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二十五話 神無月

 結月を泊めることにした翌日の朝、僕は布団の中で気持ちよく寝ていた。


 「お父様ー、ごはん出来たよぉー! 起きてー!」


 聞き覚えのある声で呼びかけながら揺すって起こそうとする。

 変なこと吹き込まれたな、と思いながら微かに目を開けると結月がニヤニヤしながら揺すっていた。 やっぱりお前か!


 「いつの間にそんな関係になったんですか? 旦那さぁん、私のいないところでおもしろいことしないでくださいよぉ」


 おもしろがってやがる……。 くそ、ここまでおちょくられると意地でも起きたくなくなる。

 目は完全に冷めてしまったが、狸寝入りをすることにした。


 「むぅ……、起きませんね。 お母様ー!」


 少し離れたところから琴の甘えたような声が聞こえた。

 

 「どうしたのぉ?」

 「お父様が全然起きないのです!」

 「もうぉ、世話の焼ける夫ねぇ……。 じゃあ、妻の口づけで……」


 ばっと目を開け、左手で迫ってくる琴の顔を掴んで静止させて、空いてる右手で額を殴ると短い悲鳴を上げた。

 

 「な、殴らなくてもいいじゃん!!」


 額をさすりながら怒っている。


 「あ、あんな起こし方しなくてもいいだろ!!」


 布団に横になりながら僕も怒る。

 それをニヤニヤして見てる結月が一言。


 「これが痴話喧嘩ですか?」




 こんな朝のやり取りがありながらも今日も今日とて、天文に着いた。

 いつものように入る前に自分の名前を言って入ると、白い服をきた老人が背丈ほどある杖を突いて立っていた。


 「おぉ、天城に琴か……。 久しいのぅ。 それにその子が新しく入った子か……」

 「天城さんあの人誰ですか? 天文の人ですか?」


 この老人を見た途端に僕の後ろに隠れ、老人を警戒しながら聞いて来た。

 昨日、仕方がないとはいえ天狗にさらわれたことで、老人に対して少し警戒するようになったようだ。


 「神様だよ。 今日から神無月になったからこうして姿を現してるわけ。 この月になるといろんな神様が出雲大社に行って会議するんだ」


 ですよね、と神様に確認を取ると重々しく頷いた。

 

 「うむ! 説明ご苦労!」

 「いえ、神様にとってある意味の記念日ですから」


 嫌みったらしく言うと、あからさまに怯んだ。


 「ど、どうしたんですか!」


 結月がさらに僕の影に隠れると琴が付け足した。


 「えぇっとね、悠たちが神降ろしっていう儀式を教えてくれたのがあの神様なんだけど、聞きだしたのがうちの頭領なの。 でもね……その……聞き出し方がね! ちょっと独特というか、変というかね……」


 本人の心の傷を抉ってはいけない、と言葉を選びながら探しながら教えようとしているのを僕が横からすぱっと言った。


 「脅したんだよ。 無理に頼んできたくせに死人が出るとはなんだ!ってね」

 「わ、わしもう行くわ。 じゃあの」


 そそくさっと僕たちの横を通り抜けて出雲へ出かけた。


 「無理に頼んできたなら無視すればよかったじゃないですか?」


 神様がいなくなると僕の影から出てきて、真っ当な事を言った。


 「確かに無視するのが当たり前だけど、神様の頼みだから無視できなかったんだよ。 後でどうなるかわかんないからね」

 

 幸福と知識しか与えられない神様。 この二つしか与えることができないが、与えることができるなら奪うこともできそうだ。

 直接聞きたいという気持ちもあるが、「できる」と言われるのが怖くなってしまう。

 さっきもいじめてしまったし……。

 少し背筋が凍る思いをしながら食堂に入ると、みんなが忙しく動き回っていた。


 「あぁ、花ちゃん待ってたよ! 早く着替えて手伝っておくれ!」


 給仕長らしき人が言うと、すぐ奥に行って着替えに行った。

 そうか、今日から始まるのか……。

 神無月とは、神を祭る月であることから「神の月」とされ「無」は「の」を意味する助詞の働きをしているらしい。 小耳に挟んだ程度の知識だからあやふやだけど、こんな感じだったと思う。

