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十三話 鬼姫の想い

 この話は今から数百年も前の話。 今の妖の王がまだ鬼姫様の側近だったころの話。 人間と妖の話。 そして残酷な話……。




 「つぅぅぅぅぅかぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇたぁぁぁぁぁぁ!!」


 赤い着物に身を包んだ一人の女性の鬼が文句を言いながら長机に倒れた。 髪は黒く肩に少しかかる長さで、顔立ちもまだ子供じみていた。


 「お疲れ様です、鬼姫様。 会議のほどはいかがでしたか」


 赤い鎧兜を着た鬼がお盆にお茶と栗ようかんを持って、机に倒れた鬼を『鬼姫』と呼びねぎらいの言葉をかけたが、「んんー」とうつぶせながらうなるだけであまり有意義な会議ではなかったようだ。

 鬼姫は、さきほどまでこの部屋で全妖の代表によって行われる会議に出席していた。 この会議では、それぞれの種族の近況を報告する軽い会議であるが、今回の会議はまったく違う重い会議になった。 どうやら人間が妖に対し危害を与えるようになってきたようだ。

 以前までの人間なら妖を見た途端、腰を抜かし慌てて逃げるか、悲鳴をあげて気絶するぐらいの反応を見せていた。 だが、ここにきて武器を持ち攻撃的な反応を示すようになった。 現にそれで怪我を負った妖も出ている。

 今回の会議で話し合った結果、「住処を変える」か、「人間を殺す」かの両極端な答えが出た。

 あまり妖力のない河童や轆轤首(ろくろくび)などの妖は住処を変える案に賛成し、逆に妖力が強い天狗、妖狐は殺すことを勧めた。

お互いが一歩も譲らないで口論をしていると、これまで何も発言していない鬼姫に折衷案を出せと無理を言われた。

 うーんっと頭をひねって出した答えが「自分が人の里に行って安全を保障する」というものだった。


 「なんであんなこと言ったかなぁ? 今の人間危ないのにー!!」


 顔だけを起こし不平をブツブツ言うと、お茶と栗ようかんが目の前に置かれていることに気づき身体を起こす。


 「ありがと、炎鬼(えんき)


 横でお盆を持っている赤い鎧兜の鬼の名を呼びニッと笑いお礼を言い、お茶を啜る。


 「いえ、私にはこれぐらいしかできません」

 「そんなに謙遜しなくていいのに。 本当によく動いてくれてるよ、炎鬼は!」

 「……恐縮です」


 「うん」と頷き、栗ようかんをかじる。 口の中にじわぁんっと甘さが広がりおもわず顔がほころんでしまう。 口の中が甘さでいっぱいになったところで、お茶を飲み甘さを苦さでかき消していく。

 食べ終わったころにお茶を一服もらい一口含む。 そして大きく息を吐き捨て、炎鬼と目を合わせないように尋ねる。


 「ねぇ、炎鬼ならどっちについた?」

 「どっちとは?」

 「移住するか、殺すか……」

 「私は、どちらもつかなかったでしょう」

 「理由……聞いてもいいかな?」

 「それは鬼姫様が一番よく知ってますよ」


 炎鬼の言葉を聞いた時、反射的に目を合わせてしまった。 炎鬼はまるで親が子供を見守るかのような優しい目で鬼姫を見ていた。


 「私は、あなたと同じ考えです。 少なくとも、私はあなたがとった行動は正しかったと思います」

 「そっか……」


 自分の考えを言わなくても分かってくれる。 自分のする行動を後押ししてくれる。 優しく見守ってくれる。 本当にこの鬼は気が回りすぎだ。

 残ったお茶を一気に飲み干して立ち上がる。 凛とした声で炎鬼に命じる。


 「明日、人里に下りる。 ここは任せた!」


 片膝を地面につけ右手で固い拳をつくり地面に叩きつける。


 「御意!!」


 その姿を見てうれしそうに頷き、部屋を出た。

 私の選択が間違ってないことを証明するために……

 私の考えを理解してくれる鬼のために……

 人間と妖のために……

 私は人間と妖が共存できる世を作る!

 それが私の選択であり願いであるから!

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