十二話 久し方の来訪
天狗が夜空を飛行する。 月や星は雲に隠れいっさいの明かりがない空を飛ぶ。
山をいくつも超え、人がめったに立ち入ることのない火山の中腹まで飛び降り立つ。
周りは、火山灰で白くなり草木もまばらに生えているが例外なく枯れていた。 しかし、そんな場所だが天狗の求める答えを知っている妖がいる。
それは全妖内でも桁外れな妖力を持つ『鬼』である。 鬼はその妖力を使い妖界の頂点に立ち、妖を統率している。 それゆえ妖内の情報が集まりやすく、調べものにはもってこいな妖でもある。
山の周りを歩いて回ると降り立った場所の反対側に大きな洞窟があった。 なんの迷いなく洞窟に入ると、中はとても暗く足元でさえまともに見ることができない。それでも歩調を緩めることなく奥に進んでいくと、奥の方から明かりが灯り始め洞窟全体を明るく照らした。 歩みを止めしばらく様子を見るが、明かりが灯っただけで他にはなにも変化は起こらない。
仕方なしにまた歩を進める。カランコロンと下駄が鳴らす音が洞窟内に響く。
カランコロン……カランコロン……。
歩を進めていくと開けた場所に出た。 正面には鉄製の大きな扉、それを守る門番が左右にひとりずつ槍を壁にかけ座っていた。 全身を藁で包み顔も認識できない。
「よくおいでくださいました……。 我らが王がお待ちです」
かすれた声で右の門番が言うと、左の門番が座ったまま槍を持ち石突で地面を叩くと、門が重々しい音とともにゆっくりと開かれた。
「どうぞ……」
先に進み中に入ると門が閉まった。
中は円形に大きく広がり、中央には赤の鎧兜に身を包んだ男性の鬼が手を後ろに組んで立っていた。 この鬼がさっき門番が言っていた現在の妖の王である。
「ひさしぶりだな、天狗。 いつ以来かお前が来るのは……」
「鬼姫様が死んでからじゃよ……」
「そうか、もうそんなに……あれはひどい出来事だった」
あのときのことを思い出した鬼が唇を噛み怒りに震えていた。
鬼姫様が望んだ妖と人間が共存できる世界は人間によって壊されたのだから……。




