蹴り損ねて、こんにちは
どれくらい歩いた?
喉が乾いたのに財布もスマホもない。
目の前には自販機があるのに門前払いを喰らっている気分だ。せめてスマホくらいは持って出るべきだなと後悔していると足に何かが当たる。
「ん?なんだ?・・・・ボール」
見覚えのあるサッカーボールがあった。拾ってよく見てみると
「間違いない。相楽のだ。なんでこんなところに?」
周りを見ても相楽の姿はない。でも視線の先にはいつもの公園がある。
もしかしてそこにいるのか?サッカーはもうしないと思っていたのにどういうことだ?
しばらくすると公園の方から人影がこっちに向かってくる。逆光でよく見えない。相楽だろうと思って反射的にボールを蹴ってパスをした。
「お、サンキュー」
男の声?誰だ?相楽・・じゃない。やがて見える顔。
「いいパスじゃん。もしかしてサッカーやってる?」
その男の髪型に昔の相楽の姿が重なる。ただ単に似ていたからそう思っただけだろうな。
「あっちでもう一人と遊んでんだけどヘタ過ぎて。暇だったら一緒にやらねぇ?」
「このボールは?」
「ああ、持ち主は女。一人で遊んでて面白そうだったから一緒に遊んでたんだ。で?どうする」
女・・・相楽?で、コイツは誰だ?同じ学校にはいない。
「そいつは俺の親友だ」
「そうなのか?じゃ問題ないな。行こうぜ」
並んで歩いていると不思議な親近感みたいなモノを感じる。
「お前、背が高いな。いいなぁ。俺ももっと背が伸びて欲しいぜ」
いろんなことがデジャヴしてくる。昔の相楽の口癖と一緒なところが特に。
「まだまだ成長期。これでも十センチは伸びたんだぜ。いずれ並んでやる。ってお前名前は?」
俺が見ているのは誰だ?前の相楽?そんなはずはない。ただ言動が似ているだけだ。
「俺は日下部拓哉。高校一年。サッカー部」
「日下部・・・覚えた。俺は佐藤 元。同じく高校一年。そして同じくサッカー部。俺のことはゲンって呼んでくれ」
「なら俺も拓哉でいい」
「分かった。拓哉な。おおい、仲間連れて来た」
その先には相楽の姿があった。手を振っている。俺も手を挙げて答えた。
「なになに、おたくらもしかしてそういう仲とか?」
「さっき親友って言ったはずだが」
別に深追いするわけでもなく公園に戻る。元は相楽の目の前で
「お前の友達なんだって?」
「うん。拓哉、偶然」
二人を見ていると本当に初対面なのか?昔からの知り合いみたいな感じを受ける。
「ああ、偶然。相楽はこんなところで何やってんだ?」
「何って、見ての通りサッカーだけど。っていうかボールを蹴っていただけだけどね」
見るとジャージが派手に汚れている。
「おい、それ俺のジャージじゃないのか?砂だらけだが」
「また借りちゃった。ちゃんと洗って返すからいいでしょ。それよりやっぱ私にもうサッカー無理かも。蹴ろうとしたら思いっきり転んじゃった。ボールに触るどころかちょっと擦っただけだし」
よく見ると相楽は全身砂だらけだ。そして隣りの元が成り行きを話す。なんで肩に手を置いている?相楽もなぜ受け入れている?俺だってなかなか出来ないことをサラッとしている姿に胸の辺りがモヤってくる。
「そこへ俺が丁度通りかかったわけ。思わず笑っちまった」
「女の子が転んでるのに笑うって酷くない?普通助けるでしょ」
「いやいや。あれは先ず笑ってから助けるって流れだ」
その時の光景を思い出したのか、くっく、と笑っている。やっぱ前の相楽に似ている。
「仲いいんだな」
なんでこんなこと言うんだ?二人の間には不思議な距離感がある。それは俺にはない距離感だ。
「そう?さっき会ったばっかりだよ。ん〜、でもなんか親近感あるんだよね」
「あ、それ俺も思った。なんか初めて会ったって気がしないんだよな」
「昔どっかで会ったことある?」
「ないと思う。第一、俺今日長崎から来たばっかだし」
「長崎?行ったことない。でもなんでこっちに?」
相楽がそう言うと時計を見て
「やべ、そろそろ行かなきゃ。今日さ地元のクラブの試合なんだ。デイゲームだから応援に来たんだ。そうだ、またこっち来ることあったら連絡してもいいか?」
「そうなんだ。それで試合終わったら帰るの?」
「明日学校だしな。それより交換」
差し出されたスマホの画面を相楽は読み取っていた。
「えっと相楽・・・なんて読むんだ?」
「え?分かんないの?」
