誰ならいいの?私は
今、私の目の前には昨日と違う月が浮かんでいる。
満月ではない。もうそれは昨夜終わった。
でも今だってほとんどまんまるに見える。私にはその違いなんてわかんない。
急にあんなこと言うなんて・・・・・拓哉だけはそんなこと言わないって思っていたのに。
胸が締め付けられる。
私・・・・・・苦しいよ・・・みんな今の私のこと否定する。
やっぱり昔の方が良かったのかな。私は消えた方がみんな幸せなの?私はやっと本当の私になれたのに・・・・・・
無我夢中で走った。
気がついたら公園にいた。この公園は知ってる。けど知っているのは前の私。その記憶の中で私は拓哉と遊んでいた。もちろん男の子として。主にサッカーをしていた。お互いボールを蹴り合ったり競り合ったり。経験ないのに懐かしい。
でもこの気持ちは本当の気持ちじゃない。もうこんなの慣れたつもりでいたけど、やっぱり違和感しかないよ。ちっとも懐かしくなんてない。
誰もいない。ホントなら家で夕飯食べている。そんな時間だよね。
普通に生きたい。楽しく生きたい。もっと女の子を楽しみたい。ただそれだけなのに。私のささやかな願いは叶えることなんてできないのかな・・・すごく悲しいよ。
月を見ていると以前も同じようなことをしていた。病院で見た夢もこんな感じだった。大きな月があって悲しんでいる・・・・これって私の記憶なの?忘れている記憶の断片のような気がしてくる。
なら・・・夢の中で私はこうしていた。月に向かって両手を翳してみる。
不思議だ。しっくりくるのは何故だろう。やっぱり私は昔どこかで同じようなことをしていたに違いない。それは確信に変わってゆく。でもそれ以上は思い出せないけど。
誰か、本当の私のこと教えて・・・
「いた」
声がして振り返ると
「・・・拓哉?なんで・・・ここに・・・」
「なんかあるとお前は大体ここにいるからな」
「そ、そう・・・なんだ・・・でもさ、それって前の私のことでしょ」
息を整えている姿は全力で私のことを追ってきてくれたんだ・・・喜ぶところなのかな・・・
「そうだな。でも今だって同じようにこの場所にいる」
そんなのわかんない。気がついたらいたんだもん。
前の私がこの場所に導いてくれた。違和感だけどそんな逃げ道に連れ出してくれたことには感謝している。だってこの場所じゃなかったら拓哉と巡り会うことができなかった。
もしかして私・・・安心している?この気持ちは今の私なの?前の私なの?
でも今はどっちでもいいよ・・・・だって嬉しいもん・・・
「帰ろう。送る」
「いいよ。一人で帰れる」
「あのな、お前はもうあの頃とは違う。今は女として生きているんだろ。なら男の俺が送るのは当然のことじゃないのか?」
「でもそんな遅くないし・・・平気だよ」
「あのな、そこは強がるところじゃないだろ」
私は強がってなんていない。本当のことを言っただけ。
拓哉って私のこと女の子として見てくれているってことなのかな?
私達は親友って言った。なら私のこと恋愛という目で見ていないってことだよね。
満月が終わって、それから、それから・・・
私は変わることなくこのままだと思っていたのに・・・今は自分の位置がうまく見出すことができない。
拓哉が隣りにいるとさっきのこと思い出しちゃう・・・
あんなこと言って欲しくなかった・・・親友なら言わなかった、はずなのにやっぱりみんなと同じこと考えているの?
「もう一度言う。帰ろう。さっきは悪かった。俺はあんなこと言うつもり全然なかったんだ。勝手に・・・口に出していた。言い訳みたいだが本当にそうなんだ。誰かに言わされてたみたいな・・・」
静かに夜は深まってゆく。
月の位置だって少しだけ動いたような気がする。それはあまりにもほんの少し過ぎて誰にも分からない。私にだって分からない。
「あらためて言う。俺達は親友だ。だから正直に話して素直に謝る。俺は相楽のことそういう目で見ていない。本当にあの赤いカードに言わされたみたいな感覚なんだ。信じてもらえるとありがたいんだが・・・いや、相楽なら信じてくれると信じている」
「カード?」
「ああ。お前が出て行った後に文字が浮かんできたんだ。これもホントのことだ。信じられないよな。俺だって何がなんだかよく分からないんだ」
信じられないことばかりなのに信じてしまう。これも満月のせい。
私は信じる。信じないとこの混乱から逃れることができないような気がする。
「それでなんて書いてあったの?」
「・・・・・・・」
拓哉はただ黙って私の顔を見ている。また少しだけ夜が深まってゆく。
「・・・ごめん。簡単な文だったのに・・・ぜんぜん思い出せないんだ」
「そんなこと・・・・・・・」
そんなことあるか、って言いたくなったけど、私だって分かっている。思い出せないのは本当のこと。
やっぱり満月を境にいろいろなことがチグハグし始めている。
「帰って確かめよう」
私は拓哉の手を引いて行こうとする。けれど動くようすはない。まだ何か言いたそう。
「どうしたの?帰るんでしょ」
「帰っても無駄だ」
「どういうこと?」
拓哉の言葉は信じる。嘘を言う意味なんてないのだから。
「・・・燃えた?」
「ああ」
「・・・信じるよ。今は信じないとダメだと思う」
夜は止まることなく進んでゆく。実際どれくらい進んだかなんてわからない。
満月の起こした奇妙なことはどこかで断ち切らないとならない。
現実をもっと見る。もっと現実に自分を馴染ませるんだ。
「帰ろう。拓哉の言う通りだね。私は女の子だし男子に送ってもらう。少女漫画みたいだけど、今はそれがいいなって」
「ああ。やっと素直になったな。ついでに言うと腹も減ったな」
そうだね・・・言われて気がついた。
今頃お母さん心配しているよね。スマホだって持っていない。一人娘が夕飯時にいないなんて心配で仕方ないよね。なんたって私は可愛いんだから。一秒でも早く帰って顔を見せて安心させてあげないと。
今はこれで納得しておくしかない。私の知らない何かが私の知らないところで動き出している。
この原因ってやっぱり私なの?でも今は現実として考えよう。悪い夢を見たんだって。
肩を並べて歩く。相変わらず身長差が目立つけど少しは縮まっているようにも感じる。きっと大したことじゃないのかもしれない。でも本当は大したことなのかもしれない。
明日になれば普通に朝がやって来て、普通に学校に行って、普通に授業受けて。
全部が普通になっている。きっと明日はそんな明日なんだ。
私はほんの少しだけ拓哉に身体を寄せてみる。親友・・・なんか落ち着く。同じ歩幅と体温と匂い。
でもね、本当は分からないの。この感覚は今の私なのか、前の私なのか。
なんとなくだけど。いずれ決着する日が来る。そんな予感みたいなことが心に浮かんでいた。
12月20日。明日は今年最後の新月ですね。
読んでいただきありがとうございます。
きっと星がいつもより見えることでしょう。
何億回地球と月は同じことを繰り返してこれから先も繰り返すのでしょう。
あと何回。私は見ることができるのかな?
物語はさらに奇妙になってゆく予感がします。
同じようなことを言いますが次回もよろしくお願いします。




