第13話 一本国(いっぽんこく)の首相
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「総理にご質問致します。政府がインフレを誘導して良いとお考えですか?もし一度ハイパーインフレに陥れば制御不能になるリスクが高いことは承知のはず!」
国会答弁の様子を広い書斎のソファーに座ってテレビで見守る金髪の老紳士。
「御承知の通り、現在の我が国の借金は国民が一年で生み出す財産の2倍を超えております。
このままでは国が破綻しかねないのです。
我が一本国と同じ比率の借金を緊縮財政で乗り切った『かの国』は返済までに100年を要し、すっかり国際競争力が失われてしまいました。
こうなっては諸外国からの武力侵略にも抵抗できなくなる可能性が高いのです。
恐縮ですが私個人の考えを述べさせてもらえば、借金が目減りするインフレ誘導では既に手遅れ。
ここは『預金封鎖』すら辞さない覚悟が必要ではないかと考えている次第であります。」
議事堂内は総理のこの無謀な発言にヤジの大合唱が湧き起こる。
「くっくっく・・・。面白い程我々の思惑通りに動いてくれるな、彼は。」
ポーセリンのティーカップに注がれたダージリンティーを美味そうに啜りながら老紳士はほくそ笑む。
女性優位社会のこの国で初の男性総理となった矢部絵首相。
彼のモットーは「武力あってこそ国は美しい」である。
それまで長く続いたノラリクラリした政権運営のおかげで国民の借金は膨大な金額に上っていた。
これに業を煮やした国民を上手に扇動し、見事に男性初の首相になったのだった。
しかし彼の発言も政策も表向きは上手く行っているように見えて、裏ではまるで違っていた。
ただ、政府の言いなりの報道をするマスゴミと呼ばれる機関と各種の指標の数字を都合の良いように操作し、国民の目をごまかしていたのだ。
これに加えて世界的な経済格差の拡大がこの国にも波及していた。
そのために地方の貧しい家庭の女性たちが一番のしわ寄せを食う形となっているのであった。
親の遺産か収入が多い家庭の子供たちが高学歴なのは誰の目にも明らかであり、親の収入が子供の教養の格差につながっていた。
人手不足でありながらもブラックと呼ばれる企業に低賃金重労働で使い捨てされるよりはと、今よりマシな生活を求めて性風俗産業に身を落とす若い女性が急増していた。
中には借金を理由に無理やり若い女性たちを連れ去るような輩も跋扈する有様である。
「どうでも良いけど弱者を何とかしろっての!」
同じころ自宅のテレビを見ていた山口の姉貴は小野先生の看病をしながら一人憤慨するのであった。
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食堂のテーブルの中央には大きな平皿にキュウリが山盛りに積まれている。
「・・・」
河童のタク君は大皿の前の椅子に座らされ、なぜか途方に暮れている。
一同は河童がどんな風にキュウリを食べるのか興味津々で見守っている。
「ほら、大好物でしょ?」
船長はタク君に食べるように促しているのだが一向に手を伸ばす気配が無い。
「・・・あのぉ、これは何ですか?」
ようやくタク君は意味を理解したのか船長に尋ねる。
「は?河童の大好物と言えばキュウリでしょ?」
狐に摘ままれたような表情の船長たち。
「いえいえ、僕らは美味しいトマトしか食べないんですけどぉ。」
顔の前で大袈裟に手を左右に振って否定するタク君。
「トマトぉ~?顔だけじゃなくて食べ物までタクに似てるわねぇ・・・」
丁度そこへ笹川支配人が入って来た。
「ふぅ~疲れた。コーヒータイム・・・!?」
テーブルを取り囲む皆に一瞬驚いたものの、すぐさまテーブルの上のキュウリの山を発見し質問する。
「誰が食べるんですかこんなに沢山のキュウリ?」
どうやら笹川さんにも河童は見えてないようである。
誰よりも速くアベ君の顔がほころぶ。
これで3人目の『仲間』である。
見えなくても普通なのだと徐々に自信を取り戻しつつある様子。
残るはナベさんと小野先生、それに時々遊びに来るピザ屋の原田さん。
「あれ?そう言えば小野先生の姿を見てないですよね?」
アベ君は近くの人に誰ともなく尋ねる。
「さっき散歩に行ってくるって船を下りてましたよ。」
エーコが事も無げに答えながらテーブルのキュウリに手を伸ばす。
船長がその手を払い除ける。
「河童が食べないんならそれは食材庫に戻すの!」
船長の台詞に敏感に反応する笹川さん。
「河童?河童て言いました、今?」
船長の顔をコーヒーを啜りながら上目づかいに見上げる。
「あ、あはは、言ったかしらぁ?カッパッパラッタッタ~♪」
先輩の笹川さんに見えないので気を遣って誤魔化そうとする船長。
「はは、誤魔化さなくても良いですよ。私にも見えてますから!河童も見えなくなるほど汚れた大人じゃぁありませんよ。私だけが見えてるのかと思って気づかないふりしちゃいましたよ!」
満面に笑みを浮かべいつにも増して気品ある雰囲気を醸し出す笹川支配人。
「あ、そうですか!?すみません、てっきり・・・」
船長は照れながら頭を掻く。
「さっきからキュウリの前で涎を垂らしているじゃないですか!ね?」
やはり見栄を張っているようだった。
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