借金取立人と刺客
グランデとバッソがデーリアの森を歩いていると、目の前に刺客が立ちはだかった。
「……」
「こんばんは」
「この先には行くな」
グランデの挨拶には応えず、刺客は腰に手を当てて仁王立ちをした。
「何故?」
「行ったら後悔する」
「何故です?」
「……お前らはこの仕事から降りろ」
グランデとバッソは顔を見合わせた。
「相変わらず、あなたは不思議なことを言いますね」
グランデが首を傾げる。
「取り立て人をやめろと言うのに、助けるような事を言う」
「助けてるんじゃない。忠告しているんだ」
「同じ事でしょう」
「いいや。似て非なる物だ。そして、仕事を降りろと言うのも忠告だ」
「何故」
グランデが訊いたが、刺客は答えない。
「……」
バッソがグランデの細い足を軽く蹴った。
「どうしたの? バッソ」
「……」
バッソは何も言わず歩き出して、あっという間に刺客を越える。
しばらく歩いたところで振り返って、グランデがついて来きていない事に気がつくと、子供のようにトントンと足を踏み鳴らした。
「……」
トントン。
「今行くよ。それじゃあ、さよなら」
グランデは刺客に軽く会釈をして横を通り過ぎた。
どんどん遠ざかっていく二人を見て、刺客は言った。
「掛かったな」
デーリアの森の奥にはノントという小さな町がある。
森の奥にあるため、交通の便が悪く、特産品の牛乳や卵を売ろうにも、効率のいい手段がなかった。
今年の夏は暑かった。風が少なかった。
森の中でパックリと切り取られたこの町も、暑かった。
暑くて暑くて暑くて暑くて、動物たちは弱ってしまった。
乳が出なかった。
卵を生まなかった。
暑くて、暑くて、あつくてあつくてアツくて暑クテアツクテ
「熱い」
グランデは真っ赤に染まる町を見て言った。
「……」
バッソも頷く。
二人の目の前は、赤一色だった。
赤、赤、赤、赤、赤。
赤ってなんだっけ?
「あの人が言ってたのはこの事だったんだね」
「……」
「バッソ。どうしたの? それ以上近づくと危ないよ」
「……」
バッソが町の入り口のゲートの側で何かを見つけて、拾い上げた。
大きな黒い皮の鞄だった。
「……」
ジジッ、とチャックを開ける。
「うわーお」
中には、分厚い札束がいくつもグチャグチャに詰め込まれていた。
所々赤かった。
『許して』
赤かった。
バッソが札束を一つ一つじっと見つめていく。
見たら一つ一つ並べた。
「……ちょうど、1億セラ」
「貸した分ちょうどで利息は無し。マイナス寄りのプラスマイナスゼロだね」
グランデが言うと、バッソも頷く。
バッソは札束の中から一枚抜き出した。
色鉛筆を取り出して、水色の花弁の花を描いた。デーリアの森に多く咲く、レナの花だった。
花を描いた札をパッと放り投げると、赤はあっという間に花を飲み込んでしまった。
「……損失、1万セラ」
「そうだね。まあ、風の仕業だよね」
そう言って、グランデは鞄を持って町に背を向けた。
バッソもそれに続く。
「若いな」
刺客は呟いた。
二人は揃って、町の紋章が入った光る水の結界を越えた。




