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ワタシ死ねないみたいです。あと○○になる方法、探してます。  作者: マナマナ


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新月の前に

 拓哉の顔は真っ赤だし心臓の音も聞いたことないくらい激しく鼓動を打っていた。


 私だって似たようなものだ。

 自分が何してんのか終わった後に理解した。同じように心臓が破裂しそうなんだけど。


 でも本当にこれって前の私がさせたことなの?それとも・・・

 今井さんとの会話に出てきたファーストキスの感触が今の私に残っていて・・・

 

 あ〜・・・もう・・・正直何がなんだか分かんない。


 ・・・しちゃった・・・親友なのに・・・だって身体が勝手に・・・


 不思議なんだけど・・・・・・心のどこかが嬉しいって・・・


 写真の真相を知った時から前の私の心の鍵が外れて想いが飛び出してきたのは確かなこと。

 自分でもどうしようもなかった。その瞬間、私は私じゃかったのかも。


 ああすることで昇華するしかなかった。

 前の私の気持ち。ずっと隠していた秘密の気持ちは涙となって溢れていた。


「・・・な、なあ相楽」

「・・・拓哉・・・苦しい」

「わ、悪い。つい・・・」

 腕の力が弱まった。そこからすり抜けて私は真っ直ぐ拓哉と目を合わせた。


 なんで視線を逸らすのかな?って仕方ないか、だって私のせいだもんね。


「前の私の気持ち受け取った?」

「・・・前の・・・いいのか?それで」

「いいもなにも。私は彼女の気持ちを尊重したいんだけど。だから・・・いいの。私も記憶にない前のこと思い出したような気がするんだ」

 本当に思っていることを話した。

 間違いなく私は今の私になる前に誰かとしたことあるって今ならはっきりと言うことができるから。


 それにね。昔の記憶があるって分かっただけでも嬉しいの。私は突然生まれた人格じゃないってことだから。でもね、そう考えるとやっぱり私は私じゃないのかもって。


 ホントいつか消えちゃうのかもね。そして元の私に・・・って分かんないけどさ。仕方ないじゃん覚えてないんだから。

 でも今はまだこのまま生きていたいって思っているし、これからはもっと前の私の力になってもいいって素直に思えるんだもん。


 この先・・・今の私が消えてしまったら拓哉はどんなこと思ってくれるのかな?


 だから私はしなきゃならないことがある。


「さっきのこと。いい加減、頭、切り替えてくれないかな。私は切り替えた。今はとても落ち着いているから」

 ホント。なんでこんなに冷静になっているんだろうな。


「・・・あ、ああ」


 拓哉君。そう言っているけどさ、いい加減目を合わせてくれてもいいんじゃない?


「もう。男でしょ。いつまでも引きずっていないでよ。ほら私の目をちゃんと見てよ」

 ちょっと腹が立ったので軽く腹にパンチを入れてやった。気合い入ったかな?


「・・・お、お前な・・もっと加減しろよ。不意打ちって結構痛えんだよ」

 お腹をさすっている拓哉の顔はやっといつもに戻ったように見えた。

「やっと見た。どう落ち着いた?」

 やっぱ駄目か。目が合った瞬間また顔が赤くなる。

「あのね。いま拓哉の目の前にいるのは親友の相楽美有なの。なによキスくらいで。狼狽えて。私はこんなに落ち着いているのに。言っとくけど、キスだけだよ。それ以上は・・・前の私に戻るまでお預けだから。あと、今の私のこと少しだけ教えてあげる。これは今の私の前の記憶だからこの身体じゃない記憶だと思うんだけど。私は・・・ファーストキス・・・経験済なの。私の方が拓哉より一歩先にいる。どう?ビックリした?」

 拓哉は目を丸くしている。信じていないのかな?それとも信じようとしているのかな?

