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三十二話 そば打ち

 店も閉店の時間になり、最後に店内の掃除をすることになった。

 私がやることになったのは、床掃除でした。

 雑巾に水を含ませ、端からは端まで余すところなく綺麗に拭きました。

 寺で毎日のようにやっていたので、もう慣れたものです!


 「花ちゃん、掃除が終わったらそば打ち教えるからそのつもりで」


 奥から顔だけ出しておじいさんが言うと、短く返事をして急いで掃除を済ませた。

 



 掃除道具を片づけて手を洗い奥の調理場に来た。

 そこには大きな木鉢と水の入った桶、さらに小麦粉の入った袋とそば粉の袋が用意して、おじいさんが待っていた。


 「教える前にそば打ちで一番大切なことを言うから、しっかり覚えておきなさい」


 こくんと頷き、一言一句聞き洩らさないように目を見て聞く。


 「そば打ちは早さが大事だ。 ゆっくり打つと生地が乾いて切れちまう」 


 いいか、と聞かれ首を縦に振って答えた。

 それを見てから、おじいさんは実演しながら教えてくれました。

 今夜教わるのは、『水回し』というそばの生地を作る作業でした。

 まず、そば粉と小麦粉をふるいにかけてよく混ぜ、水を入れ指を立てるようにかき混ぜます。

 その時に螺旋を描くように混ぜるのがコツだと言っていました。

 全体が均一になったら、また水を入れて混ぜます。

 この作業を二~三回繰り返すと、水が粉に浸透して色が変わってきます。

 ここからが早さを求められるようです。 ここでゆっくりやると切れる原因になるので注意です! 

 水を注意しながら入れかき混ぜていくと、粉がボロボロの小塊になり水が十分にいきわたると自然にまとまります。

 そして、塊の表面に粉っぽさがなくなれば完成です!

 聞く限りそこまで難しく聞こえないですけど、実際にやってみると難しすぎます。

 粉の色を変えるまではできましたけど、そこからがまったくでした。

 水を入れすぎてべちゃべちゃにしたり、慎重にゆっくりやってると時間がかかりすぎと怒られたりとうまくいきません。

 結局、今夜は生地を作ることさえもできずに終わってしまいました。

 本当に十日でできるのか、不安になってきました……。




 夜の特訓も終わりおじいさんとおばあさんに見送りされながら、天城さんの家に帰ろうとしたけどこのままでは祭りに間に合わないかもしれないという不安に駆られた。


 「あ、あの……明日から住み込みで教えてもらえないですか……?」


 ふたりは顔を見合わせて、目で会話すると承諾してくれました。

 けど条件として、家主……ここでは天城さんの許可がいるとのことでした。

 このことを天城さんに話すと、渋々ながら承諾してくれました。

 なにやら、熊結月が……っとぶつぶつ言ってましたが、意味が分かりません。

 では、おやすみなさい!

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