最終話 おかえり、そば娘
あのあと、結月が死んでから天狗が舞い降りてきた。 僕との闘いの一部始終を見ていたという。
このことは天狗が、妖に報告すると言って結月の死体を連れて去っていった。
それから一年が経とうとしていた。
天狗のおかげか、妖による被害はほとんどなくなった。 向こうも自分たちのやってきたことに、負い目を感じているのだろう。
そんなことを思いながら今日の仕事を終えた。
「お疲れ様でした!」
頭領に挨拶してから天文を出た。 琴は夕食の準備と言って先に帰った。
外はすでに暗くなって、満月が綺麗に輝いていた。
「最近飲んでないし、これを肴に飲みたいなぁ」
と僕の気持ちを裏切るように一人の少女が倒れていた。 空色の着物に白の刺繍が施された、どこかで見たことのある着物を着ていた。
「頑張って生きろ!」
手を振って一方的に別れを告げる
「初めてと変わってないですよ!」
結月が顔を上げて講義してきた。
「冗談だ。 そば食うか?」
「食べます!」
その場で飛び跳ねて答えた。
結月の顔もあってか、営業が終わってるはずの『長谷川そば』でそばを啜っている。
老夫婦も結月の顔を見た時は、目に涙を浮かべてよろこんでそばを打ってくれた。
結月が死んだ、ということは天文ないだけの秘密になっていて、「町の人には別の町に行った」と嘘の情報を流している。
そのおかげで、あの老夫婦も変な混乱しなくて済んだ。
「つまり、神様が生き返らせたってことか?」
「だから、違いますって! 生き返ったのではなく、精霊として生まれ変わったのです!」
結月が言うには、あの世に行ったときに閻魔様と一悶着あったらしい。 そこで裁判というものが行われて生き返ることになったわけだ。 しかし、反対の声も多いことから人としてではなく、精霊と生き返るという条件がついた。
あの世での精霊の位置づけは死者だという。 理由は、聞いた結月が忘れたというから、僕は知らない。 いつか神様にでも聞いてみるか。
「というわけで、私は精霊になったのです! この説明もう二回目ですよ、頭悪いんですか?」
「実際に起こると信じられないんだ。 あと目上の人に対して、なんてことを言うんだ!」
「いえ、経験では私の方が上です」
「経験じゃない、歳の話をしている!」
「だったら奢ってくれますよね!」
僕の返答も待たずに、そばのおかわりを頼んだ。 厨房から、二人のうれしそうな声が飛んできた。
なんだろう……僕はハメられたのか?
あの世で変な知識でも詰め込まれたのではないか?
そんなことより、お金あるかな……。
結月にバレないように懐から財布を取り出す。
大丈夫なはずだ。 今月はけっこう仕事したぞ。 だからあるはずなのに、なんで入ってないの……?
慌てて頭の中に残っている記憶を呼び出すが、昨日までの事しか出てこなかった。 しかし、求める答えは出てきた。
そっか……、今日の夕飯の買い出しするからって琴にお金のほとんど取られたんだ……。
あぁ……、ついさっきのことだったなぁ……。
「お金ないんですかぁ?」
ニヤニヤと馬鹿にしたような笑みを浮かべて、僕の手元を見てくる。
「何を言ってるのか分からんな! だから、もうおかわりするなよ!」
「いやいや、ごちそうになりましたね」
「本当にいい人たちでよかった……」
そばも食べ終わり勘定を払おうとしたら、「いらない」と言われた。 こんなにおいしいものを食べたのに何も支払わずに帰るのは気が引けるので、気持ちだけでもと払おうとしても「営業外だからいらない」の一点張りで、結局何度もお礼を言って店を後にした。
ご飯をいただいたこともあって、すっかり時間が経ってしまった。
きっと琴は怒ってるんだろうな……。 なんて謝ろう……。
悶々と謝罪の言葉を考えながら、帰路についたおかげで気がついたら家の真ん前に来ていた。
そぉっと門を開けると、琴がお玉を片手に仁王立ちで待ち構えていた。
「なにか言いたいことは?」
「その……結月が、帰ってきました」
少し驚いた顔を見せたが、すぐに怒った顔を作り直した。
「悠だけ、入って来なさい」
僕の名前を要らないぐらい強調して、僕だけが門を潜った。 そして軽く怒られた。
説教が終わると、すぐさま玄関を開けて結月に抱き付いた。
「花ちゃん、おかえり」
玄関前でオドオドしていた結月は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔を作ると抱き返した。
「ただいま、琴さん、天城さん」
おかえり




