私は願いを叶えたい
天文台
相楽、お前もしかして思い出したのか?あの日のこと・・・
北風が強く吹いてその中には雪だって混ざっていた。病院を抜け出したお前が俺を呼び出した場所だってこと。
俺の体温はあの日のことを確実に感じている。あの時お前はこう言ったんだ。
『ホントの気持ちだと思う。最後だから。俺の・・・・・・・・・私の本当の願い。叶うことなんてない・・んだけど・・・・・』
後の言葉は風に掻き消されて聞こえなかった。
次の瞬間、俺の目の前からお前の姿はなくなっていた。
やっと見つけた時はお前の意識はなかったが命は懸命の処置のおかげで助かった。
それ以来お前と会うことはできなかった。
頂上までは登り坂が続くが十五分も歩けば到着する。
着いた頃には俺も相楽も身体が熱くなっていた。薄ら汗もかいたが風がさらに冷たくなったせいで、あっという間に乾いていた。
「・・・懐かしい・・・昔もこうやって拓哉と街を見たことあったよね」
「そうだな。特に練習の後とかな」
「練習?」
「なんだよ。もう忘れているのか?サッカー、やってたこと」
「・・・ああ。そう・・・だったね」
そのことはまだ全然思い出すことがないみたいだ。むしろ他人事みたいだ。そんなフィルターを通してみると相楽の存在が遠くに感じてしまう。
「ねえ見て」
指差す方角にはオレンジ色の太陽が地表に吸い込まれてゆくように揺らいでいた。それは昨日の夕陽と同じだ。世界はオレンジ色に染まってゆく。俺も相楽も街も何もかも同じ色に染まっていた。
「キレイ・・・今日はありがとう。おかげでこの街に馴染んできたように感じる」
相楽の横顔をなんとなく見ていた。
「おい・・なんで泣いている?」
「え?うそ?」
頬を触る相楽は驚いた顔をしている。
「・・・ホント・・・・・・なんで?悲しくなんてないのに。勝手に出て・・・」
もしかしてあの時も泣いていたんじゃないのか?はっきりとは分からないけど。
最後の方の言葉は風で聞こえなかったんじゃなくて泣いていて声にならなかったのか?ふとそんなことを思った時だった。
「本当の願い・・・叶えたい。まだよく分かんないけど」
「お前・・・」
「ねえ拓哉。私には叶えたい願いがあるの。ううん、あったの。それは前の私のことみたいなの。なんかさ、私ばっかり楽しんでて、でも前の私がいるとしたらって考えたらなんとかして叶えてあげたいなって思ったの」
「なんでそんなこと思うんだ?」
「真っ白なワンピース。見たことない?昨夜部屋で見つけたんだ」
ワンピース?・・・それは前のお前のモノの話なのか?
「いや、見たことはない」
「・・・そっか。なんかよく分かんないけど前の私はそれに想いを託していたみたいなの」
「まさか」
「絶対前の私だと思う。だって隠すように引き出しの奥にあったんだ。この景色を見ていたら急に気持ちが入ってきたっていうか。入学式の後に先生から聞いた。拓哉は私が意識を失くす時に一緒にいたってこと。それから口止めされているってこと。でも安心して、聞きたいなんて言わないから。だから拓哉も黙ってて欲しいの」
相楽は俺の方に近づいてくる。そして身体を寄りかからせた。何ヶ月も眠っていたせいで身体の筋肉はすっかり落ちて相楽の重さは全然苦にならないくらい軽く感じる。
夕陽は赤味を帯びて残り半分で完全に地上から失われてしまう。相楽は何も言わずにただ身体を預けている。
俺は動くことも声を掛けることも出来ずにじっとしているしかなかった。
「このことは私達だけの秘密ってことにして欲しいな」
「・・・秘密・・・俺達だけの」
俺はまた一つ秘密を抱えることになった。嫌なわけじゃない。ただ・・・なんて言うか今の俺には何も出来ないってことが歯痒い疼きみたいに感じてしまう。
なあ相楽。その願いとやらを叶えたらその後はどうなるんだ?今のお前はどうなるんだ?
そんなこと思ったところでお前にだって分からないんだろうな。
お前が叶えたいという気持ちは入れ替わった自分への贖罪としてなのか?もし入れ替わることなく前のお前の願いが叶っていたらどんな世界が広がっていたんだ?答えなんて出ないのに疑問だけは溢れてくる。
「やっぱり今日ってデートみたいだね」
「デートっていうのは・・・本来は好き合っている男女がするもんだと思うが」
「私は拓哉のこと好きだよ。もちろん親友としてね」
「親友なら、なおさらデートとは呼ばないと思うが」
「なにそれ。そんなこと聞いてないんですけど。拓哉は今の私のことどう思っているの?知りたいな」
もう夜がやって来ていた。さっきまであった太陽は欠片すらもうどこにもない。
入れ替わるように星の瞬きが大きくなる。さすが天文台。よく見える。外灯もないから相楽も俺もお互いの顔が暗くて凹凸くらいしか分からない。それでもお前の瞳の輝きはあの星達にも負けないくらい瞬いているのが分かるんだ。
「俺も好きだ。もちろん親友として」
俺が答えた瞬間、相楽の瞳の中が強く瞬いたように見えた。
「お互い好きならさ、やっぱデートじゃん。でも普通のデートとは違う。私達だけの秘密のデート」
「・・・お前がそれでいいなら・・・俺もそれでいい」
しばらく街灯りを二人で見ている。相楽の体温が俺に、俺の体温が相楽に。不思議だな。
「そろそろ帰ろっか。夜になったしお腹も空いた」
「そうだな」
俺達は歩き出す。天文台を降りるまでお互い会話らしい会話はなかった。でも沈黙は苦じゃない。喋りたければ喋ればいいし、そうじゃないなら黙っていればいい。俺達はそういう関係だ。
秘密のデートか・・・やれやれ・・・また秘密が増えた。
見上げる天の川は天空を舞っているワンピースのように見えたのは俺だけなのだろうか。
1月3日の満月はスーパームーンだったそうで。
読んでいただきありがとうございます。
この次スーパームーンが見られるのはなんと10ヶ月後。
スーパーと言っても気を上げて金色になることじゃない。←誰でも知ってる。
一回くらいはなってみたい。これは誰しも思うこと。
ハァ〜〜〜〜ハッ!!! なんてね。
話は大きく逸れました。アホな私に付き合ってくれて感謝します。
ついでに次回もよろしくお願いします。




