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二十七話 友達

 今日は帰ってすぐ寝ようとした。

 でも、頭の中が変にぐるぐるしてまったく寝付けない。

 結月は疲れているせいか、布団に入るとすぐに可愛い寝息をたてて寝てしまった。

 

 「ねぇ、悠? まだ起きてる?」

 「うん、起きてる」


 天井を見ながら答えた。 横目で見ると琴はこっちに身体ごと向けていた。


 「熱田さんのことは無理でも、わたしたちのことは話していいんじゃない?」


 僕たちのこと、か……。


 「僕はあまり話したくない。 まだ結月と会って一週間も経ってないんだぞ。 友達でもないし、ましてや恋人でもない。 まだほとんど他人みたいな関係だ」


 琴は少し悲しそうな顔をして何も言うとはしなかった。

 しばらくの沈黙の後、僕はさらに続けた。

 結月に言いたくない、もっともらしい言い訳を。 逃げ道を。


 「結月が何に喜ぶのか、何に怒るか、何が好きのか、何が嫌いなのか……。 僕は何も知らない。 だから話せない。 同情されるだけだ……」


 再び目を閉じて寝ようとすると、琴と反対の方から声が聞こえた。

 

 「私は、そばが大好きで、友達ができた時に喜んで、そして……仲間外れにされることが大っ嫌いで怒ります。 だから他人なんて言わないでください。 確かに天城さんに会ってまだそんなに経ってませんけど、会ってからずっと一緒だったじゃないですか。 それでも天城さんは、まだ私を他人って言います?」


 僕の他人と友達との間の線引きはなんだ? ずっと一緒にいれば友達? その人を全く知らなかったら他人?


 「天城さんは、私と一緒にいて楽しくありませんでした? 私は楽しかったですよ」


 一緒にいて楽しかった?


 「一緒にいて楽しいと思えれば、もう友達ですよ」


 楽しいと思えばもう友達……


 「もう天城さんとは友達だと思ってます。 だから天城さんが何を抱えているのか知りたいんです。 力になりたいんです。 天城さんが私を助けてくれたように、私も天城さんを助けたいんです」


 力になりたい……、僕を助けたい……。

 もうその気持ちだけで十分だ。


 「悠、いいんじゃない? 話しても」

 「……そうだな」


 起き上がり結月に感謝の一言を言った。


 「ありがとう。 肩の力が抜けたよ」


 結月も起き上がるとニっと笑った。




 僕は布団の上で話した。

 僕が琴と会ったことと、会うためにしてきたことを。


 「前に、琴は森の神様って言ったの覚えてるか?」


 覚えてると頷き肯定した。


 「普通、人間はどんなことがあっても神様に会えない。 だけど一つだけ例外がある」


 ここで一息つく。 これが僕が責任を感じる一番の原因……。


 「その例外は、自分の両親の霊に案内してもらうことだ」


 やはり心が痛い。 ズキズキする。


 「両親の霊は、人と人じゃない者を引き合わせる力があるらしい。 それを使って僕は琴と会って、契りを交わした」


 「そこまで深刻そうな事じゃないような気がするのですが……」


 少し言いにくそうに思ってることを言った。

 ここだけを聞けば、別に人に話したくならないほどの問題もない。


 「今言ったのは結果論だからな。 そこまで深刻じゃないんだよ。 問題なのは過程だ」

 「過程……ですか……」

 「さっきも言ったけど琴は神様だ。 その神様が、格下である人間と契りを交わすことまずない。 そもそも契りっていうのは、同等な立場になるって意味合いが大きいんだ。 それなのに琴は僕と契りを交わして神としての格を失った。 そのせいで他の精霊から迫害を受けるようになったんだ……」


 ちらっと琴の様子を見ると少し悲しそうな顔をしていた。 当時のことを思い出しているのかもしれない……。

 

 「でも、琴は森の神様だからそこを離れることは許されなかった。 離れることで森の生態系が崩れてしまうかもしれないから……。 だから、どんなに迫害を受けても我慢するしかなかった。 そこで僕は神様にどうしたらいいのか尋ねると、僕と琴を引き合わせた両親の霊を生贄にすれば山を離れることができるって教えてくれた……」

 「それで生贄に……」


 僕は頷けなかった。

 小さい頃に流行り病にかかってあっさりと死んでしまったが、それでもいつも一緒にいてくれた。

 泣いてるとすぐ駆けつけて来て、あやしてくれた。

 そんな優しくて大好きな親を僕は琴のために生贄にした。

 きっと僕を恨んでいるだろう。

 呪い殺したいと思っているのだろう。

 でも、それでも、僕は琴を助けたいと思った。


 「で、でも生贄にしたって言っても、ひどいことされるわけじゃないでしょ?」

 

 僕の行いを弁護するように言うが、僕の行いはまったくのひどいものだ。


 「生贄と言っても、ただ琴の役割をしてもらうだけだ。 でも霊は、この世に長く滞在していると悪霊になってしまう。 悪霊になってら、生前どんなにいいことしても必ず地獄に落ちるそうだ……」

 「だったら琴さんの代わりなんて……」


 口が異様に乾く。 正直もう話したくない。 辛い。


 「そうだ、できない。 だから森の神様全員の力を借りて悪霊にならないようにしてもらった。 だけど、それがだめだった。 確かに悪霊になることはないが、その寸前まではいく。 悪霊になるか、ならないかの本当にきわどいところまでいく。 そうなると、気がおかしくなってアヘンでもやってるように狂ってしまう……」

 「それ……見たんですか……」

 「始めのうちはまた両親と会えるのが、うれしくて毎日会ってたよ。 でも日を重ねるごとに言動がおかしくなっていった……。 しまいには話しかけても反応しないで、ずっと空を見上げてうなってるばかり……。 そうなってから、もう会ってない。 会うのが怖くなった」


 僕のせいでこうなってしまったと責められるのが怖くなって、僕のせいで死んだはずの両親が今も死ぬような苦しみを受けていると思うと、気が気でいられなかった。

 

 「そう……ですか……」


 なんとか言葉を絞り出すと、膝を抱え頭をうずめた。 こんな話を聞いて複雑な気持ちにならない方がおかしい。

 よくここまで聞いてくれた方だと思う。


 「他の精霊をつれてる人も、僕と同じ目に会ってる。 だからあまり深入りするのはやめた方がいい。 こんな気持ちになるのもう嫌だろ……」


 誰もこんな話、人に聞かせたくないし、話したくもないだろうから……。

 誰にも触れられたくないこともある。

 結月は力になりたいと言ったけど、現実にはもう無理なんだ。 本当にどうしようもない。

 だから、もう開き直るしかない。 両親との記憶を心の奥底に閉じ込めて、思い出さないようにして暮らしていくしかない。

 親不孝者と思われてもしょうがない。 こうでもしないと自分を保てない。

 それに、きっとまともな死ねないと思う。

 だから、そのときに報いを受けるよ……。 必ず……。

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