トラブルバスターの日課
アオク星シガキ大陸ヒガシ地方カラカラ国レンゲ地区。
そこに一人のトラブルバスターが居を構えていた。
その事務所は諸事情により手狭であるが、実に使い勝手が良い。
トイレとシャワーしかない安賃貸だったが、自分がトラブルに遭うことを考えればそれで十分だった。
家具は、客を座らせる年季の入ったソファー。客にお茶を出すアンティークのテーブル。そして骨董屋で見つけた自分用の椅子と事務机。その4つだけだ。
その事務机に隠された、ご自慢の短剣は魔法付与ギフトが施されている宝剣はあるが、いまだにこれを使うようなトラブルが舞い込まないのが悩みの種である。
その種を畑にまくとみるみる育つは食料問題。
トラブルバスター、ロッド・バルタザールはいつも飢えていた。
それはそうと、彼は新聞を広げた。
トラブルバスターという職業にとって、日課の一つである。
と、視界の端にピンクのなにが見える。
彼は新聞を置いて、ドアに空いた穴から見える洋服を見て、はぁ……と大きなため息をついた。
事務所のドアを開けるときは気づかないのだが、そのドアにはいくつかの穴が空いている。空けた、ではなく、空いている。
この穴に気づけるのは、事務机に着いているロッドか、いま穴を覗いているピンクの洋服の持ち主だった。
「あははー! 穴ー!」
穴の向こうから女の子の声が聞こえる。
そしてその声の主は、ガチャリと無遠慮にドアを開けた。
ロッドは次の依頼が来たら鍵を直そうと思いながら、新聞を読み直す。
「お母さんに焼いてもらったのー。ロッドにもってー!」
少女の手にはピンクの巾着があった。
「俺はいいよ」
とは言いうが匂いが鼻腔を刺激する。一枚くらいならもらってやってもいいよ、そう言い直そうとしたとき、少女の後ろからやってきた少年が、その巾着を取り上げた。
「じゃあロッドには絶対あげないからね!」
「いや、社交辞令的なそれだよ。いいからよこせよ」
「しゃこうじれいってなにー? ばかっぽーい」
「うるせぇ! こぼすなよ、座って食え!」
彼は苛立ちを隠せず、事務机に乗っているミニ観葉植物から葉っぱを少し拝借して、それを口に含んだ。
「ねぇ、おじさんはなんでいつも草を食べてるの?」
少女はクッキーを食べながら、ロッドに聞いた。
「これはただの草じゃないんだよ。魔法の草。いくら食べてもお腹壊さないんだ」
なにそれーと笑う少女は、もう一枚のクッキーに手をつけた。
「あー、ちょっと食べ過ぎだよー」
彼女の隣に座る少年が、少女の手に持つ布袋をもう一度取り上げて、守るように胸に抱える。
「あー! お兄ちゃんー!」
「もー! うるさいなー! ここ託児所じゃないんだけどー!」
「「ロッドが怒ったー」」
「クッキー寄越せ!」
彼が立ち上がると、兄妹は慌てて事務所から逃げ出した。
さる高貴な女性が事務所に来たのは、その日の午後のことである。
章管理がしたかっただけなのです