一話 頑張って生きろ!
「今日もお疲れ様でした!」
頭領に一言挨拶してから仕事場を出た。 外はすっかり暗くなり、空には満月がきれいに輝いていた。
仕事のせいで、帰りが遅くなったがこの満月を見れただけで、疲れが吹き飛ぶほど見事な満月だった。
髷を結った侍が千鳥足で帰路についてるのを見ていると、帰ったら酒を飲みながら眺めるのもいいかもしれないと、わくわくしながら提灯を片手に帰路についた。
しかし、そんな僕の気持ちを裏切るように目の前に少女が倒れていた。 空色の着物に白の刺繍が施してある。顔を曇らせながら近づき生死を確認する。
「血は……出てないようだし、大丈夫だな! それじゃあ、頑張って生きろ!」
ガッツポーズ付きで別れを告げ、少女を跨いでその場を去ろうとしたら、足首を掴まれた。
ビクっと驚き後ろを振り返ると少女がゆっくりと顔を上げた。
「た、食べ物を……」
これだけを言い残しまた倒れた。
僕はただ黙って合掌してまた歩き出す。 面倒事は嫌なので、さようなら。
少し歩いたところでぐーぐーと腹の音と、ずりずりと謎の音が後ろから聞こえてきた。 立ち止まり後ろを見てみると、地面を這いずりながらこっちを見ていた。 僕の顔を見ながら少しずつ近づいてくる。
もう人間じゃなくて妖怪だな。来ないでくれ、お願い!
しかし、そんな願いが叶うはずもなくどんどん近づいてくる。
「食べ物を……食べ物を……」
ため息をつき少女をもう一度よく見る。
まだ子供っぽさを残した幼い顔立ちで、身長も一五零あるかないかぐらい、着物は土で汚れてるし、腹の音がまったく鳴りやまない。 おまけにちょっと涙目になってる。
さすがに可哀想だな……。
「もう分かったから、這って近づいてくるな。食べさせてやるから」
少女はぱぁっと顔を輝かせると、立ち上がりぴょんぴょん跳ねて喜んだ。
「ありがとうございます! 私、そばが好きです!」
「さらっと要求するな!」




