後輩編 中
「はい、授業終わり~。
お前ら、進路の紙ちゃんと出せよ。
出さないやつは知らん。
決まってないやつは
海賊王とか書いとけ。」
担任でもあり、日本史の
上田 由里子の授業が終わりを告げる
チャイムが鳴る。
この担任非常に口調やらは雑で
とても教師とは思えないが
何故か非常にこの授業はわかりやすい。
授業で出てきた人にまつわるエピソードを
話してくれたりするから頭に入ってくる。
そんなことはいい、海賊王ってなんだよ!
そんなんでいいのか、この学校。
そんなこんなで昼食の時間になった。
この学園には食堂があるのだが、
またしても広さがばかにならない。
軽くファミレス五個分はありそうだ。
にきてからは圧倒されっぱなしじゃないか。
咲人はおもちゃを与えられた
子供のようにはしゃぐのであった。
「咲人、ここでパンをかったり
する時は気を付けてね。戦争だからさ」
と爽やかな笑顔で誠が言う。
誠曰く、昼休み開始と同時に
限定パンやら普通のパンをめぐって
バトルが行われてるらしい。
けが人が出ることも珍しくないと言う。
どんだけ美味いんだよ。
でも気になるな。機会があれは買うか。
しかし、今日の戦争は一方的であった。
いや、一方的というよりかは
一人の少女のために道が
開けてあると言った方が適切か。
まるでレッドカーペットを優雅に歩く
女優の如く数多の男子が道を作っている。
そこを悠々と歩く少女。
おいおい、どんなvip待遇だよ。
「咲人は運がいいね
小悪魔お姫様を見れるなんてさ。」
小悪魔お姫様か、お姫様なのに
小悪魔という表現が似合っている。
小柄な体に完璧なツインテールという
面立ちだ。そして、絶対的な自信が
満ち溢れている。本当にお姫様みたいだ。
「沙奈様!親衛隊一同食堂のパンを
抑えました!」
「そう、ご苦労様。あなた達には
あとで踏んであげるわ。
私の椅子になれることを
光栄に思いなさい。」
「イェス!ユア!ハイネス!」
想像できるだろうか。
けっして冷たく言っているのではないのだ。
そう、それこそ100%スマイルで
このセリフを言っている。
親衛隊とやらも恍惚とした表情をしている。
やめてくれ、気持ち悪い。
どうやらこの状況に驚いているのは
咲人だけらしい。
それ以外の生徒はまるで
オブジェのようにしか思っていなさそうだ。
誠も当然のようにラーメンを食べている。
「あの子は一年生の華城 沙奈。
入学早々から学年問わず
いや学校問わず告白されまくった
お姫様なんだよ。
まぁ、あんな性格なのに
モテるのはさ百戦錬磨のキャバ嬢顔負けの
テクニックやらを持ってるかららしいよ。」
なるほど、ご丁寧な解説ありがとう、誠。
確かに我が妹楓と比べても
あまり変わらないぐらい小柄だが
オーラが違う。
ほー、あれがお姫様ね。
咲人よ、あまりそう凝視するものではない。
人相の悪いお兄さんに
こっち見てんじゃねえよ!とか
言われたことはないのか?
言っても無駄なのだが。
すると、沙奈は咲人の視線に気付いた。
しばらくすると、ニッと可愛らしい
笑顔をうかべ近づいてきた。
「あなた、すごく綺麗な顔を
してるけど見ない顔ね。転校生なの?」
一つ一つの動作に気品を感じる。
なるほど、これもお姫様たる所以か。
「あ、あぁ。俺は二年の夢崎咲人。
昨日から転校してきた」
お姫様とはいえ下級生にうろたえるとは
なんともみっともない咲人である。
(ふふん、この男かなりの
イケメンじゃない。親衛隊の
側近にしたいわ)
「に、二年生の先輩だったんですか。
なんか生意気な口聞いてすぃせん。
で、でも先輩がすごくカッコ良かったから
ちょっと緊張しちゃって」
ただですら、女子が苦手な咲人には
このあからさまな態度のちがいには
ドン引きである。
こんなんで落ちるのか
あの親衛隊とやらは。大丈夫か?
しかし、そこは年上の対応を見せる。
「いや、年上ってのは
知らなかったから仕方のないことだし
あまり気にしなくていいよ。」
沙奈の目に光が見えた。
一瞬、桜子の猛禽類に似た物が
がみえたのは気のせいだろう。
沙奈はおもむろに咲人の腕に抱き付いた。
「ありがうございます、咲人先輩。
私のことは沙奈って呼んで下さいね。
先輩ってやさしいんですね。」
すんごい営業スマイル。
そんなに抱きつかれたら
周囲の視線と親衛隊の眼力で
俺の体に穴が空きそうだ。
それに、おれは女子が苦手なんだ。
例え、嘘とわかっている好意でも
女子にこんなことをされる資格は
おれにはない...。
「な、なあ沙奈?
お願いを聞いてくれるかい?」
「はい!なんですか?咲人先輩」
くそっ、かわいいじゃねえか!
これだったらお姫様って
呼ばれる理由も分かるぜ!
「色々とさ、周りやらなんやらの視線も
痛いからさ
いい加減離れてもらわないと、さ。ね?」
小さい子供をなだめるのは楓で
慣れている咲人である。しかし楓は
高校一年だ。
体系が幼児なので仕方ないが。
「あっ、すいません。
咲人先輩のこと気になって。
はしたないことしすいませんでした。」
なんだ理解力のある子じゃないか。
うちの楓にも見習わせたいものだな。
(フンッ、この男も私の物決定ね)
親衛隊に睨まれながらも
なんとか命だけは助かった咲人である。
「咲人は本当に運がいいね」
「そうだといいけどな。」
華城沙奈か。なんだか恐ろしい後輩だな。
まぁ、いいや。午後も頑張らないと!
この出会いがあんなことになろうとは
思わなかった咲人である