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十五話 旅は道連れ

 炎鬼がくれた地図を頼りに町を目指す。 これから向かう町とは鬼の洞窟の近くにあり、火山も近くにあるということで多くの温泉が湧き、温泉目当ての旅人も多い活気のある町だ。

 今、鬼姫改め小豆 澪は大きな木の木陰に入り昼食を食べようとしていた。 編笠を取り、肩から下げていた鞄を下ろし、竹で作られた弁当箱を取り出す。 蓋を開けて中を見るとおにぎりが4つ入っていた。 鞄の中で弁当が縦になっていたせいで、少し形が崩れてしまったが味に問題はなくおいしかった。

 おにぎりを片手に地図を眺める。 洞窟から近いといっても徒歩となるとさすがに時間がかかるようで、まだ半分ぐらいまでしか来てないようだ。


 「まだあるのか……。 今日中に着くかなぁ……」


 少し不安はあるが道に迷わないよう残りの道のりを確かめていると、一人の旅人に声をかけられた。


 「もし、ここいらで温泉が有名な町があると聞いて来たのだが、どこにあるか教えてもらえんか?」

 「温泉? あぁ、これから私もそこにいくのよ。 よかったら一緒に行きます?」

 「そうしてもらえるとありがたい! なんせ、ここのあたりに来るのは今日が初めてなもんで、まだ土地  勘がなく困っていた。 おっと、そうだ! 自分、名を四ノ宮 長(しのみやちょう)と申します。 失礼ながら、あなたの名は?」


 旅人は編笠を外し顔を晒した。 特に目立った特徴はないが、肩から腰まである大きさの箪笥(たんす)を背負っていた。


 「小豆です。小豆 澪」


 手に持っていたおにぎりを弁当箱に戻し、姿勢を正して挨拶をし握手を交わした。


 「ところで、四ノ宮さんその箪笥には何が入っているの?」


 澪の隣に座った四ノ宮が箪笥から小さな弁当を出した。


 「あぁ……自分、薬師(くすし)をやっておりましてな、ここには命より大事な薬草があるのですよ。例えば……これは、スイカズラといってこれをすりつぶし煎じて飲めば風邪に効くといいます」


 いくつかある棚から一輪の白い花を取り出し説明した。 スカイズラの花には、花びらが4枚しかなくそのうちの3枚が上に付き、残りの1枚が下に付いていた。


 「特徴的な花ですねぇ」

 「そうですね、ですがどの山にも生え誰でも見分けることができるので、助かってはいますがね」

 「助かる?」

 「月に1度か2度ぐらい、付きっきりで看なければなれない患者がいるのですが、その時親族に薬草を取ってきてもらうことがあるんです。 他の薬草はそこら辺に生えている草と区別が難しく、よく間違った薬草を持ってくることがありますが、これだけは誰も間違えず持ってきてくれるのです」


 微かに笑い理由を述べていると、澪までクスクスと手を口に当てて上品に笑っていた。 その姿を見てドキっとしてしまった。 ある程度位の高い人でなければ、あんなに上品な笑い方をしない。 もっと男まさりの笑い方をする女性もいる。

 それに笑顔が可愛かった。 全体的に大人びた雰囲気を持っているが、笑うとどこか子供じみた幼い雰囲気を感じる。

 その後も澪が四ノ宮に質問し続け、昼飯を食べた。


     


 太陽が沈みかけ空がすっかり紅く染まるころ、やっと目的の町に着いた。

 町にはいたるところに灯篭があり、あたりを明るく照らし始めていた。


 「小豆さん、宿はもう決まっているのですか?」


 四ノ宮が額の汗をぬぐいながら言った。


 「いえ、これから探します」


 少し恥ずかしそうにそう言ったら、「だったら任せてください」と言われ突然手を掴まれ走った。

されるがまま一緒に走ると「月見壮(つきみそう)」の看板を掲げる宿の前に連れてこられた。

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