 まあ、どっちでもいいけどね。


「その感じだとやっと冷静になった、で、いいのかな?」

「・・・そ、その・・なんだ・・・」

「今はいいから。その話はまた今度ね。それより今はもっと大事なことがあるの」

「・・・相楽・・お前・・」

 私は拓哉の言葉を遮って

「はい、黙ろうか。拓哉、私の話を聞こうね。新月なの今夜」


 新月って言葉を出した瞬間拓哉の表情が変わる。やっと気持ちが切り替わったみたい。


「・・・やっぱり何かあるのか?」

「う〜ん。そんな予感がするだけなんだけど・・・だからお願いしたいことあるんだ」

「気になっているから協力はする・・・俺にもできることなんだろうな」

「そうね・・・・・・ねえ、その前になんか飲み物持ってくる。私もだけど喉乾かない?」


 拓哉の返事を待って私は部屋を一旦出た。


「・・・・・・ドキドキしてる・・・私って、というか前の私・・・大胆過ぎるでしょ。いきなりあんなことする?せっかくのファーストキスなんだよ・・・」

 洗面台の鏡を見ながら自分で自分に言ってみる。けれど何か答えてくれるわけじゃない。

「半月になったら聞いてやるんだから。初めてのキスの感想を、ね。それと聞いて。私はだんだん今の自分を受け入れられるみたい。だけど私が誰なんて聞かないでよね。私だってあなたと一緒で相楽美有なの。今のところはね」


 顔を洗い終わって気分をあらためてリセットしてキッチンに戻ると


「美有、できてるわよ」

「ありがとうお母さん」

「お茶くらい自分で用意しなさい。女の子なんでしょ」

「まあ・・・それは今度ってことで」

 私は紅茶とお菓子の乗ったトレーを受け取った。お母さんは私の顔を覗き込んで

「さっきからずっと顔が赤いけど熱でもあるの?」

 え?まだ?ったく、私は落ち着いているのに、こりゃ前の私だな。

「平気。なんともないよ。熱なんてないよ」

 お母さんは両手の塞がった私のおでこに手を当てる。

「そうね・・・じゃあ拓哉君によろしくね」

「う、うん」


 キッチンを退散して部屋に戻ると拓哉は何かを見ている。


「なにしてんの?」

「見ての通りボール見せてもらってた」

 拓哉はサッカーボールを手にしていた。

「ずっと大事にしているんだな」

「まあね、だって前の私の、男の方ね、大事なものでしょ。捨てるわけないよ。正直今の私には全然興味ないけどね」

 はっきりと言うと拓哉はじっと私のことを見て

「なによ。もしかして拓哉も私のこと別人だって思っている、違うか、ホントはずっと思ってたんでしょ。お前は本当は誰なんだって」

「・・・い、いや・・」

「いいよ。気を使わなくても」

「・・・俺だって正直よく分からない。あの時、その言葉でお前のことを傷つけたと思っていたし、あのカードの言わされたような気がいていた」

「それで?今はどう思っているの?今の私は何を言われても平気なの。っていうか平気でいたいの。自分でも私は誰なんだろうって。どこから来て・・・どこに行くのか。今は知りたいの。私はいつまで相楽美有でいられるんだろうって」

「相楽・・・お前・・・だからさっきの」

 拓哉の顔色は変わらない。もう腑に落ちたってことでいいのかな?

 それとも男の子ってキスっていう境界線を越えると終わったことになっちゃうのかな?


 ホントはさ、ずっとドキドキしていて欲しい。私の顔を見る度にドキドキして欲しい。でもこの気持ちって前の私の気持ちかもって思うと私の気持ちってどこにあるのか見失いそうになる。不安になる。

 だからこれから起こることをしっかり記憶しておきたいの。

「もう終わったことだよ。もし拓哉がもう一度私とキスしたいなんて言っても私は断固拒否するから。だって今の私と拓哉は親友でしょ。親友ならしないもんね」


 拓哉・・・複雑な気持ちだよね。分かるよ。私だって写真のこと聞かなかったら、ずっと相楽美有で生きていくって思っていたから。


 ホント。意識が戻ってから変なことばっかり。ただ普通に生きて普通に暮らしていたいだけなのに、それ以上は何も望んでいないのに、ささやかな邪魔が私のことを惑わせるんだ。


 前の私が生きているって知って戸惑っていたけど彼女の気持ちを知ったからかな。

 なんか覚悟ができた。

 私はいつか消える。

 でもただ消えるのは嫌。

 私は私の存在理由を知るまでは絶対に相楽美有を辞めない。


「・・・俺はお前に何をしたらいい?」


 拓哉・・・優しいね。その優しさは誰のため?


 君が親友って立場でいてくれたことに感謝したらいいのかな?それとも出会わなければ良かったのかな?

