二話 そば!!
「そぉぉぉぉばぁぁぁぁがぁぁぁぁ、たぁぁぁぁべぇぇぇぇたぁぁぁぁいぃぃぃぃ」
「聞いてますか? 私、そばが食べたいです!」
「そば、おいしいですよ? 本当においしいですよ! だから、食べましょう!」
「ほら! あそこ、そば屋ですよ! 行きましょう!!」
町に入ってから、ずっとこの調子で少しうるさい。
先程、道端で行き倒れの少女を助けて家に連れて帰っているところだが、周りからの視線が集まりすぎてる気がする。
この少女がうるさいこともあるが、それだけではなく僕たちの服に問題があるみたいだ。
少女の着物は土で汚れているし、僕は陰陽師がよく着る白の狩衣を着て、刀を持っている。
町を横切るのは避けた方がよかったみたいだ。
さらに町の中心に行くにつれ屋台が多くなり、においでどこかに行くと思ったけど「そば! そば!」っと僕の袖を引っ張りながら連呼し、離れる気配がない。そば以外の食べ物には興味なしか!
「そばもいいけど、名前は?」
「そば?」
「ん? みたいに言うな。名前だよ。な、ま、え」
「あぁ、名前ですか、結月 花です。あなたは? それと、そばは?」
「僕は天城 悠。そばはない。」
「でも今更ですね自己紹介なんて、もうしたとばっかり思ってましたよ。 あと、そばがないってどういうことですか。」
「結月がそば、そば連呼してたから、そんな暇がなかったのが原因だ。 それと、今はそばの気分じゃない」
「おなかが空いててつい……すみません。 天城さんの気分なんて知らないです」
「もう少しで家だからそれまで辛抱な。 結月はお茶漬けだ」
そのあともぶーぶー文句を言ってきたが、結月にそばを食べさせる気にはならなかった。
町の中心部から少し離れた所に僕の家はある。
「着いたぞ」っと少し大きめな倉庫を指さしながら言った。
「天城さん、冗談はやめてくださいよ。そのとなりの大きな家が天城さんの家でなんでしょ? 意外にお金持ってるんですね!」
笑顔を見せながら僕の顔を覗く。
「いや、こっち」
まったく指を動かさず即答した。
「……うそですよね?」
結月の笑顔がひきつる。気持ちは分からないわけではないけど、これが現実だといわんばかりに、大きな扉にかけられている南京錠を外し扉を開ける。
「こっちが僕の家だ」
結月はその場で膝を折り、両手を地面につきうなだれた。
玄関(扉)を開けて、すぐ短い廊下がありその右に厠と風呂、左には台所がありその奥には畳の居間がある。
「すごいですね! 見た目は倉庫ですけど、ここまで改装するなんて! やりますね、天城さん! まさか窓ま……で……?」
居間まで走っていった結月がピタっと止まった。
居間には巫女装束を着た女性が丸まって眠っていた。ただの女性なら愛人か! っと納得するかもしれないが、髪が黄色で腰あたりまで綺麗に伸び、頭には黄色の耳がある。さらには先端が白い大きな黄色のしっぽが!
それはまるで、狐の耳としっぽが人間に生えているようだった。
「あ、天城さん!! あれは! あれはなんですか!! 妖怪ですか!! お札はありますか!!」
「落ち着け、慌てすぎだ! あれは僕の相方で、妖怪じゃない!」
「いや、でもほら! 耳が! 耳がここに!」
両手を頭に持っていって、ぴょこぴょこと手で動物の耳の動作をする。
「あぁ、妖怪じゃないけど、人間でもないからなぁ」
「お札ああああああああああああああああああああああ!!!」
叫びながら居間をぐるぐる回り騒いだため、狐耳の女性が目をこすりながら起きてしまった。
「ん……んん、なにー?」
「ごめん。起こしちゃったな」
相方のそばに座り、謝る。
「いいよぉ。それより、おかえりなさい」
まだ寝ぼけているのか、間延びした声で挨拶してきた。
「うん、ただいま」
「ところで叫びながら走り回ってるあの子、誰?」
「あぁ……、名前は結月 花っていって、道端で倒れてたから拾ってきた」
「倒れていたって……大丈夫なの?」
「お腹空かせて倒れてたみたいだから、ごはん食べさせればいいだろう」
「じゃあ、今すぐ準備しようか?」
立ち上がろうとする相方の頭に手を置き座らせると、きょとんとした顔で僕を見上げた。
「いいよ、まだ寝ぼけてるだろ。ゆっくりしてて」
とりあえず、結月を飯で落ち着かせ、説明に入るところから始めますか!




