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十七話 朝は苦手です

 翌日の朝、小春が朝食を持って起こしにきた。 なんでも四ノ宮さんにこの時間に起こしてやってくれと頼まれたらしい。

 まだ寝ぼけた目をこすり伸びをして布団から出ると、すでに朝食の準備が完了しており後は茶碗にごはんを盛るだけだった。


 「おはようございます。 小豆様」


 朝からはっきりとした声とともにいい笑顔を向けられちょっと得した気分になった。


 「小春さんもおはよー」


 笑顔を向けることはできたが、まだ寝ぼけているせいか小春さんのようにはっきりとした声でなく気の抜けたような声で挨拶してしまった。 うむ、恥ずかしい。


 「ごはんはどのぐらい盛りましょう?」

 「えっと……少しでお願いします」


 はいっと活力のある声で返事をしてごはんを盛る。 朝から元気な人だなぁ、その元気を分けてほしいぐらいだ。 朝はあまり得意じゃない上に、四ノ宮さんから助手をしてほしいとの頼まれ事もある。 妖がやっていいものか、いまだに悩みどころだ。

 うーむ、うーむむむ、と悩んでいると小春さんがクスクス笑いながらお茶椀を私の前に置いた。


 「小豆様、口がへの字になっていますよ。 なにをそんなにお悩みで」


 笑いながらもちゃんと相談に乗るあたり、さすが接待業だと感心した。

 言っても困ることはないし、一人で悩むよりはいいと思い少し頼らせてもらうことにした。


 「実はですね……四ノ宮さんの助手をすることになりまして……どうしたものかと思いましてね」


 悩みごとを話したのに小春さんは、なにやら困惑した表情になった。


 「えっと……待ってください。 ……まさか小豆様は、医学に携わったことがないのに四ノ宮様の助手をするのですか?」


 ……困ることあったね。 だから朝はきらいなんだよ!

 とりあえず、なんとかしてごまかさないと私の部屋がなくなる!!


 「あ……いや、その……ですね……本来、四ノ宮さんと来るはずの人が風邪を引きましてその妹である私がお供することになったんですよ……」


 あたふたしながらも、それらしい説明をするとパンと手を合わせ納得してくれた。


 「四ノ宮様は名医と聞きます! きっと大丈夫ですよ!」


 それらしい言葉をもらい、ほっとしたところで朝食を食べはじめる。



 布団と食器を片づけた小春が出て行くとそれを見計らったように四ノ宮さんが入ってきた。


 「小豆さん、これをお願いします!」


 手に持ってる紺色の着物を渡した。 四ノ宮さんもこれと同じ紺色の着物を着て、薬草の入ってる箪笥を背負っていた。

 もうやるしかないみたいだ。 ため息をついて覚悟を決めた。 それしか道がないみたいだし。

 外で待つように言って着替えると、少し私の体格より大きく手の半分が隠れてしまった。 ……まぁいいか。

 

 「少し大きかったですね」


 着替え終わり部屋から出ると苦笑いしながら言われた。 私も「ですね」と苦笑いした。


 「ところで、どこで診察するんですか?」

 「この旅館の広間を使わせてもらって診断します。 女将が部屋を無償で貸す代わりにここで診察して客引きをしろと言われまして……」

 「部屋代、四ノ宮さんが払うんじゃないんですか!!?」

 「本当は、近くの診療所で勉強させてもらいながら診察するつもりだったのですが……今日の朝、女将さんが起こしにきた時にここで診察して客寄せしろと……」


 なかなかすごい女将さんだ。 欲張りというか、商売に対する欲が深すぎる。

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