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R童話-やんわり-情景童話

飛び立とうとした一匹の小さな鳥-朝

作者: RYUITI

 秋の訪れを感じる風が、

人間社会にそわそわと吹いている頃。

一匹の鳥は自分の巣の中から外の世界を見て、とてつもなく興奮していた。


「これから大空に羽ばたくぞ、高く高く飛び立つぞッ」と。

大きく叫び思いを募らせて。



巣の上に足をかけた瞬間、

いよいよ身体が蒸発しそうになる程熱くなってくるのを感じて、

早く翼を開きたくなる衝動を抑えているせいで、翼はプルプルと震えている。


巣の上に乗って正面を見た時、

飛び立とうとする鳥は、


自らの目の前に広大な景色が広がっているのを見て衝動的に、

大きく翼を広げてそのまま外へと羽ばたいてしまった。


宙に浮かぶ自らを見て、飛び立とうとしていた一匹の小さな鳥は、

「やったぞおおおおっ!!

ついにオレは巣から大きな世界へ飛び立ったんだ! 」

と喜びの声をあげた。



けれど間もなく、

バタバタと動かしている翼は、

うまく使えていなかったようで、

ストンッと地べたに生えている雑草のに落ちてしまっていた。


鳥は地べたへと落ちても、

自らが飛んでいると思い続けていて、

「おおお!ちょっと飛んだだけなのにもう遠くへ来たみたいだ! 」と、

興奮はさめることも無くさらに上がっているようだった。



しばらく翼をバタつかせていた鳥は、不自然なほどの安定感と

一向に変わらない景色に少しだけ疑問を持ち、

なんとなく翼をバタつかせるのをやめたのだった。


けれど自らがとうの昔に地へと落ちている事など考えもしない鳥は、

バタつかせるのをやめてからも景色が変わらなかったので、

(おおお!オレは翼を動かさなくても空を飛べるのかッ! )

と思って少し得意げなまま地べたにとまったままだった。


気分が高まったままの鳥は、

時間が経つにつれて、夜風の冷たさと共に少しずつ気分が冷めていき。


陽が落ちて、

身体に当たる風がとても冷たくなってきた頃、

鳥は、自分は飛び立ったわけじゃなく、

落ちてしまったのだという事に気付いてしまった。


何故落ちたのかわかっていない鳥は、

必死に翼に力を入れようとしたが、

その感覚さえもわからなくなっていて、

翼に力を込める事が出来なくなっていたのだった。


そうして、

辺りが真っ暗になった。


巣の中で過ごす夜と飛べもせず、

動けもしないまま迎える夜とでは大きな違いがあって。


寒さに晒されながら、

ゆっくりと過ぎていく時間が鳥にはとても、

とても、もどかしくて。


このまま死に往くのかとさえ思った。




鳥はハッとして気が付くと、

世界は朝を迎えていた。


自らの視界が暖かく眩しい光によって覆われている事に驚いて大きく声をあげて叫ぶ。

「な、何だ……! オレはまだ死にたくないんだよおおお」


小さな一匹の叫びが太陽に届くはずも無く。

鳥にとっては気の遠くなるような時間を光によって覆われていた。


どれだけ怯え怖がったのかわからない。


ただ、光が無くなった今言える事は、

まだ鳥は生きているという事。




寒さによって体の感覚が無くなった鳥は小さく嘆いた。

「じきに、そうも言ってられなくなるのかな」と。



視界がゆらゆらと揺れる鳥は悔やむ。

(ああ……早く皆が居る場所に行きたかっただけなのになあ。 )


そうして、静かに鳥の意識は沈んでいった。




――。

――――!

――――――。



いつの間にか白い手の中に抱かれている鳥は、


元居た場所から静かに遠ざかっていく。



【おしまい】












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