二十四話 家、大事!
「頭領、なんて?」
今日の寝るところを頭領に相談に行ったはずの結月が天門の玄関先で膝を抱えてうずくまっていた。 服も営業用の着物ではなく、僕と会った時の水色の着物に着替えていた。
「あばぁぎぃざあああああああんんんんんん!!!」
鼻水を垂らしながらひどい顔で泣きついてきた。 うぐっ、僕の服に鼻水が……。
強引に抱き付いてくる結月を引きはがし、懐から浅草紙を取り出し鼻を拭いてやる。
しゃくりあげながら泣くのを我慢しようとしても、目からどんどん涙があふれてきている。
「ね、寝泊りで、できる、ところは、も、もうないって、頭領さ、んが」
「そっか、そっか。 じゃあうち来い! 泊める代わりに家事とかやってもらうけどね」
もともと泊まれるところがなかったら泊めてあげるつもりでいたし、予定調和といえば予定調和だ。
「それでいいだろ? 琴」
僕の後ろにいることに一応確認を取るけど、はじめから答えは決まってたようで笑顔でうなずいてくれた。
それを見た結月が思いっきり泣いた。 一度汚れたからもう汚しちまえ!
わんわん泣いてることをそっと抱きしめて背中をぽんぽん叩いてあやしてやった。
「ずいぶん濡れちゃったね」
「そうだな……。 明日、晴れるかな……」
自分の服をもう一度見ると、胸に大きな濡れた跡がはっきりと残っていた。 泣いてる結月を抱きしめた結果がこれである。 まさかここまで濡れるとは思わなかった。
結月にとっては、それほどうれしかったことなのだろうか? 本人に聞いてみたいところだが、僕の背中で寝ている。
どうやら泣きつかれて寝てしまったようだ。
琴に提灯を任せて夜道を歩いていると、僕の袖を引っ張りながら楽しそうに言った。
「ねぇねぇ、こうしてるとわたしたち夫婦みたいじゃない?」
「夫婦?」
「ほらぁ、わたしがお母さんで、悠がお父さん! そして、花ちゃんがわたしたちの子供!!」
その話はやめてほしい……。 さっき変に告白じみたことをやったせいで、琴と二人になると変に気まずい。 なのに、そんな夫婦なんて言われるともうおかしくなりそうだ。
「ばかなこと言ってないで、早く帰るぞ。 今日はもう疲れた」
興味なさそうに話を強制的に区切り、琴より先に行った。
「ちょっとぐらいはいいじゃん! 付き合ってよ! わたしのこと好きなんでしょ! それに灯ないと転ぶよ!」
ぷんすか怒りながら、僕の後を走って追ってきた。
そして僕は、小石につまづいた。




