は、伊東氏の提案に激しく同意するのであった。
「そうね!じゃあセカハジの『回る歯車』なんてどう?」
「いいわねぇ!実は私、『セカイノハジマリ』のファンなの!」
ユーターンする車内では、気が合う二人は楽しそうにすぐに歌い始めるのであった。
『回るぅ~歯車のようなぁ~~運命はぁ~~♪・・・』
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