第10話 『省吾』をお知らせします?!
洗濯船航海日誌の第1作目はこちら!↓
http://ncode.syosetu.com/n8597ck/
「うん、いいわよぉ!」
興奮気味の小平師匠の声に力が入る。
姿見の鏡の前で巨体をモゾモソと恥ずかしそうにクネらせる神田崎省吾。
「どう?恰好良くない?」
どや顔の小平師匠は、ツイードのスーツに身を包んだ神田崎の反応を見ている。
「どうって言われても『女装』なんて・・・なんて言うか変な気持ちだわ・・・」
ガッシリした体躯は、ピシッと張り付いたYシャツのおかげで尚更筋肉質に見える。
その上半身を少し大きめのツイード生地のスーツが包む様は大人の遊び心をも感じさせている。
「なかなかダンディーよ!どんな女性よりも似合ってるわ!!」
そう言われて悪い気はしないようで、鏡の前に立つ神田崎の姿勢も少し背筋が伸びたようである。
徐々に自信を付けたのか、背筋をピンと伸ばすと上半身を左右にネジってポーズを取るようになった。
右手で拳銃の真似をすると鏡に向かって決め台詞を吐く。
「逮捕しちゃうぞ!」
小平師匠は思わず吹き出す。
「ぎゃはは!そこは女言葉で『逮捕だ!』でしょ!!」
面白くて堪らないようである。
笑いすぎて涙目にさえなっている。
「ふふふ!そうね!『逮捕だ!!』」
野太い声で言われるままに真似てみる。
「「ぎゃはははは~~~~~っ!!」」
ついには二人して笑い転げてしまった。
「ねえ!記念撮影しない?」
唐突に小平師匠は神田崎に詰め寄る。
既に手には小型のカメラを握っている。
「どこでよ?!誰かに見られたら私恥ずかしくって生きて行けないわよ!!」
少し慌てる神田崎ではあったが、写真は撮っておきたいのだった。
神田崎の唯一の秘密、それは自分のコスプレ写真をアルバムにファイルすること。
自室の絵画の額の裏に隠したのも海兵隊時代から撮りためて来た『コスプレ写真集』なのだった。
-----------------------
お日様もすっかり登り、芹川の渓流は散歩コースには最適になっていた。
川べりの岩も小さくなり、随分歩きやすくなったようでムーちゃん爺さんの足取りは軽い。
「それにしてもどこまで流れてしまったんかのう?どっかに引っかかってそうなもんじゃが・・・うん??」
川面に午前の明るい陽光が反射して気づかなかったが、良く見ると100m程先方に大型クルーザーが重力も常識も無視して停泊している。
決して座礁しているのではない。
なぜなら微風が吹くたびにまるで水面に浮かぶ枯葉のように小刻みに左右に揺れているのだから。
「あんな非常識な船はケンタロウの船くらいじゃろ?」
どうやら船長を知っているらしい。
「あれがあそこに浮いちょんちゆうことは、そっから下には河童も流されては無ぇち言うことじゃ。」
曲がった背中ながらもスイスイと足場の悪い川べりの石の上を軽やかに移動しながら船に近寄って行くムーちゃん爺さん。
「ん??誰か出て来たぞ?」
二人の筋肉質な中年男性がビシッとスーツで決めて船から梯子を伝って降りて来る。
二人はムーちゃん爺さんにはまるで気が付いてないようである。
『こんな所で背広なんか着て何する気じゃ?』
怪訝に思ったムーちゃん爺さんは川の中に静かに足を踏み入れ、船首の方へ身を隠した。
物陰から見ていると二人は交互にポーズを付けて写真を撮影しあっていた。
『何かの広告にでも出す写真じゃろうか?』
どうやら危険は無さそうなのが分かったのでムーちゃん爺さんは二人に声をかけようとして船の陰からゆっくりと姿を現す。
しかし撮影に夢中になっている二人は自分たちの世界にドップリ浸かって気づかない。
更に二人に近づくムーちゃん爺さん。
小平師匠は神田崎を撮影する際に背後に移り込む人影にようやく気が付いた。
「ちょっと、御爺さん!そこ写真に写っちゃいますから、ちょっとどいて貰えません?」
女性になり切ってるのか気取った口調でムーちゃん爺さんに注文を付ける。
「え、お爺さん?!」
神田崎は思わず振り返ると悲鳴を上げた。
「きゃ~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
大慌てで船の梯子を駆け上がり逃げてゆく神田崎。
それを見てハッと我に返った小平師匠。
そんな二人を見て驚くムーちゃん爺さん。
「何じゃあ?」
背広の上下で決めた小平師匠とムーちゃん爺さんは対面したまま固まったように立ち尽くすのみであった。
この話のイラスト付き本サイトはこちら↓
http://ideanomi.jp/index.php?%E3%80%8E%E7%9C%81%E5%90%BE%E3%80%8F%E3%82%92%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%EF%BC%9F%EF%BC%81




