追憶〜ザランデュエル(父)
「ミゲル!名前はミゲルにしましょう!」
リデルが連れて帰ると拾った人族の赤ん坊に名前をつけた。
ミゲルか。
うん、いい響きの名前だな。
「では、我らの息子ミゲルよ。健やかに育つのだぞ」
子育てなどした事もない我らには、勝手がわからなくてあたふたしっぱなしだった。
人化してるとはいえ、本来は龍だ。
力加減すらわからなくて、何度も泣かせてしまった。
なぜ泣いているのかもわからず、あやすつもりで抱き上げた途端におもらしをされる事もしばしば。
リデルは笑いながら、我からミゲルを引き取り、聖母の様な優しいまなざしでミゲルを抱き上げている。
リデルは、誰よりも美しい。
ミゲルは、可愛い。
リデルがミゲルばかりをかまっていて、
ちょっと面白くないというか、寂しいと言うか、なんともいいがたい感情が、生まれたことに驚いた。
我だけのリデルでないことが、不満なのか、不安なのか。
ここ600年ほどはずっと2人きりでいたからだろう。
もちろん町で人族に会うことはあったが、家族とは別物だったからな。
そこにミゲルと言う家族が突然増えたのだ。
我が戸惑うのも仕方のないことだろう?
そうは言っても、ミゲルは可愛いのだ。
ふみゃふみゃ泣いているのすら、可愛いのだ。
ニコって笑うだけで愛おしく思える。
リデルの言うように、人族の成長は早いのだ。
ほんの15年ほど、リデルのことを独占出来ないくらいなんでもないのだ。
15年など、龍の我らにしたら、あっという間なのだから。
せめてそんな15年の子育てを楽しもうじゃないか。
なぁ、リデル。
それにこれは、我の推測だが、ミゲルは魔法の才能があるのではないかと思う。
ミゲルの右目は水麗龍であるリデルと同じサファイアのように青い瞳。
ミゲルの左目は炎烈龍である我と同じルビーのように赤い瞳。
ミゲルの髪の色は、黄金色と言っても差し支えない黄色味の強い色だ。
確か人族は、瞳や髪の色で使える魔法属性が左右されるのではなかったか?
もしかすると、ミゲルは基本の4属性―火水風土―の魔法を操れる可能性があるのではないか?
魔力の波が安定したら、魔法を教えてみよう。
リデルも教えたがるだろうな。
リデルの魔法は、とてもキレイに光るのだ。
きっとミゲルも喜ぶだろう。
我はミゲルが望むなら剣も教えてみたい。
まだまだ泣くたびに、魔力の波は揺れる。
どのくらいで、ミゲルは話せるようになるのだろうか?
早く会話が出来るようになるといいのだが…。
それは、とても待ち遠しいな。




