第2話 伝説の・・・
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「かぁ~、いつ食っても何を食ってもナベの飯は旨ぇのう~。」
巨大タンカー並の八百屋船『石川青果号』の奥座敷で、洗濯船から毎食運ばれてくる料理長なべさんの料理に舌鼓を打つ『母ちゃん』。
「しかしなんやのう・・・もうビデオも見飽きたのう。たまには歌が聞きてぇのう。」
モグモグと料理を頬張りながら贅沢なことを考え始めている様子。
かつては『伝説の八百屋』と呼ばれ儲けていただけに贅沢の引き出しは多い。
「そうや!ケンタロックスにカラオケに連れて行って貰おう!」
目を輝かせながら母ちゃんはいつもより早いペースで食事を口に運ぶのであった。
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「ぶへっくしょいっ!!」
船長は特大のクシャミをした。
「いやぁ~~ン、汚い~~~っ!」
なべさんは眉をひそめる。
食堂のテーブルにはありとあらゆる美味しそうな料理が並んでいたが、突然のくしゃみで船長の唾が飛び散ったのだった。
「クシャミするなら口を押さえなさいよぉ~!!もう食べられないじゃないのぉ~!」
小平師匠はカンカンになって怒っている。
「あ、じゃあこれ貰いますね!」
エーコはすかさず小平師匠の前に置かれたヒレステーキの皿に手を伸ばす。
「ちょっと!!これは私のでしょ!しっ、しっ!」
右手でエーコの手を払いのける小平師匠。
ちっと舌打ちするエーコ。
「誰か噂でもしてるのかしら?やぁ~ねぇ。」
何事も無かったように食事を続ける船長。
「ところで次の目的地はどこですか?」
私は操縦室のナビゲーションシステムに目的地の座標を入力するために確認しようと船長に話しかける。
「食事中は食事に専念しなさい。」
船長は冷ややかに答えながら私を横目で睨む。
「はぁい、すみません。」
私はデザイナーとしての実力を買われ、海図を描くために乗船したはずだった。
が、「これもついでに」と言われ、操縦は覚えさせられるは、客室のベッドメイキングはさせられるは、とにかくアレもコレもと雑用ばかりを押し付けられてしまった。
そのことで文句を言えば
「あらぁ~、悪い姉達に苛められる童謡のお姫様みたい~!羨ましいわぁ。きっと白馬に乗った王子様が助けに来てくれるわよぉ!!」
と、肩を叩かれ、そのまま有耶無耶になってしまった。
「こんな船、チャンスがあったら降りてやる!!」
と言ってはみたものの、外の世界では国民は悪政に苦しめられ、働けど働けど輸出型の大企業でもない限り奴隷のような生活を強いられるご時世。
仕方なく雑用係に甘んじているのだった。
船長は食事を終えると白いナプキンで口元を拭きはじめる。
「そうねぇ、母ちゃんが『鮎が食いてぇ』とか言ってたわねぇ。とりあえず川を上りながら鮎でも釣って、竹田市の日本一の炭酸泉の長湯温泉にでも浸かろうかしらん?」
竹田市長湯町には船長の『伝説の祖父』が住んでいるらしく、今までにも何回か訪れたことがあった。
魔術師エーコに『超撥水魔法』を掛けられた洗濯船はコップ一杯の水にも浮くことができるので、渓流上りなど朝飯前なのだった。
「炭酸泉で長湯かぁ~。いいわねぇ。最近肩こりがひどかったから助かるわぁ。」
そう言いながらも左手で右肩を揉む笹川支配人。
客室のベッドメイキングから配膳やら予約やら、とにかく全ての段取りを一人でこなすスーパー支配人なのだ。
エーコの『ニナール魔法』のおかげで大型クルーザー規模の洗濯船内は、豪華客船なみの広さになっており、客室だけでも数百はあった。
それを一人で切り盛りするのだから肩が凝るのも頷ける話である。
「じゃあ竹田市長湯温泉郷で決まりですね?」
私は船長に最終確認をする。
船長は静かに頷いた。
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「今夜は月夜かぁ。よし、ここが僕のステージだ!」
頭頂部は光沢のある地肌が見え、そこには満月が写っていた。
昼間なら分かるのだが、その青年は全身素っ裸で、その肌は深い緑色に染まっていた。
よく見ると手も足も指の間には皮膚がヒレのようになって繋がっている。
この地方の『伝説』では、彼のことを人は『河童』と呼んでいた。
渓流沿いの巨石によじ登ると、スックと立ち上がり、満月に向って美しい声で歌い始める河童であった。
第1作目の「洗濯船航海日誌」はこちらからどうぞ!
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