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三十三話 祭り

 あっという間に十日の時が過ぎ、とうとう今日から祭りが始まる。

 昨日から頭領の指揮の元で設営が進み、後は夜になるのを待つのみだった。

 しかし、僕こと天城と琴、熱田それと先生はこれから準備を始めることになっている。

 僕たちは花火をやることになっているので、昨日の夜のうちに雨に降られるとだ雨で湿気ってしまいだめになってしまう。 そのため、祭り当日に準備することになっている。

 設置するところは、天文から少し離れている河原に設置する。

 そこまで、男性成人と同じぐらいの大きさの筒を大きな荷台に乗せて男ふたりで運ぶ。

 数は十五砲もあり、かなりの重さだ。

 正直なところ馬か牛に()いてもらいたいが、天文が飼っている家畜はいないからどうしようもない。

 ひいひい言いながら荷台を牽いて河原に着くころには男二人は汗だくになっていた。

 ここを選ぶのはまわりに火が移ることもないし、人も立ち入りも簡単に制限できる。


 「じゃあ、天城そっち頼むわ。 それと先生は、琴さんにこれを教えておいてくれ」


 左側を指差して指示した後、懐から花火の発射する順番が書かれている紙を先生に渡すと、少し顔をしかめてから食い破らないように甘噛みして琴のもとに駆け寄る。 ……汗臭かったのだろうな。

 それはそうと毎年、花火の火付けは熱田ではなく琴の仕事になっている。

 琴は火を自在に操れるという理由で熱田に頼まれたことが始まりで、これ以来ずっと琴がやっている。

 先生から紙を受け取ると、荷台に腰かけて注意深く読み込んでいく。

 僕も仕事しないと……。

 荷台から抱えるように筒を持ち、がに股で指定の場所に設置する。

 まずは石をどかして平地を作った後、筒を置き石でまわりを固定する。

 この作業を後六回もやらないといけない。

 ふぅ……先は長い。

 それと言うまでもないが、荷台に座っていた琴は筒がなくなり重心が変わったことで、滑り落ちた。

 


 

 さて時も過ぎ夕刻になると、祭りも本格的に始まりみんなが騒がしく動き始める。

 なかでも、手打ちそばをやる給仕さんたちが一番慌ただしくしている。

 広告を配る班と宣伝班がいろんなところに回って宣伝したおかげで、すでにすごい客が並んでいた。

 もちろんそばを打つのは結月ただ一人だ。 この数を一人でさばくのは厳しいだろうが頑張ってくれ。

 心の中で応援して僕と琴は祭りを楽しくべく、あたりをぶらぶらし始めた。


 「浴衣着てきてよかったね!」


 河原での作業が終わってから一旦着替えに家に帰った。 その時に「せっかくの祭りだから……」と赤い生地に色とりどりの花が描かれている浴衣を出してきた。


 「そうだな、せっかくだしいいんじゃないか」

 「悠も……」


 そっと灰色の甚平も出した。

 僕もか……、今着てるのも汗でべたべたするし着替えるにはちょうどいいかもしれない。

 それに浴衣姿の琴も見たいし……。


 「ん、分かった。 それ貸して、今着替えるから」


 琴のとびっきりの笑顔を見ながら、甚平を受け取り着替える。

 着ることはさほど苦労しなかったが、琴の着替えにはちょっと時間がかかった。

 普段、帯を巻くような服を着る機会がないためか帯締めに手間取った。 僕も手伝ったが本を見てもよく分からず、ああでもない、こうでもないと苦戦した。

 それでも、なんとか綺麗に巻くことができ今に至る。


 「秋になってもまだ暑いからな」


 カランコロンと下駄のいい音を響かせながら出店をまわる。 主に食事系の出店が多く、至る所からいい匂いが漂ってくる。


 「ねぇねぇ、悠なに食べる? 花ちゃんのところには、後で行くとしてなに食べる? 焼きとうものろしがいいの? 焼きとうもころし? ん、どっちだっけ?」


 祭りの気にやられて興奮している琴に引っ張られながらも楽しくまわった。 酒を片手にイカを食べたり、輪投げで熊の人形を手に入れたり、矢場(やば)という射的場でほとんど的に当たらなかったりと本当に祭りを楽しんだ。

 一通り遊んだ時には、もう日が落ちてさらに人が増えてきた。


 「そろそろだな。 結月のところに顔出して、花火の最終点検しにいくか」

 「そうだね、熱田さんにもずっと準備してたもんね。 なにか持ってった方がいいかな?」


 筒を設置し終わったら、「後は俺がやる」と言って河原に残って作業してた。

 今もずっと整備とか、打ち出した衝撃で筒が倒れないようにしたりとか動いてるのだろう。


 「そんなの、琴があいつの手を握ってお疲れ、て言えばいいよ」


 どんな食べ物を持っていくよりも喜ぶし、元気になるだろう。 

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