第1話 『始まり』の初め
洗濯船シリーズ第2作目です。
1作目をお読みの方も読んでいない方も初めから楽しめる設定としております。
予備知識無くても大丈夫ですのでご一読頂けると嬉しいですわ。♥。・゜♡゜・。♥。・゜♡゜・。♥。
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ひゅう~~~~~~るるるるるるぅ~~~~・・・ドッカーーーーンッ!!
昼夜を問わず地上では、激しい戦闘が繰り広げられていた。
それは長きに渡り人類を支配してきた既得権益者の支配する『乱茶絵』軍と被支配者層『なんちえ』軍との戦いである。
既得権益者層には、自分達に有利な税制を施行する政治家を政界へ送り続けることで富の格差をコントロールしてきた歴史があった。
そんな中、これを歴史的資料に基づき統計学的手法で白日の下に晒した一人の若い経済学者が現れたのだった。
彼の名は「トマ・トスキ・ピケ2世」。
所得格差は情報格差につながり、マスゴミと呼ばれるゴミ化したメディアを通じてあらゆるチャネルから欄茶絵軍は一般市民を洗脳していたのだ。
しかし、富裕層出身のこの学者の論文は瞬時に世界を駆け巡り「政策的富の不平等」に抵抗するレジスタンス「なんちえ学派」が誕生した。
初めこそ小さな運動であったが、やがてその意味を理解した世界中の被支配者層の人々によって是正運動へと発展して行くのだった。
時に地球暦20××年。
こうして始まった「ナンチエランチエ戦争」はそれから1世紀にも渡り続けられ、地上は徐々に人の住める場所ではなくなって行った。
「母ちゃん、腹減ったぁ~~。」
瓦礫の町で青鼻を垂らしながら母親の袖を引っ張る児童を煩わしそうに母親は見下ろしながらこう応える。
「飯なら昨日食ったやろが!腹が減ったのは気のせいじゃ!」
自身も耐えがたき空腹を抑えながら、瓦礫の下から何とか食料になりそうなものを物色している。
このままでは幼いわが子共々、いずれ餓死することは目に見えていた。
初めこそ数では圧倒的だった「なんちえ」軍であったが、余りある資産を武器に「欄茶絵」軍は切り崩し工作を展開し、裏切り、離反してゆくように「なんちえ」軍を誘導していったのだ。
その為に徐々に勢力を失い、終にはゲリラ的戦術へ切り替えざる終えないところまで「なんちえ」軍は追い詰められていたのだった。
「元帥!欄茶絵軍の人型ロボット13体の捕獲に成功しました!!」
上級士官のカルダ・モンティーはこう報告すると破顔するのであった。
久しぶりに見る部下の笑顔に司令部には明るい空気が流れた。
核戦争用の避難都市としての地下都市『黄泉シティー』は今となっては「なんちえ軍」の根城として活用されていた。
迷路のような入り組んだ通路。
あちこちに仕掛けられた罠。
これらだけが根城足りえる根拠ではない。
この都市は、古過ぎて人類に忘れられた『遺跡』だったのだ。
山間部での激しい戦闘の中、偶然にもこの都市への入り口を発見したのだった。
「よし、これより『最後の楽園』作戦に入る!」
元帥トマ・トスキ・ピケ4世(2世の孫に当たる)の号令一過、司令部は緊急体制に入るのであった。
「ロボットのプログラムのリロードが終わり次第『アダメとイボ』をシェルターへ移せ!!」
蜂の巣を突いた様な慌しさのなか、一人背を向ける元帥。
元帥は分厚い窓ガラス越しに保育器でスヤスヤと眠る2人の赤ん坊を愛おしそうに見つめている。
「腐りきったこの世界はもう終わりだ。新しい世界こそが希望をつないでくれるさ。『こんにちは、赤ちゃん』・・・」
寂しげな笑みを浮かべ小さく呟く元帥であった。
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現代、大分市沖合い。
「いやです~~っ!!」
魔術師エーコは釣竿を振りましている。
「あぶないわよぉ~!ほら、飴玉あげるから釣竿寄越しなさいよぉ!!」
小平師匠は棒付きのイチゴ味の飴玉を見せながらエーコに近づく。
「いやですぅ!たったそれだけじゃあ魚釣った方が沢山食べれるんですからっ!!」
エーコは釣竿を奪われまいと必死に振り回す。
「わぁかった!分かったわよぉ~っ!!じゃあこれでどう?!」
そう言うと今度はフリフリのスカートのポケットから右手一杯の飴玉を取り出して見せる。
あれほど抵抗していたエーコの動きが止まった。
「・・・チョコ一枚・・・」
ボソッと仏頂面で呟くエーコ。
「え?」
良く聞き取れなかった様子の小平師匠。
白い手袋をした左手を耳に被せてエーコの声を洩らすまいとする。
「あとチョコ一枚も付けてくれたら交換しても良いですよ。」
不貞腐れながらも駆け引きするエーコ。
「まぁ~~~~っ!!なんて意地汚い!やっぱり女ね、あんた!あたし達男はそんなハシタナイ駆け引きなんてしないわよ!」
左手首に引っ掛けていた日傘を振り回しながら聊かヒステリックにエーコを罵る。
「じゃあ私が釣りをして美味しい魚を沢山食べるだけですよぉ~!」
眉間に皺を寄せ、唇を突き出しながら、出来るだけ意地悪な顔をするエーコにイラつく小平師匠。
「なんて子!!一体どんな教育を受けたらこんな子になるのかしら!!親の顔が見てみたいわよっ!!」
白いハンカチーフの淵を噛み、悔しがる小平師匠の背後から船長が現れた。
「昼間から何を喧嘩してるのよぉ?」
濃いメークに、ノースリーブの濃紺のブラウスから太い腕を覗かせながらエーコに近寄る船長。
「あなた、どんだけ食い意地が張ってるのよ?うちの食事に不満があるの?」
濃いアイシャドウの船長の顔はエーコよりもはるかに魔女らしかった。
「・・・別に不満て程じゃないんですけど・・・私にはちょっと少ないかなって・・・」
万年『育ち盛り』のエーコの食欲を満たすのは相当量の食料が必要であった。
「とにかく釣竿をこっちに。」
有無を言わさぬ迫力の船長に、流石のエーコも渋々釣竿を手渡すのだった。
「年上を労わってあげないと後どんだけ生きられるか・・・」
優しくエーコを諭す船長の背後で小平師匠が切れた。
「ちょっと、あんたも私と大差ない年齢でしょ!!人を老人扱いして!!良いわよ、見てなさい!巨大鯨釣って船を沈めてやるっ!!」
折角のお洒落なドレスもドスドスと蟹股で甲板を歩いてゆく今日の小平師匠には不釣合いに見えるのだった。
「助かるわぁ~。これで食費が浮くわねぇ~。」
ペロリと舌を出し、エーコにウィンクしてみせる船長。
『どうでもいいけど、この星の性別は私の星とアベコベで気持ち悪いですぅ。』
男装の魔術師エーコは密かに思うのであった。
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