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十四話 旅立ち

 人里に行く準備をするため鬼姫は自室に籠った。

 鬼の住処は山を削って作った洞窟なので、壁はもちろんのこと床まで岩でゴツゴツしている。 さすがに床のゴツゴツは時間をかけて削って無くしたが、壁は所々岩がむき出しになっている。

 部屋の中も必要最低限の家具しかないうえに入口の扉がない代わりに暖簾(のれん)が垂れ下がっていた。

 そのため声がだだ漏れしているので、大抵の鬼は寝るとき以外は大昼間で酒を飲んだり、談笑して過ごしている。

 他の鬼たちの笑い声がかすかに聞こえるなか、鬼姫は旅支度に苦戦していた。

 服は平民が着るような色の薄い緑色の着物を着ることにして、何を持っていくのかが分からない。


 「炎鬼(えんき)に聞いた方がいいかな……。 でも私の旅だし迷惑かけるわけには……」


 うーんっと悩んでいると、男の子の子鬼が腕を鳥の羽に見立てて入ってきた。


 「鬼姫さまー!!」


 部屋の周りを楽しそうに何週も走り回っていると、息が切れ切れになった女の子の子鬼もやってきた。


 「だ、だめだよぉ、入る前に一言入れないとぉ」


 男の子に注意してから私に頭を下げて誤った。


 「いいのよ、子供は元気が一番よ!!」


 言うやいなや、スッと立ち上がり男の子のように腕を羽のようにして部屋の中を走り回った。


 「鬼姫様まで、なにやっているのですかぁ!!」


 まだ息が整ってないのに叫んでいるが、ここにいるみんなは楽しそうに笑っていた。

 ひとしきり走り終わり、床にのそべって息を整えていると女の子が懐から古びた書物を丁寧に両手で持ち差し出した。


 「これ、えんにぃからです」

 「炎鬼から?」


 身体を起こして受け取ると「旅支度」と題された書物だった。


 「困っているだろうだってさ!」


 男の子がニッと笑い付け足した。


 「はは、ありがとうって伝えてくれる?」


 頭をかき照れたように少しうつむき頼むと、ふたりは声を合わせ了承してまた走って出ていった。

 走っていくのを手を振って見送ると部屋に戻り、書物を開く。 中は所々変色しているが、読むことはできた。


 「えーっと弁当と、提灯、それと……そろばん? これはいいや、持っていかないっと。 あとは……」


 黙々と書物を頼りに旅準備をしていると、二枚の紙が挟んであるページがあった。

 一枚目には町までの道のりが書いたあり、二枚目には「小豆 澪(あずきみお)」という名前と「こちら名前をお使いください」と短い言葉が書いてあった。


 「本当に……よくやるよ、あの鬼は……」


 フッと笑い旅支度の続きをした。




 翌日の朝、編笠をかぶり荷物を背負って、杖を持つ。

 門番たちに軽く挨拶して鬼の洞窟を出ようとしたら、炎鬼が待っていた。 朝日を赤い鎧いっぱいに浴び光って見えた。


 「おはよう、炎鬼。 どうしたの? こんなところで」

 「おはようございます、鬼姫様。 あなた様のお見送りですよ」

 「そう、週末には報告しに戻ってくるからそれまでお願いね」

 「お任せください」


 低頭した炎鬼を見て洞窟を出る。


 「おっと、そうだ! 手紙ありがとうね」

 「……はて、なんのことでしょうか」

 「またまたぁ、とぼけちゃって」


 悪戯っぽく笑って手を振りまた歩き出した。

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