四話 結月の過去
「はい?」
確認のためか結月が聞き直してくる。
「いやだから、どうして倒れていたのか説明してくれ。 親はいないのか?」
僕もまた質問を繰り返すと、琴がまた机から身を乗り出して興奮ぎみに言った。
「そうですよ! まだ悠だったからよかったものの……もし変態さんなら今頃、花ちゃんは裸にされてるよ!」
「花ちゃん可愛いから絶対そうなってたよ、ねっ!」 っと僕に同意を求めるように顔をこっちに向けてきた。
裸にされたかどうかは置いとくとして、確かに結月は可愛いと思う。 手に収まりそうな小さな顔に、大きな黒い瞳、高くはないが整った鼻。 町で出会ったら二度見してしまうかもしれない。ただ、恋愛対象には入らないかなぁ。
僕は、年上で包容力のある人と付き合いたい! そして、甘えたい! 抱き付きたい! なでなでされたい!
「……顔がふにゃーってなってるよ、悠。そんなに花ちゃんが好きなの?」
口を尖らせちょっと拗ねた仕草をしながら悪態をつく。
「可愛いとは思うけど、僕は年上の女性がいい!」
最後は力強く答える。
「それって……つまり、わたしのことが好きってこと!!?」
年上が好きとは言ったが、「お前は千年ぐらい生きてるだろうが!」 っとつっこみたいが、あとが怖いので思うだけにした。 だが、なにも言わなかったことを「琴のことが好き」だと勘違いし、一人でキャーキャー騒いでる。
うぅむ、話が進まない。 原因は僕みたいだけど……。
ちなみに結月は、自分の胸の大きさを確かめ「裸に……」、「こんなに小さいのに……」っとブツブツ言ってる。
……こいつらめんどくせー、とりあえず放置する方針で。
五分後……
「二人とも落ち着いたか?」
「はい、なんとか……」
「はい、なんとか……」
二人して恥ずかしさのあまり顔を赤くし、頭を搔いていた。
「それじゃあ、結月の昔話をはじめてくれ」
「そうですね、では、はじめましょう! えーっとむかーし、むかし……」
けっこうノってくるな。将来が楽しみだ!
「……この出だしだと話しにくいですね。普通に話します」
諦めも早い!そして、この時間いらない。
「私は生まれてすぐ母親と父親を失い、お寺で過ごしてました。お寺には、私みたいな両親を失った子とか、出稼ぎで親がいない子とかが多くいました。 毎日お寺の掃除をやったり、畑に出て作物を育てるとかして暮らしてましたね。 自給自足の生活です」
ここまでは普通に生きてる。でも……
「ですが、子供が増えすぎて毎日おなかいっぱいご飯が食べれなくなり、私はお寺を出ました」
あまりにも予想外のことが分かり一瞬固まる。
「ん? ちょっと待って、寺がつぶれたから出てきたんじゃないのか? ごはんのために出てきたのか?」
「はい!」
即答かよ!
「それでも、一日二食は食べれましたが、私は三食ほしいです! だから出ました!」
バカすぎて何も言えない……寺から出ても三食、食べられるか分からないのに……
最悪の場合、一日何も食べない日もあるかもしれないのに。 もしかしたら、死ぬぞ。
「ちなみに、聞くけどお寺から出て何日になるの?」
お! 良い質問だぞ、琴。
「えーっと……」
指を折りながら数えている。手がグーからパーになり、またグーになる。そして指を三本立てて
「三年ですね」
今のグーからパーのやりとりは、なんだったんだよ!!
「よく、今まで生きてこれたねぇ」
いや、お前も違う! 確かにすごいけど、つっこみどころ違う!!
一人で頭を抱えていると、パンっと手を叩いた。
「さて、今日はもう遅いから、寝ましょうか。 花ちゃんのお布団も出しますから、お風呂に入ってきてください」
あれ? もう終わり? つっこみたいけど、だめ?




