第3話 遭遇
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バウゥ~~~~ン!!
深夜の県道を疾走する一台のジムニー。
「うひょ~っ!!夜釣りは久しぶりですわね~!!」
大分市で中古車販売業をしている者同士、仲良く深夜の渓流釣りに長湯を目指す古澤氏と伊東氏。
「やっぱアウトドアシーンでのジムニーは圧倒的に便利ですわぁ~♪」
鼻歌交じりにハンドルを握る伊東氏。
「3月1日からのエノハ釣りの解禁を前にハヤ釣りで練習って、私初めてですわ!」
興奮気味の年下の古澤氏。
言葉遣いから箸の持ち方などの些細な仕草に至るまで厳しく躾られている育ちの良い伊東氏は、無邪気に喜ぶ古澤氏を弟のように大事にしていた。
「ハヤ(別名ハエ)も甘露煮にするとお酒の肴として最高なのよ♪」
料理の腕もなかなかの伊東氏は舌なめずりしそうになってハッと我に返る。
『私ッたらハシタナイことを!危ない危ない。』
「もうそろそろ芹川ダムのはずだけど・・・」
古澤氏は、まだ暗い道の端の看板を目を凝らして見落とすまいとしているようである。
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「うん、これなら今度の大会でもイケそうな気がする!」
河童市民オペラ大会に出場するために、こうして夜な夜な渓流沿いの巨石の上に立ち、歌の練習をしている河童の『タク』くん。
「もうこんな時間かぁ。最後にもう一回だけ通しで歌って帰ろうかな。」
住処には可愛い奥さんと生まれたばかりの赤ちゃんが待っているのだ。
逸る気持ちをグッと堪えて、細心の注意を払いながら声を引き出す。
「スゥ~~ラ~・・・」
とびっきりの澄んだ声で歌い始めた彼だったが、突然の大きな物音とそれに伴う大きな振動に思わず声を止め耳を澄ました。
・・・ズド~~ン・・・ズド~~ン・・・メキメキッ・・バキッ・・・ズドーーン・・・
まるで巨石が山肌をゆっくり転がってゆくような音である。
「何?噴火?」
ここは活火山が群立する久住山系に近い長湯温泉郷。
しかし活火山とはいえ、最後の噴火から既に1700年が経っている。
もちろん噴火ならまず先に轟音が鳴り響き、然る後に噴火で飛ばされた岩が山肌を襲うはずなので河童のタクくんも、言ってはみたものの違うことは分かっていた。
「う~~ん、どうも『ホラ吹木』の方から聞こえるぞ??行ってみよう!」
好奇心旺盛な彼は川の水を一掬いすると頭の皿に掛け、早速物音を追うのであった。
長湯には昔から言い伝えがあった。
山奥の更に奥に、100年に一つだけ実を稔らせる『ホラ吹木』と言う木があり、その実を食べると『人を幸せにする大法螺吹き』になるのだそうな。
実はこの木、伝説ではなく河童の間ではちゃんと知れ渡っていた。
ただ、この実は彼ら河童には猛毒らしく、「触れてはいけない木」として子供達に教え伝えられてきたのだった。
「もう少しだ!でも一体何の音なんだろう?」
物音は明らかに山を下っている。
それもある一定のリズムで歩いてるかのような音を立てながら。
物音は『ホラ吹木』の横を通り過ぎ崖の方へと進路を変えた。
「あっちは崖が聳え立ってるから行き止まりだよ?ブツカルかも・・・」
タク君は小走りに後を追っているが、岩が崖にぶつかったような音は聞こえてこない。
好奇心に火がついた彼は更に早く走って音の正体に追いつこうとした。
そして背丈ほどもある雑草を掻き分け、ようやく崖面が剥き出しの所まで来た。
しかし辺りに音の発生源らしき物は何も見当たらない。
目を凝らし、息を呑み、用心深く周囲を探る。
目が慣れてきてあることに気がついた。
崖を這い上がるように覆う蔓科の雑草の一部が左右に割れて、その奥に暗い穴が開いていたのだ。
その穴は高さにして3mはあろうか。
「へえ~、こんな所にこんな洞窟があったんだぁ・・・」
その穴は下へ下へと続くトンネル状になっていた。
「こんばんわ~、誰か居ますかぁ~?・・・入っちゃいますよぉ~?」
誰に断ればよいのかは分からないがとりあえず宣言はしておくタクくん。
「ダメって言われないから良いよね?」
一人で勝手に納得すると天然のトンネルを下へ下へと下って行くのであった。
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