夏休み 誠編
ある意味ヒロインてきポジション誠君
の話です。
「時間」というものは不思議だ。
誰にも平等に流れるものであり
誰一人として止めることが出来ない。
だが、同じ時間が長く感じたり
短く感じたりする。辛い事、悲しい事
は長く、楽しい時間は
あっという間に過ぎ去る。
平等に流れる時間はあくまで
「物理的」、すぐに過ぎ去る時間は
「人間的」なんだ。
ショックな出来事などを体験した時、人間は
まるでスローモーションビデオのように
ゆっくり鮮明に見えるらしい。
「人間的時間」が、猛烈な速さで
動くかららしいんだ。だから
人間的な時間には意識状態、興奮
集中力が関係するからだろうな。
一瞬一瞬に関心が集中し、そのことを
記憶していると時間は長く感じる。
だから俺の転校始めての夏休みは
起こる事全てに集中しよう。
いつまでもこの時を忘れないために。
...
いつもより遅めに起きる朝。
おかげで寝汗がひどい。
あー、シャワー浴びないと。
灰色の夏休みを回避した夢崎 咲人
は眠い目をこすりながら
シャワーを浴びる。
ちょっと寝すぎたせいで、あまり
時間がないな。急がないとな。
そう、夏休み一日目。早速咲人は
予定が入っている。それは
誠の剣道の試合の応援を見に行く
ことだった。親友の応援もでき
桜子に頼まれた生徒会の仕事でもある
写真を撮ることができる。
「まぁ、誠なら問題ないだろ」
降り注ぐ日射しとは温度差の激しい
咲人のマイペースぶりであった。
...
幾ばくか歩くと会場についた。
コンビニで買った炭酸飲料で乾いた
喉を刺激させながら誠の試合を待つ。
「ねぇねぇ、あそこのいる人。
カッコ良くない?声かける?」
「えー、でも超クールそうじゃん。
悩むな〜。」
咲人の右3メートルほど離れたとこ
から他校であろう女子の声が聞こえた
無論、ここでいうカッコいい人
と言うのは、咲人のことである。
うーん、褒められるのは嬉しいけど
めんどくさいことになりませんように!
そんな事をかんがえてると誠
の試合が始まった。
急いでカメラを構える咲人。
勝てよ、誠...。
そう、心のなかで応援する咲人だった
先に攻めたのは誠だった。
剣道をしたことのない人間が相手
だったならば、誠の気迫に押されて
足すら動かなかったことだろう。
しかし、誠の対戦相手は剣道を
たしなんでいるにも関わらず誠の速い
動きに圧倒されほとんど何もできず
誠の勝ちに終わった。
流石だな、誠。どんな相手にも
手を抜かない姿は天晴れだな。
試合が終わった誠の元へ咲人が
駆け寄る。
「誠、まずは一回戦勝利おめでとう
おかげで初っ端からいい写真が
撮れたよ。」
「やぁ、咲人。悪いね、夏休みなのに
応援ありがとう。ぜひその気持ちに
応えれるよう頑張るよ。」
あの電光石火のような動きをする
人間には見えないぐらい爽やかな誠だった。
「あれが、リリーベルの誠さん?
剣道もできて、イケメンなんて
すごいわ。」
「隣の方は友人かしら?あの方も
とても凛々しい顔をしてらっしゃる」
「なによ、あなた。誠さんの
ファンクラブ会員じゃないの?」
素知らぬ顔をしやがら咲人は驚いた。
誠にファンクラブなんてあるのか
それも全員他校だぞ。
まぁ、あの顔で実力もあればな。
ファンクラブぐらいあっても普通か。
とは言うものの
中学校と前の高校で密かに
咲人のファンクラブがあったことは
もちろん咲人は知らなかった。
...
その後も順調に持ち前の足さばきと
スピードで翻弄していった誠は
勝ち進めていった。
「準決勝か、まぐれとはいえ
ここまでこれたからには
やるしかない!かな?」
「なにいってんだよ、誠は
まぐれじゃなくて普通に実力で
勝ってきてたぞ。素人の俺でも
わかるぐらいだからな。」
「そうかな、分かった。
悔いが残らぬよう戦ってくるよ」
「おう、いってこい。親友」
そして、準決勝の幕は
切って落とされた。
準決勝となると、流石に相手も上手い
誠の足さばきと互角とは言えないが
それに準ずる程の動きだ。
なにより、巨体とは思えないほど
身軽で一撃が重い。
鷹がが大剣を簡単に
振り回してるかのようだ。
「誠、頑張れ...」
思わず、咲人のカメラを構える
手にも力が入る。
誠が動く。素早い動きからの面だ。
誠の得意技でもある。
相手も反応した。
この一手で勝敗が決する。
それを直感で誠は感じ取った。
「面っ!!!」「胴っ!!!」
刹那、バシッ!鋭い音がなった。
旗が上がっているのは相手の方だ。
誠の面よりも相手の胴が早く
決まったらしい。誠は惜しくも
準決勝敗退となった。
...
「誠、惜しかったな。勝てそう
だったのにさ。」
「悔しいけど、あの相手はさ
強豪校の主将なんだ。むしろ
あそこまで戦えたことに驚くよ。
試合が終わった後も、相手は
今日1番の試合が出来たって
言ってくれたんだ。だから、次こそ
は勝ってやるよ。」
「そうか。なら次は勝てよ、誠」
「君に無様な姿は見せたくないからね
もちろん、勝つよ。その時は
ちゃんと写真を撮ってくれよ」
「バッチリ収めてやるから任せろ」
...
こうして、咲人の充実した
夏休み初日は終わった。
俺は咲人よりも、誠になりたい。