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自縄自縛な僕・三人の女神   作者: 松永 もっこり
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夏休み 旅行編 上 2


咲人の意識は遠い闇の中にあった。


....夢を見ているのか?



........


「ほらーお前ら席つけ。

出欠取るぞ。休みはいるか?」


いかにも熱血体育教師のような

体に野太い声で教室の中を

見回した。

すると、華やかに制服を着崩した

女子が手を上げた。


「先生〜、唯さんが今日も

来ていませーん。

サボリじゃないんですかぁ〜?」


「美香子、それ言えてる。

サボリでしょ、どうせ。」


クスクスと美香子と呼ばれた生徒

中心に嘲笑する生徒達がいた。


「そうか?あいつに限ってサボリは

ないと思うがな、先生は。

親御さんには体調不良だと

聞いているからな。

なら、佐藤以外に欠席はいないな。

お前ら、高校一年だからって

遊びすぎるなよ。卒業なんて

あっという間だ。進学や就職など

様々な道に進む者がいるとは思う。

悔いの残らぬようにな!

じゃあ一時間目の準備をしろよ」


担任が去った後、すぐに先ほどの

女生徒達はある男子生徒の席の

元へ駆け寄った。

その生徒は寝た振りをしていた。

いや、寝た振りではない。

単純にさっきの会話を

聞きたくなかった。

そのせいか、彼は耳を塞ぐように

顔を伏せていた。

そして、彼女らは駆け寄る。

そう夢崎 咲人の席へ。


「咲人君〜、今日の帰りにさ

私たちとカラオケでも行かない?」


「そうだよ、咲人君。

気晴らしも必要だって〜。」


声を掛けられた咲人はわざと

今起きた風を装った。

無論、彼女らが寝た振り、いや

拒絶の意思を示していたとは

思いもしない。

嘘のあくびをしながらいつもの

爽やかな笑顔で応える。


「ごめんな、遊びたいのは

山々なんだけどさー、最近勉強

ヤバくてさ。このままじゃ3年までに

行きたい大学に行けるかわかんない

だよな〜。スマンッ!」


いかにも、本当に申し訳ない

かのように手を合わせ頭も下げる。


「いやいや、咲人君。

むっちゃ頭いいじゃん〜

この前のテスト何位だっけ?

3位とかじゃなかった?」


「マジで!?ヤバっ咲人君。

顔もいいし優しい上に頭もいいとか

もうすごすぎって言うか〜

それだったらちょっとぐらい

いいじゃん〜、ねぇ〜」


「マジでごめん!親にも

言われててさ、また今度な。

ほらっ、授業の準備しろよ」


何やら不満そうだったが

なんとか引き下がってくれたらしい。


彼は怖かった。あの女生徒含め

取り巻きの生徒達が。

先程、佐藤 唯と呼ばれていた

生徒は咲人の恋人だ。

彼女はこの女生徒達にいじめを

受けていた。


人が人をいじめる理由なんて存外

単純なものである。

例えば、根暗で何も言えない生徒

に対してストレス発散のためで

あったり大なり小なりだが

自己満足、自己欲求の

ために行われる。


彼女がいじめを受けた理由も単純。

そう、夢崎 咲人の恋人である。

という理由だけだ。

彼女らは自分達より目立たない

唯がクラスいや、学校の人気者

である咲人の恋人であることが

気に入らないのだ。


目立たないとはいっても唯も

隠れファンがいるほどの容貌を

持ち合わせている。

それにして、清楚で可憐。

おしとやか。という三拍子

揃っている。

なので、彼女達のような一部の

者を除けば、この二人のカップル

は学校一と言われるほど

名高い物であった。


そんな唯がいじめられているのを

知らない訳ではない。

だが、彼には手を差し伸べる

ことが出来なかった。

正確には、差し伸べようか試み

はしてみた。

でも、途中で手が止まる。

咲人の本能が恐れに怯え

そこから一歩を踏み出せないでいた。



............


「はぁ、はぁ....」

最悪の朝だ。人生最悪の目覚め

かもしれない。

咲人の心は旅行一日目の

爽やかな朝とは相反する心中だ。


まだ、外が薄暗い。

予定の時間よりかはかなり

余裕があった。


「おっ、にぃ!ちゃ〜ん!

ちょっ〜と早いけどおはよう!」


妹の楓がすごい勢いでドアを開けた。


「おいおい、少し早いってレベル

じゃないぞ。はしゃぎすぎて

疲れるなよ。」


「大丈夫!そんな事言って

お兄ちゃんも早起きじゃ〜ん

もしや、ワクワクして

目が覚めちゃった?感じ〜?」


思わず動揺した。しかし

楓にそんな事は分かるはずもなく。


「あ、あぁ。久々の旅行だからな。

多少なりとも楽しみだな。」


「もぅ〜、子供なんだなら〜」


「楓に言われる日が来るとは

思わなかったよ。ほら、まだ時間

あるからもう少し寝るなり

持ち物の確認でもしとけよ」


「分かったよ〜。じゃ〜後でね!」


先程同様、勢い良く

ドアを閉める楓を見送った。



折角の旅行なんだ、楓も

楽しみにしている。俺も本音は

楽しみにしてる。

台無しにするわけにはいかない。


..........


やめだ!やめだ!よしっ!

俺も改めて準備の確認でもするか



唯、俺さいつになったら

前に進めるのかな?

進める日が来るのかな

そんなこと唯にも分かるはずないな

じゃあ、俺旅行行ってくるわ。

土産話楽しみにしててくれ。


................


止まったままの錆び付いた歯車が

今動き出す。


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