「読めないわけじゃない。ただ、候補がいくつもある。簡単そうだが意外と難しい名前だな。『みゆ』『みう』『みゆう』。この中で正解はある?」
「うん。じゃ当ててみようか」
「う〜ん。じゃあ『みゆ』」
「ハズレ。正解は『みう』」
「くそ外した。ま、分かった『みう』な。俺は『さとうはじめ』平凡だろ」
「そう?いいじゃん。分かりやすくて」
「まあな。みんな俺のことは『げん』って呼んでるんだよ。だから美有もそう呼んでくれ」
「いいよ。ゲンで登録しておく」
「OK。俺も『みう』で登録しておく。あ、そうだ。拓哉も交換しようぜ」
元はスマホを俺に向けた。けど
「悪い。家に置いてきた。散歩してただけだから何も持ってないんだ」
「今時そんなのあり?せめてスマホくらい持っておこうぜ。ま、いいや。次は必ずな」
元はまた時間を確認して
「じゃ俺行くわ。いい時間潰しになった。それにお前らにも知り合えたしな。ところで駅はどっちだ?」
俺は駅までの道順を教えると駆け足で行ってしまった。後には俺と相楽だけが残された。そろそろ昼時なのか近所の家からはいい匂いがしてくる。
「なんか台風みたいなヤツだったな」
「ね。私が派手に転んだの見て爆笑したんだよ。そしてさ、最初に出た言葉が『大丈夫』じゃなくて『こんにちは』だって。ちょっとムカッとしたよね」
「その割には楽しそうに遊んでたんだろ」
この二人の距離感は近過ぎる。初めて会った人間とここまで意気投合することってあるものなんだな。波長が合うとでもいうのだろうか。
俺と相楽はそんなことなかったと思う。初めて声を掛けてきたのは相楽の方だったか。幼稚園の頃だったから詳しくはよく思い出せないけど。
「どうしたの?もしかして妬いてるとか?」
なんで笑っている?
「馬鹿なこと言うな。どうしてそうなる?」
「だってずっと眉間にシワ寄せて黙ってるから」
妬いている?言われるまで自分がそんな顔をしているなんて気付かなかった。
「考えていたんだ。元のことを見てると・・・・いや、なんでもない」
「ちょっとなに?途中で止めるなんて気になるよ」
今は自分でもよく分からない。嫉妬・・・・しているのか?
俺達は長い年月を掛けて今の関係を築いた。それなのにアイツは今日会ったばかりで俺よりも近い距離を相楽の間に築いた。
そういうことだってきっとあるだろう。
でも目の前でそれを見せられたらやっぱり気分はどこか曇ってしまう。
今の相楽もどこか昔の面影があったりなかったりするが、元の方がもっと昔の相楽に近いような気がする。
なんだか生まれ変わりみたいだ。じゃあ今の相楽はどうなる?
「ちょっと拓哉・・・もう。そろそろお昼だから私達も帰ろうか」
「そうだな。でもなんで急にボールを・・・」
「う〜ん。自分でも分かんないけど気分転換になるって思ったんだ。おかげで元と知り合えた。なんか不思議な出会いだった。会ったことないのにずっと昔に知り合ったみたいな?うまく言えないんだけど」
相楽はボールを持つと
「また会えると思う?」
「会いたいのか?」
「う〜ん・・・会えるっていうか会うような気がする。この先いつか」
相楽はボールを抱えると
「また明日ね。ジャージ持ってくから」
「ああ。また明日」
相楽を見送って俺はブランコに腰を降ろした。
元々小さいのか、いや俺がデカくなったってことだ。漕ぐにはサイズが合っていない。軽く揺れるくらいしか出来なくなっている。
小さい頃は相楽とどっちが遠くに靴を飛ばせるか競ったことを思い出す。
「懐かしいな・・・・そっか・・俺は元にあの頃の懐かしさを感じていたんだ」
あの日を境にいろいろなことが少し変わってしまった。
俺は俺の気持ちがよく分からない。けれど決めたことは絶対だ。譲れないことだけが現実として残っている。それはこれからどうなるかはもっと時間が必要だろう。
大きく深呼吸するといつもの日常の空気がある。俺は再び頭の中をカラにする。そのための散歩だもんな。
日常なのに非日常みたいな昼下がり。俺は深く考えないように公園を後にした。
アップ日の今日は海王星が牡羊座に還ってくるそうです。
読んでいただきありがとうございます。
私はばきばきの牡羊座でございます。
これから運が良くなるといいな。←日常は常に運頼み。
あえてぐしゃぐしゃさせている物語。これからの展開が気になる。
こぼしてこぼして回収する。
とっ散らかっている物語ですが次回もよろしくお願いします。




