夢は何を求める?
「拓哉」
その声・・・俺はお前の声が聞きたかったのかもしれない。心が高鳴るし嬉しいのに苦しい。
不思議だ・・・・・・急に冷静になってゆく・・・
俺はお前に謝らないとならないことがある。
勝手に勝手なことを妄想をしてしまったことに。
お前のことを穢してしまったような罪悪感が溢れてくる。お前は何も悪くない。
でも口にすることはしない。俺は心の中で静かにお前に謝る。
「凄い勢いで走ってたでしょ。なんかあったの?」
相楽の呼吸は少し上がっているように聞こえる。
「・・・見られてたのか」
普段と何も変わりはしない。だから振り向くことができた。
「私、あの通りのカフェにいたんだよ」
「カフェ?」
「話の途中だったんだけど、気になって追いかけてきたんだ。やっぱりもう追いつけないよ。拓哉速過ぎ」
「・・・無理させたな」
「ううん。そんなことないよ。言ったでしょ。私は見ての通り元気なの」
こうしているとあの時のお前はもうどこにもいない。それだけは分かる。あんなに辛そうな顔は今のお前には微塵も感じない。
それはとても良かったってことってことでいいんだよな。
記憶が曖昧なのは何かがリセットされたってことでいいんだよな。
だったら俺との関係だってリセットされていてもいい・・・・・馬鹿、なんてこと考えているんだ。
馬鹿な妄想を抑えることに必死に集中した。
「どうしたの?じっと見て」
相楽は本当に全力で走ったのだろう。上気した頬の赤味にまだ乱れている呼吸。それだけ俺のことを気にしてくれていたことに嬉しく思う。それがどんな思いの嬉しさなんて分からない・・・いや違う。俺は認めたくないんだ。でも今はそのことは頭から追い払う。
今は親友として受け止めるんだ。それが俺と相楽を繋ぐパイプになる。
「いや何でもないんだ」
嘘だ。けれどそれ以外の言葉が見当たらない。
「そう?」
「ああ。心配してくれてありがとな。ホントのこと言うと腹が減って早く飯が食いたかった」
これはちょっと苦しいか?相楽の反応を見ていると
「あはは、ホントに?男の子ってそんなことで真剣になれるんだ。なんか子供みたい」
相楽は笑いながら言う。信じてくれたでいいのか?目の前の相楽の無邪気な顔は嘘じゃない。
「そっかそっか。お腹・・・それ聞いたら私もお腹空いちゃった」
「カフェで何か食ってたんじゃないのか?」
「うん。季節のパフェ食べたよ」
「・・・季節のパフェ」
それは甘いんだろうな。でも言葉の響きからして美味いんだろうな。
「うん。美味しかった。今度一緒に行こっか。甘いもの好きなら。あ。お腹空いて全力疾走するくらいの子供だから好きだよね。だから行こうよ」
お前の笑顔は俺には完全に女の子としか映らない。その視線・・・俺は昔を思い出す。
「ああ、考えとく。あと、お前もな」
「あ、もしかしてマネージャーのこと」
「ああ」
「それさ・・・」
相楽はなんだか言い難そうな顔をしたがすぐに両手を顔の前に合わせて
「ごめん。なんかさ、成り行きで『写真部』に仮入部することになった」
「写真?ああ、あいつか」
「そう。今井さんにめっちゃプッシュされて。だから今のうちに謝っておこうかなって」
「本格的には決めてないんだよな」
「う〜ん。正直揺れている。いいなって思っている気持ちもある。ま。仮入部期間が終わったら最終的に答えを出すつもり」
「気にするな。俺もどうしてもと言っているわけじゃない」
「でも・・・せっかく声かけてくれたのに。なんかごめんね」
「いや。俺の方こそお前がまだ帰宅部だってことだけで提案しただけだ。言い換えれば都合がいいように思えた。むしろ俺の方が押し付けがましいんだ」
今日の俺はいつもより言葉選びが素直過ぎる。直接過ぎて引かれていないといいのだが
「・・・確かに。拓哉からしたら私は丁度良かったのかな」
「悪い・・・こんな言い方したいわけじゃなかったんだ。でも俺は正直に思ったこと話したと思っている。嫌な気持ちにさせたなら謝る」
相楽はそれ以上は触れない。俺の言葉のことを考えているみたいだ。
「私帰るね。また明日ね」
それだけ言うと走って行ってしまう。俺は後を追うことも声をかけることもできなかった。
なぜ俺の心はこんなに落ち着いていられるのだろう。
明日。相楽に会った時。俺はいつもの俺でいられるのだろうか・・・
「・・・相楽美有・・・親友でいいのか俺達。いつまで親友でいたらいいんだ・・・」
夜は深まる。俺は・・・一体何を考えている?
