スカート
目を醒まして昨日のことがすぐに思い出された。
相楽はあの後はどうなったのだろう?
家までは無事に送り届けたがあれから連絡は取り合っていない。ということは特に何か変なことは起こらなかったと考えてもいいのだろうか・・・多分いいんだろうな。
今日は今日でまた顔を合わせるんだ。その時に何かあったらなら向こうから言ってくるかもしれない。それまではあまりこちらから踏み込んで聞くことはしない方がいいんだろうな。
スマホのアラームが鳴った。そろそろ支度するか。
早朝からの練習は心地良かった。昨日のことで気分がモヤモヤしていたせいもあるからかもしれない。
空気は少し肌寒いが身体が火照ってくると丁度よくなる。だんだん調子が上がると本格的に汗が噴き出すようになって惜しくも練習は終了した。
俺達一年は相変わらず片付け担当だったが、みんな早く帰りたいのだろう。今日に限って先輩達も一緒になって道具の片付けをしている最中に相楽はやって来た。
「拓哉、お疲れ。練習終わり?」
声に気付いて振り向く。俺は動揺した。
「おお・・おつ・・・・・・かれ」
「?」
相楽の姿を見た瞬間、言葉が途切れてしまった。それもそのはず。なんでスカート姿なんだ?制服姿だってやっと慣れてきていたと思っていたのに・・・・・・
俺の反応は想定内だったのか、じっと見つめて俺の次の言葉を待っている。だが一体何をどう言ったら良いのか分からない。
「何よ。さっきから。練習終わったんでしょ」
相楽はもう一度同じ話題を振ってくる。
「ああ。もう少しで片付けが終わる。もうちょっと待っててくれ」
「・・・忙しそうだね。私、あっちで待ってるよ」
俺の返事なんて待たずに相楽は歩いて行ってしまう。その後ろ姿見ていると自然と足を視線で追ってしまっている。頭を振ってから慌てて片付けの続きに入っていると
「おい、あれってお前の彼女か?」
一緒に片付けをしていた同級生が話し掛けてきた。それもなんでみんなで?
「違う。よく見ろ。同じクラスの相楽だ」
「相楽?三組の?マジか」
何でそんなに声が躍っている?それにもう見えなくなっている相楽の姿を探している?
溜息をついて考える。これはちゃんと説明しておいた方がいいだろう。
「この後予定していることがあってここで落ち合う約束をしていたから来ただけだ」
「おい、それってデートって言うんじゃねぇ?」
デート?おいおい、俺はこれっぽっちもそんな風に考えていないしその無駄なキラキラした視線で俺を見るのは止めてくれ。
「そんなんじゃない。俺とアイツはそういう関係じゃない」
「だったら今度紹介してくれよ」
「なんで?」
「だってなぁ、3組の相楽っていったら可愛いって有名だぜ。俺達のクラスにまで知れ渡っているから」
「そ、そうなのか?」
いつの間に相楽はそんな地位に祭り上げられていたのだろう。確かに最初は別な意味で目立っていたはず。
今という現実に対して俺は認めないとならないのか?
それにしても他のクラスにもって・・・そんなことアイツが聞いたら図に乗るに決まっている。ただでさえ自分のクラスでも浮かれているんだからな。ここはもう少し本来の相楽のことを知ってもらわないとならないかもしれない。きっと相楽だって迷惑しているんだ。
「俺とアイツは幼馴染みで親友なんだ。それとアイツのこと異性として見るのはあまり勧めない。いろいろ込み入った事情があるんだ」
「それって牽制のつもりか?」
「いや、そういうんじゃない。話すと長いし話すつもりも今はない」
みんなは片付ける手が完全に止まって俺の周りに集まっていた。
まさかこんなことになるなら別の場所で待ち合わせをした方がよかったのか。相楽の個人的なことは本人のいない前で話すのは俺はやりたくない。
だから
「そんなに気になるんなら本人に直接聞いて玉砕するといい。それより俺はこの後がある。早く片付けしよう」
これ以上俺から情報を言うのを止めて一人で片付けに戻る。その姿を見て他の連中も諦めて片付けを再開していたが聞こえる話題は相楽のことで賑わっていた。やっぱりこんな話しアイツには聞かせられないな。
やっと片付けを終える。着替てから相楽の元に向かう。待っているってどこで待っている?なんて思っていたが相楽はすぐに見つかった。なぜなら
「先輩達、なにやってんですか?」
先輩達の輪の中心にいたのは言うまでもなく相楽だった。
「拓哉」
「悪い。待たせたな」
そんなやり取りを聞いて先輩達は両側に割れる。俺と相楽の間には一本の道筋が出来上がっていた。これって、なんとかの十戒とか、そんな昔話?神話?があったような。そんなことを俺は思っていた。
「日下部の彼女か?」
「違います。ただのクラスメイトです」
「ほお、今年の一年、なかなか粒ぞろいと聞いていたが。おいちょっと紹介しろよ」
なんだかな。昔のコイツのことを見たら絶対にそんな言葉出てこないだろうに。
「自己紹介、だってよ」
俺は相楽に言ってみる。
「え?ああ、うん。えっと、同じクラスの相楽美有です」
「ホントに彼女じゃないの?」
「はい。そういうことにはならないかと。あの、これから予定があるので私達はこれで失礼します。行こ、拓哉」
相楽は先輩達の間を抜けて俺の前まで来ると俺の手を取ってそこから離脱した。
後ろからからかいの声がしていたが
「すみません。お先に失礼します」
大きな声で挨拶をしてみんなから見えなくなるまで早足でやり過ごした。
「なんか凄かったね」
そういう相楽はどこか楽しそうに見える。俺はそんな相楽のことを見ながら
「お前、絶対喜んでいるだろ」
「そんなことないよ。驚いてるだけ」
お前の顔は満面の笑みで溢れているのは気のせいじゃないよな。そんなに自分のことを褒められるのが嬉しいのか?
