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二十八話 まるで熊のように

 「おーはよーございまーす! 朝ですよー! 起きてくださーい!」


 昨日の夜、あんなに暗い話をしたのに結月はいつもと変わらない調子でいた。

 適当に返事をして布団を被る。


 「なんで、そんなに元気なんだ? 昨日の夜のことだぞ。 普通落ち込んでるもんじゃないのか?」


 布団の中からもごもごと今の結月の心境を探る。


 「んんー、普通はそうなんでしょうが、私は元気に振る舞いますね。 一緒に落ち込んでも気分なんてよくなりませんよ。 だったら、その人が呆れるほど元気に振る舞って落ち込んでるのが馬鹿らしいと思わせます!」


 なるほど……。 本当に落ち込んでるのが馬鹿らしく思えてきた。

 まさか本当に力になってくれるとは……。


 「だから早く起きてください! ごはんが冷めちゃうじゃないですか!」


 布団の中で感心していると、布団を引きはがされた。




 さすがに神無月にもなると、朝の寒さが身に染みる。

 そそくさと食卓につくと、淹れたあったお茶に手を当て暖を取っ手から、箸を手に取り朝食を食べた。

 朝食はいつも変わらず白米に魚の塩焼き、そして漬物の三点と決まっている。

 これらすべて、琴が用意して作ってる。 結月はその手伝いだ。

 琴の話によると、よく動いてくれて、魚を捕るのがうまいらしい。 おかげで、その分の代金が浮いたとうれしそうに言っていた。

 確か、寺を出て三年になるとか言ってたから生きるために自然に身についた技術なんだろう。

 ……となると、手づかみで取ったんだな、この魚。

 焼き魚の身をつつきながらぼんやり思った。

 僕の家にはモリも竿もない。 それに結月と初めて会ったとき何も身に着けてなかった、となるとやっぱり手づかみだな。

 ……熊のように

 

 「ぶっ!」


 突然吹きだした僕を琴と結月が同時に見た。


 「どうしたの、悠? 魚の骨でも刺さった?」

 

 心配そうに琴がお茶を勧める。


 口を手で抑え肩をぷるぷる震わせながらも、手を振り大丈夫と伝える。

 ふぅ、熊のように魚を捕ってる結月を想像したら思わず吹いてしまった。

 川の流れに沿って泳いできた魚をビタンっと横から叩いて、岸まで放るところは自分でもよく想像したものだ。

 熊結月現る……。

 明日、早起きして熊結月の漁を見に行こう。

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