月の姿がさらに消えかかっている。
誰だ?
顔にはモザイクが掛かっていて認識することができない。
俺の手・・・何をやっている?
白くて細い・・・首?
俺は馬乗りになって首に手を回している。
気がついた時にはもうこうなっていた。ならいつからこうしている?
離したいのに手は別の意識を持っているみたいに言うことを聞いてくれない。
俺は何かを必死に話している。叫んでいると言ってもいい。
口も無意識に動いているのに耳は何重にもフィルターに被われていて何も聞こえない。
・・・夢だ・・・これは間違いなく夢だ・・・・・・
力はさらに強くなってゆく。それは俺自身が知らない限界を越えた力みたいに感じる。
火事場のクソ力、もしくは怒りでリミッターの外れた未知の力。どっちにしても制御できない。
ホントはこんなことしたくはない。なぜこんなことをしている?その理由さえ分からない。
相手の口が微かに動く。首を締めているんだ。ホントなら苦しくて言葉なんて発することできないはず。
・・・・・・何で笑っている?
突然目を醒ます。
一体いつ眠っていた?自分が寝た記憶なんてどこにもない。
着替えすらしていない。制服のままベッドにいた。晩飯を食った記憶もない。それどころか相楽が帰ったあとの記憶が一切欠けている。
真っ暗な部屋。なら今は真夜中なのか?それとも夜が空けるのか?
ベッドから起き上がって気がつく。
腕がとても疲れている。痺れている。腕立て伏せを立て続けに100回やったくらい痺れて震えていた。
やっと掴んだスマホを見ると午前三時の表示が確認できた。
それはいつの午前三時なんだ?日付を見ると一日経った次の日が表示されていた。
朦朧としている意識を懸命に掻き集めて神経を集中させる。
何が起こった?なぜこんなことに?頭を廻すんだ。
頭を動かせ。体を動かせ。心を動かせ。
俺は俺自身に命令をする。現実に戻るんだ。太陽が登る前に。
なぜそんなことを思う?太陽が登ったら何になる。決まっている朝が来る。朝が来たらどうなる?学校に行く。学校に行ったら何をする?
・・・決まっている。相楽に会うんだ。
相楽・・・相楽美有・・・お前は本当は誰なんだ?
それは俺が言った言葉だ。その時アイツは部屋を飛び出して行った。
なんで俺はそんなことを言った?
いや・・・言わされたんだ・・・
俺は利用された。誰が?なんのために?
まだ震えている両手を見ている。夢だったのに感触が蘇ってくる。
・・・あれは一体誰だ。
時間と共に気持ちがやっと静かに落ち着いてくる。
部屋の中の空気が淀んでいる。
新鮮な空気で深呼吸したら頭はもっと冴えてくるはず。
ふらつく足で俺は真っ暗な部屋を横切って未だ微かに痺れを残している手で窓を開けベランダに出た。
「・・・な、なんだ?誰かいるのか?」
ベランダで見たのは真っ白な影だった。
人なのか?どこからか入り込む光が反射していて今の俺の頭では判断がつかない。
でも俺の声に反応して振り返ったような仕草が見える。
次の瞬間
「・・・・・・?」
大きな翼が広がったように思った。鳥?人くらいの大きさがあった。
目の前の何かは飛び上がった瞬間、もうどこにも姿がなかった。
「・・・まだ夢の中なのか?」
俺が再び意識を認識した時。朝だった。やはり制服のままベッドの中にいた。
「・・・・・・これも夢・・・なのか?」
でも夢じゃなく現実だった。母親が部屋の入ってきたからだ。
「いつまで寝てるの?遅刻するよ」
その言葉一つで現実が身に染みてくる。
俺は頭を振って自分の手を見てみる。やはり微かに痺れと疲労が残っていた。
今夜は新月です。
読んでいただきありがとうございます。
気温の乱高下が激しくて体調管理が大変です。
こういうの『冴え渡る』と言うみたいですね。春はまだ遠い。
まだまだコートが必要ですね。
さて。元気な内に書き溜めるか・・・
それではまた次回。よろしくお願いします。




