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十一話 ババア呼ばわりは自殺行為

 「天狗、少し聞きたいことあるけどいいか?」


 結月と楽しく話しているところに後ろから話しかけると、ビクっと肩を震わせた天狗がぎこちない笑顔でゆっくりと振り向いた。


「な、なんじゃ……」


「昨日、こんな娘を攫わなかったか?」


 依頼書に描いてある似顔絵を見せると、天狗が目線をそらし口笛を吹き始めた。


「そんな娘知らんの……。 会ったことも見たこともないわ……」


 見え見えの嘘を吐き、この場を切り抜けようとしているところ悪いが逃がすつもりは毛頭ない。 この天狗が人さらいの犯人だからね。

 ささっと聞き出して報酬をもらいたいが、この天狗は口が堅い。 いい意味でも悪い意味でもだが。


「琴の下着あげるって言ってもか?」


 突然交渉の材料にされたことに変な声を出して驚いた琴だが、「あんなババアの下着などいるか」と一蹴された。 崩れ落ちた琴は、ほっとき次の交渉に出る。


「じゃあ、結月のは?」

「くれるのか!!」

「あげるわけ! ないでしょう!!」


 僕と天狗の間にすばやく潜り込み、(すね)に全力の蹴りをお見舞いする。 骨が軋むほどの蹴りをもらい、あまりの痛さにうずくまる僕と天狗に冷ややかな視線を送り、琴のもとに走っていた。


「も、もうお前がやったことは知ってるんだよ! 早く吐け!! やりすぎだろあいつ!!」

「わ、儂はそんな娘などしらんわい!! 将来、鬼嫁になりそうじゃ」


 お互い痛みで涙目になり、声も震えているがいっこうに口を割ってくれない。

 どうしたもんかと悩みながら脛をさすっていると、煙を巻き上げ琴が瞬間移動してすばやく天狗の後ろを取ったかと思うと、首に腕をまわし絞めだした。


「わたしは、ババアじゃない……」


 耳元で低くそう言うとさらに締め上げる力を強くしていった。 逃れようともがくが力が強すぎて外れないどころか、もがくたびに力が増し呼吸が怪しくなる。 ついには、身体が力なく崩れ落ちた。


「こ、琴さん! やりすぎです! そ、そのぐらいに」

「悠は黙ってて……」


 低い声と人殺しのような冷めた目で制し、力をまったく緩めない。

 怖い、怖すぎる。 ここにいると何故か僕も殺される気がする。 そんな時どうする? 逃げる!!

 痛みを我慢して四つん這いで結月の元まで逃げると、結月もガタガタ震えていた。


「ああああ天城さん、とととと止めてくださいよ! じゃないとおじいちゃん死んじゃいますよ!!」

「も、もうどうにもならない! 琴様のお怒りが静まるまで天狗は……」


 そして、天狗は……


    


 空が色を赤く染め始めるころに天狗が意識を取り戻した。 首には圧迫された跡がくっきり残っているがさすが妖、死なずに意識を失う程度で済んだ。

 琴様も天狗の意識を奪うだけに留めてくださったようで、仕事に支障は出なかった。


「天狗さん、この娘はどこですか?」


 僕のかわりに琴様が天狗に話しかけると、身をすくめて娘を隠している場所を教えてくれた。

 その場所とは、山頂にある古びた社であった。 手を合わせ扉を開くと、依頼書にある通りの少女が横になって眠っていた。

 その娘を背負い山を下りようとした時、天狗が僕たちを引き止めた。


「すまんが……花ちゃん、ちょっと来てくれるか」

「私ですか?」と自分を指差すと天狗は重々しくうなずいた。

「なんですか……?」


 そばまで来た結月の顔を真剣な眼差しで見る天狗に少し戸惑っていたが、「……いや、なんでもない。 また来てくれ」と頭を撫でた。 わけもかわらず天狗のもとを離れ、天城たちと下山していく。

 天城たちが見えなくなるまで笑顔で見届けた後、顔を引き締め思案するがあいまいな答えしか出ない。


「……あやつ等に確認しなければならんな……」


 大きな翼を広げ、大空に飛び立ち答えを確かめに行った。

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