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二十二話 まだ十代!

 太陽が完全に沈む前に結月に提灯を持たせ足元を照らしながら降りていたが、子供一人背負っての下山は予想以上に足にきていた。 休憩をはさみつつなんとか下山し終わったころには、あたりはすっかり暗くなっていた。

 

 「天城さん、天城さん。 さっきから琴さんの様子がおかしいのですが……」


 僕の隣を歩いていた結月が提灯を持ちながら僕だけに聞こえる声量で言った。

 結月に言われちらりと後ろを見ると、とぼとぼと僕らの少し後ろを歩いてる琴がいた。 天狗にババアと言われたのが相当こたえたようで、 頭の上に付いている耳も心なしか元気がないように垂れ下がっている。


 「元気づけなくていいんですか? 相方なんでしょ!」

 「まずは仕事だ。 親御さんも心配しているだろ? 早く親御さんにこの子を合わせてあげないと」


 納得はするが、それでも琴のことが心配なのか頻繁に琴の方を見ていた。


 しばらく会話がないまま歩くと、この子の家に着いた。 結月に戸を叩いてもらうとバタバタと焦りながらこの子の父親と母親が出てきた。


 「夜分、遅くに失礼します。 天門の天城悠と申す者です。 奥様の依頼を受けて来ました。 この子で間違いないですか?」


 背中に背負っている子の寝顔を見せると、母親は涙を流し父親の胸の中で泣いた。 夫は片手で妻の頭を優しく撫でたあと、抱きしめた。


 「うちの子で間違いないです」


 夫も泣きそうなのをぐっと堪えながら確かに答えてくれた。


 「そうですか、無事でなによりです」


 安堵したように優しく言い、娘さんを起こさないようにゆっくり丁寧に家族に渡したあと報奨金をもらいその家を後にした。 

 



 「よかったですね! ちゃんと両親に会えて家……に帰れて……」


 「家」という単語を口にした結月が何かに気づいたように眉をひそめた。


 「どうした? なんか問題あったか?」


 結月に聞いても、「家」をいろんな言い方をして僕の質問は聞こえてないようだった。 いろんな言い方をしてピンっときたのか、いきなり叫んだ。

 

 「わ、わたしの家は! 今日どこで寝ればいいんですか!!」


 すがるような目で僕に訴えかけてきた。 いくら琴がいるからといって女の子とずっと一緒に暮らすのはなぜか背徳感がある。


 「頭領に聞いてみたら?」


 無難に答えたつもりが、さらに悲しそうな顔になった。


 「ここは、僕の家に来いって言ってくれるところですよぉー。 天城さぁん。 今日、宿なかったらまたお願いしてもいいですかぁ?」

 「と、とりあえず、一回頭領に聞いて来い!」


 あまりにも突然なことに焦りながらも「僕の家に来い」とは言えなかった。 これからちょっとした仕事が残っているから、結月が家にいるとちょっと問題がある。

 唇をきゅっと結んで僕の悪事を言いながら走っていくのを見てから、後ろを歩いてる琴のところに行った。 隣にきてもなにも話そうともせず、ただ歩いている琴を見て自分が支えてやらないといけない、と思った。 結月にも言われたし、それに相方だから。


 「そんなに嫌だったか?」


 鼻をすすりながらこくんと頷く。


 「まぁ、その……なんだ、そんなに気にすることはないと思うぞ!」


 できるだけおどけて言ってみたがあまり効果はないどころか、逆鱗に触れてしまった。


 「悠には分かんないよ! 確かに悠たち人間にとったらわたしなんか千歳を超えるババアかもしれないけど、わたしたち精霊からしたらまだ十代もいいところなんだよ! あの腐れ天狗もそのこと知ってるのにババアなんて言うし……、そんなに老けて見える……?」


 最後のほうは、自分に自信がなくなり声が震えていた。

 それにしても琴がまだ十代だったとは驚きだ、初めて知った。 人間と精霊とでは、そこんところが違うってのは、前々から知っていたがそうか……千年生きてまだ十代か。 なんかすごい世界だな、感覚が変になりそうだ。

 でも、女の子は常に若く見てもらえるように努力しているのは知っている。 琴も寝る前に顔を揉んだりいろいろしてるのを毎日見ている。 最低限でも実年齢よりは若く見られたいのかもしれない。

 それなら今、琴がこんなにも落ち込んでいるのも頷ける。

 つまりはここをどうにかすれば、元気づけられるのでは?


 「むしろ若すぎると思ったぐらいかな。 今まで琴のこと二十五、六ぐらいに思ってたから、少しビックリした。 それに……、今のままでも十分……可愛いと……思う。 だから自信持ってもいいんじゃないかな」


 励ましたあと顔が熱くなった。 可愛いなんて言うつもりはなかったのに口が滑った。

 

 「悠がそんなこと言うの初めてだね。 ちょっと恥ずかしかったけど、うれしかったよ。 それに元気も出た! ありがと!」


 琴も顔を赤くしながら僕に笑顔を見せた。 僕はそれの笑顔を見て、さらに赤くなってしまい恥ずかしさのあまり歩調を速め琴と距離をとった。

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