二十九話 今日も出勤
「おまえのところは何をするんだ?」
朝食を食べ終え、着替えも済ませて天文に向かう途中で興味本位で聞いてみた。
給仕はいつも餅をその場でついて、無償で配っている。
だが、今年はそば好きの結月が入ったから餅じゃなくて、そばじゃないかと踏んでいるのだがどうだろう。
「今年も餅という話だったのですが、そばやりましょう! って言ったらそばになりました!」
予想通りでなによりです。
「手打ちでやるの? それともそば屋さんからもらうの?」
いつものように僕の後ろを歩いてる琴が本格的にやるのかを聞く。
「私が打ちます!」
簡単に言うな……。 あぁいう、一見単純そうな作業ってのは総じて難しいんだ。
何度も同じことをやっては失敗して、分量を研究して研究して……やっとできるものだろ。
素人が、その場の雰囲気でやっていいものじゃないと思うぞ。
「三年も路頭に迷ってた結月が打てるのか? 今年も餅でもいいんじゃないか?」
軽く小馬鹿にしたように言うと、変な笑い方をされた。
「ふっふっふ……、不肖結月花そばのためなら努力は惜しみませんよ!」
腰に手を当て声高らかに宣言した。
「それに先輩のコネで、とあるそば屋で修行しますからその場の雰囲気でやるものではないのです!」
心の中を読み取ったように僕が思ってることを当てられた。
目を見開いて驚くと、勝ち誇ったような顔をした結月がいてむかっ腹が立った。
天文に着く前に結月が立ち止まり、天文とは違う方向を指差した。
「あ、私これからそのそば屋に行くので先行っててください」
「その」を無駄に強調して、小走りで去っていく。
「ムカつくなぁ……」
ふと口にすると琴がクスクスと笑っていた。
「悠も、まだまだ子供だねぇ。 そんなことで怒っちゃだめだよ」
「子供で悪かったな! もう行くぞ!」
ここで受け流せずに悪態をつくあたり、まだ子供かもしれない。
天文に着くとすでに多くの人が作業をしていた。 熱田も昨日と同じ奥で作業をしていた。
人ごみを掻き分け、熱田のもとに行くと熱田と先生に挨拶して鎌を持った。
昨日は、熱田と先生が喧嘩みたいなことをしてあまりいい雰囲気ではないところで作業していたが、どうやらすっかり悪い雰囲気は払拭されていた。
熱田は単純だから一晩寝たら、どうでも良くなるだろう。
それに名前もそうだが熱いやつだ。
いくら数を減らされたからと言って、手を抜くことはなく全力で取り掛かる。
そういうやつだ。
「んっじゃ琴、採取行くか!」




