だんだん地獄っぽく
「失礼します」
彼女よりも先に中に足を踏み入れて驚いた。最初に目に入ったもの。それは頭上に空が広がっていることだった。現世のようにどこまでも広がっている。瞬きを増やしてもう一度見てみる。
やっぱり空だ・・・ほんとう?どこまでも青くて、大きな積乱雲さえも立ち昇っている。
「きれい・・・夏の色みたい」
言葉が溢れる。それは溜息にも似た声だった。
「どうですか?いい所でしょ。皆さんが思っているあの世とはかけ離れて想像なんて出来ないでしょう。でもこういう場所もちゃんとあるんですよ」
自慢しているみたいに聞こえる。慣れてくると今度は花畑に囲まれているような香りも風に乗ってくる。こんなに気持ちのいい場所は生きている時にだって出会ったことがない。
暗闇にいた時の重く嫌な気持ちがリセットされて今はとても心地良い。おかげで心も身体も軽く感じる。
「さ、こっちです」
案内されてさらに先に進んで行くと、いつの間にか足元は本物の花で埋め尽くされている。
その間を縫うようにちゃんと石で作られた道があって花を踏むことがないように配慮されていた。赤い花、黄色い花、青い花、どれも見たことのあるような気がするけど、どれ一つとして名前が分かるものがない。もっと感心を持っていれば良かったかな。そんなことを思って歩く。
しばらく歩くと目の前に青い屋根の東屋が現れる。中には一人いて、何か慌てているようでこっちに向かって大きく手招きをしているのが見える。気付いた彼女の足は少し速まったので私も慌てて合わせて歩いた。
「完全に遅刻ですよ」
「知ってます。これでも急いで来たんですよ」
そう言う割には余裕があるように見える。
「あら、そういえば久し振りですね。ずいぶん美味しそうになって」
「でしょ。あ〜あ楽しい時間ってあっという間に過ぎちゃうんだもん」
「確かにね。いえいえ、そんなことより実は今ちょっと機嫌が悪いんです」
中にいたのは青い髪をして青い瞳で真っ白な肌をした女の子。着ている真っ白な服。これで真っ白な翼があれば、どう見ても天使にしか見えない。可愛い。そんなことを思って見てしまう私は蚊帳の外にいる気分がする。
「それはマズいですね。ちょっとゆっくりし過ぎましたか」
「本気で急いだ方がよろしいですよ」
「そうする。あ、そうそうアヴェル、後で渡すモノがあります。で、どれくらい機嫌が悪いんですか?」
「あらそうなんですか?なら今日終わったらいつもの店で待ち合わせはどうですか?あ、話が逸れましたね。そうですね。レベル3といったところでしょうか」
「げ!何で?」
私の存在を思い出したみたいにこちらに振り返る顔は心なしかちょっと青ざめているみたい。その顔なら私にだって何となく考えていることが分かる。多分『あ〜やっちゃた』的な。それによく見てたアニメの一コマが浮かぶ。そういう時は大体顔の半分に縦線が入る。それが重なってつい可笑しくなってクスリと笑ってしまう。
「あの、なんか楽しいことでもありました?もっと自分の置かれた立場を理解して下さい。実に言い難いんですが」
本当に言い難そうにしているし声も少し震えている。なんだかこっちまで悪いことをしたような気になったから軽く咳払いをして心を落ち着ける。
「絶対怒られると思います。私もあなたも。だからせめて礼儀正しく粗相のないようにして下さい」
閻魔大王が怒るってどれくらい怖いことなのだろう。
この方達がこんなにビビってるってこと自体、もうすでに想像の域を越えている。死んでまで怒られるなんて、なんて理不尽なのだろう。死ぬの早まったかなと思ってしまう。
「これ以上待たすのはまずいです。ここでの手続きは省きますので早く行かれた方がいいでしょう」
「そうですね。それじゃ後で」
青い髪に言われて軽く言葉を交わして再び歩き出す。
歩みを進めると景色が急激に変わり始める。なんだかプロジェクションマッピングのアトラクションみたいな感覚だ。
そしてあっという間に周りは夕陽にでも照らされているみたいに真っ赤に染まっているし、道はあるのに花はなくなって代わりに岩がゴロゴロとした殺風景な景色になっていた。なんだかこれぞ現世で伝えられている地獄そのものみたいに変わっていった。私、もしかしてとんでもない所に来てしまったのでは?
しかし後悔してももう後戻りなんてできない。ここはそんな場所だということを痛感する。
不安しか今はないけど、それでも私には伝えないとならないことあるんだ。そう思うことが一歩踏み出す勇気が出るような気がしていた。
読んでいただきありがとうございます。
今回は少し短めです。なんだか牛車に乗っているみたいにのんびりです。
今のところ自分のペースとしては火曜と金曜をアップ日にしています。
まだまだ模索段階ですが次回もよろしくお願いします。