 今さら過去を変えることなんてできない。

 分かっているよ・・・ホントは消えたくなんてないって思っている私もいるんだよ。


「お前・・・」

「・・・ご、ごめん・・・また・・・」

 泣き虫だな、私って。なんかずっと泣いている人生を送っていたような気がする。


 私は涙を抑えるために鼻をかんで

「とりあえずさ、持ってきたお茶でも飲もうよ」


 小さなテーブルに向かい合って床に直に座った。クッションもあったけど今はのんびりしている場合じゃない。新月の時間が迫っている。ネット調べたから正確な時間は把握しているんだ。


 真の新月。太陽、月、地球。真っ暗で真っ黒な見えない月。


 その瞬間になったら一体何が起こるの?起こるとしたら何が待っている?

 本当は何も起こらないっていうのが理想なんだけど満月という前例があるから、その可能性は極めて低いって思うのは仕方のないよね。


「・・・うん・・おいしい」

 温かい紅茶が喉を過ぎて胃に到達してやっと本来の私に戻れたと思う。

 拓哉も同じかな。見ていて分かる。

「・・・やっぱり紅茶って美味いな」

「気に入った?」

「そうだな。それに気持ちも落ち着く。今度買いにいくか」

「だったら一緒に行こうよ。いいお店知ってるんだ」

「そうなのか?スーパーでもあると思うが」

「まあね。でも専門店の方がいいよ。この茶葉がいいならなおさらだよ」

「詳しいんだな」

 拓哉はきれいに飲み干したので追加で注いでやる。

「それはさ、お母さんもビックリしてた。もしかしたら今の私って昔から好きだったのかも」

「そうか・・・なら明日はどうだ?」

「明日・・・無事迎えられたら」

「どういう意味だよ」

「言葉通り。言ったでしょ、私は、もしかしたら拓哉もかもだけど、今夜を乗り切らないと明日は来ないってこと」

「・・・あとどれくらいで新月になる?」

「深夜2時37分。これってお互い寝ている時間だよね」

「まだ結構あるな。それで俺は何をしたらいい?」

「あのさ。急にこんなこと言ったら迷惑かもしれないけど、今夜ウチに泊まらない?」

 拓哉の反応は噴き出した紅茶で分かる。

「ゴ・・ゴホ・・お、お前・・ゴホ・・急に変なこと言うなよ」

「急って言ったのに。ほら」

 私はティシュを渡す。拓哉は自分の口元と飛び散らせたテーブルと床の紅茶を拭く。その間も咽せていた。


「落ち着いた?」

「・・ゴ・・ああ、なんとか」

「じゃあ続き。それでねこの部屋で一緒にいて欲しいの」

 今度はカップを倒して中に残っていた紅茶をテーブルにこぼした。

「・・あ、あのな・・・そんなの駄目に決まっているだろ。お前の親だって許さないだろ。俺達、高校生なんだよ。小さい頃とは違うんだ」

「知っているよ。でも一緒じゃないと駄目な気がするの」

 拓哉は返答に困っている。

「拓哉のこと信じてる」

 そういう反応が返ってくることくらい予想済みだから。それに信用しているってことはホントのことだから。

 じっと黙ったまま何かを考えている。じっと見ていると拓哉は急に立ち上がって

「今からお前の母親のところに行く」

「はあ?どうしたのよ急に」

「だから誤解のないようにちゃんと許可を取る。それでOKならお前の言う通り泊まってやる。俺のこと信用しているんだろ」

「うん」

「だったらちゃんと誓いを立てるための話をしに行くんだ」

「誓いって?」

 私に答える前に部屋を出て階段を降りて行ってしまった。

 仕方ない。戻ってくるまで待つか。私はすっかり冷めたカップの残りを飲んでから新しく注いで一緒に持ってきていたバームクーヘンを食べた。

 窓の外にある空気がだんだん重みを増してゆくような気がするのは気のせいだろうか、それとも本当なのだろうか、どっちにしても今夜・・・だね。

三月も啓蟄を迎え、季節が静から動へと移って行きます。

読んでいただきありがとうございます。

桜前線はまだまだ先ですが春がまた一歩近づいた。

そんな気がします。

一区切りつく頃にはお花見に行けるかな。行けるといいな。

桜餅と巻き寿司とビールでも持ってね。

よし。それを目標に書こうじゃないですか。

次回もよろしくお願いします。

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