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三十六話 貯金箱

 天文主催の祭りを終えて、天文はいつもと変わらない日常を送っていた。

 

 「天城さん、今日は仕事ないんですか?」

 

 給仕の制服である抹茶色の着物を着て、僕と琴の二人分のお茶をお盆に持ってきた。


 「熱田さんは、知らない人と出かけたみたいですけど……。 仕事しないんですか?」

 「する、しないの問題じゃなくてな、仕事がないんだ」


 僕たちの仕事は依頼者がいて、はじめて機能する。

 依頼者が頭領と依頼の話をして、頭領が適任者を指名することで僕たちは飯を食っていける。

 当然、依頼者がいなければお茶を飲みながらのんびりするしかない。

 しかし、固定の仕事を持っている人もいる。

 その一人が熱田である。

 熱田は天文で唯一の弓使いだ。 それも先生を憑かせることで百発百中の腕を見せる。

 そのため、地元の狩猟団体と狩りに出ては手伝いをしている。

 報酬もいいもので金銭の他に肉がもらえるみたいで、実に羨ましい。


 「神様からの仕事もないんですか?」

 「そっちも話は入ってないね」


 乾いた笑みで琴が答え、僕はお茶を啜る。

 のどかですねぇ。

 

 「大丈夫なんですか?」

 「いざとなったら、結月の給金を頼りにします」

 「なぁに冗談言ってるんですか。 やめてくださいよ」


 僕の肩を叩いて笑うが、結月しか笑っていない。


 「どういうことですか?」


 笑顔を崩さないまま聞かれるが、僕は琴と目を合わせ二人同時に無言でお茶を啜る。

 のどかですねぇ。

 

 「先輩、私の給金っていくらですか!!」


 僕たちの元から離れて急いで先輩に聞きに行った。

 本当にのどかですねぇ。 



 

 「お疲れ様でした」

 僕、琴、結月、三人そろって天文を出た。

 結局、夜になっても仕事は入ってこなかった。

 こんな日がちょくちょくあるから、生活が安定しない。

 貯えはまだあると思うが、三人の食事代となるといつ尽きても不思議じゃない。

 結月の世話になるまえに節約しないと……。


 「それで、結月の給金はいくらなんだ?」

 「言わないです! 絶対に言わないです!」


 耳を塞いで先に行ってしまった。

 昼からずっと聞いてるが、「言わない」の一点張りで何も答えてくれない。


 「どのぐらいだと思う?」

 「そうだね……」


 琴は口に拳を当てて思案する。


 「わたしはたちが、二、三回仕事すれば追い抜けるぐらいの金額じゃない?」

 「それって結構、貰う……?」

 「貰うかも……。 それに収入が安定してるから、総合的に見ると経済力は花ちゃんの方が上かも……」

 「今更、家賃貰うなんて言ったら怒るかな……」

 「それは、いくらなんでも大人気ないんじゃない……」


 二人して沈黙してしまう。

 僕たちより年下のくせに経済力では断然上にいる結月に嫉妬を覚えてしまう。

 だが、しかしこれにより一つの答えが導き出される。


 「これからも、結月は大切にしないとな!」

 「これからも、花ちゃんを大切にしないと!」


 琴と声が重なってしまった。 しかし、琴も僕と同じ答えに行きついたみたいだ。

 目を合わせ、手を握り合うことで意思を固める

 これからも、貯金箱の結月を大切にしないとな!

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