十六話 入浴シーンはない!
「ごめんくださーい! 四ノ宮です!!」
四ノ宮さんが玄関の戸を開け呼びかけると、女将らしき女性が出てきた。
「遠いところ、よくおいでくださいました。 部屋をご用意しておりますので、ささこちらへ」
床に手をつき丁寧に挨拶して部屋に案内するために立ち上がるが、四ノ宮が申し訳なさそうに言葉を吐いた。
「あぁ……っと、そのことなんですが、こちらの方にも一部屋お願いしたいのですが、だめですかね」
「こちらは……」
鋭い目つきで澪を見つめるため少し緊張しながら名前を言おうとしたら、四ノ宮が女将の前にずいっと乗り出し、強引に説明した。
「この人は自分の助手ですよ! 人手があった方がいいと思いまして連れてきました!」
しばらく沈黙が生まれたが女将は了承し、もう一部屋用意してくれた。
一旦、四ノ宮と別れ部屋でくつろいでいると戸の向こうから声が聞こえた。
「小豆様、失礼いたします」
「あ、はい! どうぞ!」
返事を返すと正座した女性が両手で丁寧に戸を開け、一礼したのを見てとっさに自分も正座した。
「このたび、小豆様のお世話をさせていただくことになりました。 小春と申します。 当旅館で不明な点がございましたら、私にお申し付けください」
身体を起こし笑顔を見せた。 歳はまだ二十代といったところで、髪を後ろで一つにまとめ後頭部に留めている。
「はい! 分かりました、よろしくお願いします! ……ところでさっそく聞きたいことあるけど、いいですか……?」
「はい、なんなりと」
来た直前で申し訳ないとは思うが、笑顔を崩さずに答えてくれた。
「温泉って……もう入ってもいいですか……」
一瞬呆気にとられたが、手を口に持っていきクスクスと笑う。
「今、私がお尋ねしようと思っておりました。 はい! 当旅館自慢の温泉はいつでもお客様に入っていただけるようになっております」
「本当ですか!!」
「ええ、今お召し物をお持ちいたしますので今しばらくお待ちください」
小春が部屋を出ていくのを見て、ガッツポーズをした。
「やた!」
ここまで来るのに汗をいっぱいかいたこともあるが、実はここに来ることを知ってから早く温泉に入りたくてうずうずしていた。
鬼の洞窟にも温泉はあるが、熱すぎてゆっくりできない。 10秒もしないうちに身体が真っ赤になるぐらい熱い。 男どもは丁度いいとか言って平気で入っているが私には厳しかった。
身体をせわしなく動かして小春を待っていると、望んでもない四ノ宮が来た。
「小豆さん……ちょっといいかな……?」
「うぇ!? ちょ、ちょっと待ってください!! 絶対に開けないでくださいよ!!」
興奮した気持ちを抑えるために深呼吸を2回繰り返し「どうぞ」と答えた。
入ってくるなり私の前で土下座をした。
「申し訳ない! いくら部屋を取るためとはいえあんなことを言ってしまって!!」
「い、いいんですよ! 部屋を探す手間は省けたし、宿泊代も出してくれるみたいだし……こっちの方が申し訳ないですよ」
手をブンブン振ってむしろ感謝していることを伝えるが、それでもあまりいい顔をしない。
「いえ、女将の手前であのようなことを言ったので……実際に小豆さんには自分の助手をしてもらわないといけないのです……」
「ん!? ちょっと待ってください! 四ノ宮さんの助手をするってことは……医療行為をするってことですか!! 私医学の知識なんてないですよ!!」
「そのことは自分がなんとかしてします! 明日、服を持ってきますのでお願いします!」
言うだけ言って逃げるように出でいき、なにも整理できないまま呆然とすることしかできなかった。 すると四ノ宮と入れ替わり小春が浴衣を持って部屋に入ってきた。
……とりあえず、温泉に入って考えよ!
うきうき気分で温泉に向かった。 ちなみに入浴シーンはないですよ! そこは想像で補ってください!




