六話 私、働きます!
家(倉庫)を出て賑やかな町を抜け、少し行ったところの小さい村に僕たちの仕事場がある。
元は剣道の道場だったらしいが、塾生が集まらなく潰れたところを周りの土地と一緒に買い、増築したのちに僕たちの仕事場として生まれ変わった。
扉を開ける前に、琴が変化を解き元の姿に戻る。それを確認してから扉に手をかけ開ける。
「天城 悠、入ります!」
「琴、入ります!」
道場と同じ挨拶で入り、木が黒く変色した下駄箱に草履入れる。結月には、来客用の綺麗な下駄箱に入れるよう指示した。
玄関を上がると、左右に床まで伸びた抹茶色の暖簾がかかった入口があった。 左の暖簾には白で『依頼』と書かれ、右の暖簾には何も書かれていなかった。
僕たちは、左の暖簾をくぐり
「頭領、ちょっと相談が……」
中では、頭領と女性が話し込んでいた。 女性が言ったことを筆でメモを取りながら聞いていた。 頭領はがたいが良く、着物の上からでも筋肉があることを確認できるぐらいあり、髪を短く切り、あご髭を生やし頼れる兄貴みたいな人だ。 対する女性の方は、髪を後ろで一つに束ね、なにかと周りをきょろきょろいて落ち着かない様子だった。
「おっ! 天城と琴、いいところに!」
頭領が僕たちを手招きいて呼び、依頼主である女性に紹介する。
「この二人が今回あなたの依頼を受ける天城と、琴です」
僕だけ背中を叩かれ、少し咳き込みそうになったがなんとか堪え、二人揃ってお辞儀をして挨拶した。
その後、報酬金の話をして依頼主は帰っていった。
「頭領、仕事の前に少しいいですか?」
「あぁ、かまわないぞ。何だ? 嫁が欲しいのか?」
「違います。結月、ちょっとこっち来い」
仕事の邪魔をしないように入口のそばに移動していた結月が、小走りで僕のもとにやってきた。
そして、結月の頭に手を置き
「この子をここで働かせてあげてほしいのですが……」
「お前、いつの間に琴との子供を……どっちが誘ったんだ?」
嫌な笑顔を浮かべ茶番を始めようとしていた。
「わ、わたしが……」
琴が耳まで真っ赤にして手を上げようとするところに、手刀を入れ黙らせた。
「そうじゃなくて……もうお前、自分で言え。僕はもう疲れた」
結月の背中を押し、前に出す。
「あ、あの私、結月 花と言います。 おなかいっぱいご飯が食べたいです! ここで働かせてください!!」
緊張しながら、言いたいことだけを素直に言い腰を九十度曲げて頼みこんだ。
始めはポカーンっとしていた頭領が、ガッハハハハハハっと豪快に笑い
「飯を腹いっぱいに食いたいか!! いいぞ、嬢ちゃん! 気に入った、ここで働け!」
大きな手で結月の頭を力強く撫でる。 撫でられるたびに頭がぐわんぐわん動き、目が回りそうに見えたが撫でられるのがくすぐったそうに笑っている。
「さて、働いてもらうからには制服に着替えてもらわないとな!」
結月の首根っこを掴んで持ち上げて奥に連れていく。 結月も、特に暴れることもなく大人しくしている。
……頭領、その持ち方なにかと問題がありますよ。