 この月になると毎年天文は祭りを催す。 ほとんどの人は、馬鹿騒ぎをするために準備に取り掛かる。

 確かに楽しむことは間違ってはいないけど、神に感謝や祈願するのが主な目的である。

 秋にやる祭りでは、豊作を願い執り行われる。 都市部では、食中毒や疫病が多発する夏にやるみたいだ。

 食中毒や疫病は霊の仕業やたたりと言われているのだから怖いもんだ。

 今こうして慌ただしく動いているのは、全部祭りの出し物を用意したり、何をするかとか祭りに関することばかりだ。


 「おう! 天城やっと来たか!」


 懇切丁寧に説明していると、熱田が手を大きく振って呼びかけてきた。 熱田の周りにはあまり人が近寄らなず一人ぼっちのように見える。

 人の波を掻き分け熱田のいるところにいくと、大小さまざまな、黒や赤の火薬がごろごろ置いてあり、熱田の精霊である毛並みの黒い狼こと先生はつまらなさそうに火薬を転がしていた。


 「今年もやるぞ! 花火! だから手伝え!」


 まずは先生に挨拶すると、僕の方を見て耳をピクっと動かして挨拶を返してくれた。 やっぱりは先生はかっこよくて、渋い。

 そんな渋い先生の横に琴が座ると、頭を撫でてる。 先生は火薬を転がすのを止め、大人しく撫でられてる。


 「手伝うことはいいけど、いつもお前ばっか大変じゃないか? 作れるのお前しかできないのはしょうがないけど……、もう少し数を減らしたらどうだ? 去年はいくつだっけ? 二十五?」

 「三十五だ!」


 右手で三本、左手で五本の指を立てて、ニヤっとする。


 「今年は思い切って、二倍の七十いくぞ!」


 やってやるぜ、と活きこんでいると先生から「馬鹿か」と制止がかかった。


 「悪いけど先生! 今回ばかりは言うこと聞けねぇ! このために前々から準備してきたんだ! もう俺を止めることはできねぇ!」


 深いため息をついて先生が呆れている。


 「夜な夜な何をしているかと思ってたら、そんなことをしておったのか……。 確かにお前は鍵屋の息子ではあるが、まだ半人前だ。 そんな半人前が大量に作っても事故が起こすのが関の山だ。 やるなとは言わん。 数を考えろ」


 「ぐっ、確かに俺は半人前だけど、そんなヘマはしねぇ!」

 「そう思っている時点で無理だ。 お前の父上と同じことになる……」


 触れてほしくないところに触れてしまったのか、拳をきつく結び、歯をぐっと食いしばって耐えていた。


 「わ、分かった……。 けど、五十は飛ばさせてもらう……」

 「五十か……。 厳しいところだが、まぁいいだろ」


 そのまま悪い空気の中、どすんと座り黙々と花火を作り始めた。


 「空気悪いですね」


 僕の横から、お盆に乗せられるだけお茶を乗せた結月が突然出てきた。


 「……お前いつから?」

 「馬鹿か、ぐらいからです」

 

 先生のまねをして言うと、「どう?」といった顔で僕の顔を見た。

 似てない、と一蹴してから言い聞かせるように言った。


 「結月、このことで熱田に追及するのはだめだ。 他の人に聞くのもだめだ。 深く関わっちゃだめだ。 ここで働きたいなら、僕の言ったことはするなよ」


 異常な雰囲気を感じ取ったのか、返事もなく少し俯いている。

 琴も同じように俯き、悲しそうな顔をしていた。


 


 これは精霊を持つ人間の問題であり、心の傷でもあるのだから。

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