四十六話 死にたい理由 前篇
全身が痛い。
結月にボコボコにされて。
心が痛い。
かつて一緒にいた子と殺し合ってて。
結月は人を傷つけた。 すぐに神様が討伐依頼を出すだろう。
しかし、結月は本当に人をきずつけたのだろうか。 切り合う前に結月が言った言葉、あれはまるで死にたがってるように聞こえる。 それに打撃ばっかで、殺す気がまったくない。
なぁ、今おまえはどんな気持ちなんだ?
どんなことを考えているんだ?
結月と距離を取ると刃先に炎を集めて炎の槌を作り、地面に叩きつけた。
振動が炎の波になって、結月を襲う。
結月は大きく跳んで上空から僕を襲おうとしている。
すぐさま槌にした炎を剣先に集め特大の火球を作り出すと、打ち出した。
空中にいるため避けることができない結月は、身体を縮めて腕を交差させて火球を正面から受けた。
大きな爆発に吹っ飛ばされた結月の身体が光ったと思ったら、突然回転して着物に付いた火を消して、よろけながら地面に足をついた。
「効いただろ?」
「なんの、ことですか、まったく」
息も絶え絶えに強がっている。
「逃げてもいいんだぞ」
「そっちこそ、逃げても、いいですよ。 私は、傷を、治せますからね」
確かに傷を治せるのは便利かもしれないけど、別に痛みを感じないわけではないだろう。 今の結月を見ても分かる。
平静を装っているが、目が虚ろになっている。 もう立っているのがやっとだろう。
「少し話そう」
刀を地面に突き刺し、胡坐をかいて座った。
「その、必要は、ないです!!」
刀を引きずりながら、走るもつまずいて転んだ。 短い呼吸を何度も繰り返しては咳き込んでいる。 呼吸が明らかにおかしなことになっている。
立ち上がり結月に手を差し伸べた。
結月は差し伸べられた手を見ると、キッと顔をしかめて刀を振るった。
手を引くのが遅れて少し切れてしまった。 血がにじむ。
「なに、優しく、しているのですか。 私は、殺されるべき、妖なのですよ。 はやく、殺してくださいよ」
地面に倒れながら言った。 言われた。
「殺してください」
と。
「……そんなに死にたいのか?」
「……死に、たいですよ。 死なせて、くださいよ……、お願い、しますから……」
正真正銘の自殺希望者だ。 いや、自殺ではないな。
「だったら、自害すればいい話だ」
言葉を発する代わりに、唇を噛んで答えた。
「怖いか、自分で死ぬのが?」
一筋の涙を流して頷いた。 それからポロポロと話し始めた。
「私のお母さんは、鬼姫と呼ばれる妖の王様でした。 当然、その娘である私はその跡を継がされました。 それからというもの、ひどいものでした。 人間を殺せ、人間を恨め、鬼姫様の仇討、と人間に対して攻撃的な事を言う妖ばっかで、それをすべて私に押し付けたのです。 母の敵を討て、妖の生活を守れ、と言いたいことだけ言って後は知らん顔ですよ。 私は完全な妖ではないので、死んでもいいと思っているのですよ」
「あの鬼もそうだったのか?」
「あの鬼? あぁ、炎鬼のことですか。 炎鬼に限らず、鬼はいい人たちばっかでしたよ。 本当に良くしてくれました。 きっとあの人たちがいなかったら、ここに来ることもなかったと思いますよ。 最低でも、鬼たちの生活だけでも良くしたかったっと思うぐらいですもん。 それもできなさそうですけどね」
力なく笑った。
「人を切ったのは嘘か?」
「……嘘ではないと思います」
「思います?」
「切った記憶がないんです。 私が剣術の練習をしていた時に四人組の男たちが現れて……、私を犯そうとしました。 何度も『やめて』と言っても、男たちは笑いながら私を倒して着物を破り、私の乳房を触ってきました。 そこから記憶がないのです。 気がついたら焼死体が一体と首がない死体が三体転がってて、私は血まみれで立ってました……」