以前のお前は顔のことを言われるとすぐに機嫌が悪くなっていたのに。
相楽は変わったんじゃない。本物の女として戻って来ただけなんだ。なら以前のアイツはどこに行ってしまったのだろう。相楽が女として生きてゆく。それは応援する。けれど俺の中には寂しさだってあるんだ。
「どうしたの?」
俺のことを見上げる相楽の視線。それに全身からする香り。動揺するからそういうシチュエーションは止めてくれ・・・・というか・・思い出す・・あの日のこと。
「いや、なんでもない。それで?どこに行きたいんだ?」
「そうだね・・・先ずはショッピングモールとか?お腹空いてない?」
「確かに。先ずは腹ごしらえってことだな」
俺達は肩を並べて歩く。まだ四月だというのに今日の日差しは夏のような強さを感じる。正直暑い。いつしか袖を撒くっていた。
「うわ〜。やっぱ休日って人多いねぇ」
フードコートは人で溢れていた。そのほとんどが家族連れだ。まあ予想はしていたがこれほどとは思わなかった。
「空いてる席あるかな」
「どうだろうな。席を先に探すか、料理を先に頼むか。あっちも行列だしな」
どこを見ても人、人、人。身動きですら簡単には取れない。気をつけていても子供がぶつかってきたり、目の前の人壁に遮られていきなり止まることだってあった。はっきり言って人で酔いそうだ。俺は少々ゲンナリしていると
「ねえ屋上行こうよ」
「屋上?飯は?」
「いいから。ここよりはマシだよ」
「根拠は?」
「なんとなく。ほら、行こうよ」
俺の手を自然に取る。コイツってこんなに手が小さかったっけ?それにこんなに柔らかかったっけ?
よく考えてみたら前の相楽の時だって手を繋いだことなんてない。そんなこと絶対しなかった。こんなことを思う俺のことを知ったらお前はどんな反応をするのだろう。
屋上も人がたくさんいるが相楽の言葉通りフードコートに比べたらマシのような気もする。
こっちも軽食的なモノなら売っているし席だって余裕がある。
今日は良い天気だ。なら文句なんて何もない。風が気持ちいい。この開放感は屋上でないと味わうことなんて出来ない。
「うわ〜気持ちいいね」
振り向く相楽の笑顔は今まで見たことない。きっとこんな笑顔を向けられたら普通の男ならイチコロなんだろうな。でも親友の俺は・・・ただ受け止めるだけしかできない。
「お前・・・ホント今を楽しんでるな」
「当たり前でしょ。人生楽しく。これが今の私のモットーなの。拓哉は違うの?」
「まあ、俺だって楽しく生きていたいと思っている」
俺はさっきの自分の気持ちに嘘を言った。ホントはお前のその笑顔は一度だけ見たことあるんだ。ずっと昔のあの日。忘れようとしていたのに思い出しちまったじゃねえか。
でも今の相楽は何も覚えてはいないみたいだ。むしろ何事もなかったかのように毎日を過している。
急にあの日の記憶も蘇ってくる。
俺はそのことを忘れるように言われているし、相楽には絶対に言ってはならないと先生に釘まで刺されている。だから忘れようとしていたのに・・・忘れかけていたのに・・・・・・やっぱり忘れることなんて簡単にできそうにない。
もし、なにかのきっかけで相楽自身が思い出したとしたら?俺はその時のことも考えておかないとならないような気がする。
「ねえ、あれ食べようよ」
あれは・・・屋上にキッチンカーがあるのはなんとも不思議な感じがするが
「ハンバーガーか・・・いいな。最近食べてなかった」
「じゃ決まり」
おい、相楽よ。どうしてそんなに簡単に俺と手を繋げる?それに屋上には風だってあるんだ。それが強くなる度にお前のスカートが・・・気にしないようにしても気になってしまうんだ。
明日はいよいよ今年最後の日。大晦日ですね。
読んでいただきありがとうございます。
体調もだんだん戻り、年越しそばをどこで食べようかと悩んでおります。
有名店?近所?それとも自宅で?
皆さまの健康と幸運を祈りつつ今年は締めさせていただきます。
来年もよろしくお願いします。良いお年を!




