赤い色した封筒
昼休みが終わって午後になる。なんとなくゆったりとした時間の中で俺はずっと相楽のことを考えていた。考えないようにしても卵焼きが俺の意識を引き戻してゆく。
そんなこんなで気がつくとすでに放課後になっていた。
俺は気分を切り替えるために部活に向かった。入ったばかりの一年生としては上級生よりも早く行ってもろもろ準備がある。急ぐ俺の後ろから
「じゃ明日ね」
相楽は追い越し際に声を掛けてゆく。
「ああ。明日」
「部活、頑張ってね」
俺の返事も待つことなく走って行ってしまう。だから、廊下は走るな、って言いたいがもう相楽の姿は視界にはなかった。
相楽の影響なのか・・・今日はぼんやりしている、満月・・・月なんてあまり興味がなかったのに意識してからなんか変な気分だ。
部活で汗を流したのが良かったのか、今頃になってやっと本来の自分に戻った感じがする。陽が落ちてグラウンド全体がオレンジ色に染まった頃だった。月は顔を出していたが満月じゃないせいか俺はなんの影響も受けることはなかった。今頃アイツも同じ気持ちならいいけどな。そんな余裕さえ今はある。
俺達一年生は片付けがあるので最後まで残って作業をしていた。先輩達はすでに部室を後にしていた。
それもようやく終わり着替えて帰ろうとした時を見計らったようにスマホが震えた。
「・・相楽?」
メールとかじゃなく電話で震えていた。
「もしもし」
「・・・もしもし」
相楽の声は少し慌てている。
「どうした?何かあったのか?」
もしかして相楽はまた昨日のような気分になっているのかもしれない。
「・・・あのさ・・・えっと」
慌てているわりにどうも歯切れが悪い。一体何があった?それは俺が関係していることなのか?
「もう帰るところだ。用件なら早く言ってくれ」
いつの間にか俺以外誰もいなくなっていた。おかげで最後の鍵掛けの役割を無言で引き渡された。
「・・・ごめん、忙しかった?」
「いや。部活は終わった。もう帰るところだった」
「じゃあ・・・まだ学校だよね」
「そういうことになるな」
スマホ越しに相楽の溜息が聞こえる。なかなか会話がスムーズにいかない。それに下校を知らせるチャイムが鳴っている。遅れると部の責任になってしまう。そうなれば俺は先輩達から注意を受けることになる。正直、面倒なことになりたくはない。
「おい、まだ掛かるなら少し待てるか?部室の鍵返して学校出たらこっちから電話する」
しばらく沈黙があったが
「分かった・・・待ってる」
相楽は電話を切った。
俺は急いで部室を閉めてからダッシュで鍵を返して残っていた先生方に挨拶を済まして、やっと学校を後にすることができた。これなら時間を守ったことになるだろう。
職員室を出た時にはオレンジ色はさらに濃くなって外に出ると校舎は赤色に染まっていた。
それは鮮やかとは程遠いのっぺりとした血のような錆びた赤色に見えた。
やがて校門を出る手前で足先に何かが当たるのを感じた。最初は小石でも蹴飛ばしたと思ったが俺の目に入ってきたのは封筒だった。拾い上げてみると封筒は夕陽によって真っ赤な血のように染まっている、かと思ったら封筒自体が色を持っている。
「・・・赤い封筒」
何度見ても夕陽の色と違う。こっちの方がもっと血に近い色をしている。まるで血で作ったみたいに思えた。そのうち溶け出して地面にこぼれ落ちそうだ。
しかし色以外はどこにでもある普通の封筒だ。触っている感覚は知っている封筒よりは上質な紙くらいしか違いはなかった。
誰かが落としたのか?まだ封がされたまま。だが宛名はどこにも書いていなかった。
周りを見ても俺以外の生徒は誰もいなかった。それだけでも不自然な感じがする。この世界にたった一人取り残されているみたいな光景だ。
早くとこ賑やかで人がたくさんいる場所に行きたくなる。ここはあまりにも静か過ぎる。音という音が消滅してしまったのか?
本当に俺は世界から取り残されているワケじゃないよな。
見れば見るほど封筒から不気味さを感じてしまう。どうやら俺はビビっているらしい。冷静なのにビビってる。どこか現実的なもの・・・そうだ
スマホを鞄から出すと電波が繋がっていることを確認できる。それだけで少しだけ安心する。
「とりあえず明日か」
入れ違いで封筒を鞄の中にしまうと相楽に電話を掛けた。本当は持ち主が戻ってくる可能性だってあるから同じ場所に置いておけばいいのに俺にはどうしてもそれができなかった。
俺は相楽は五回目のコールで出た。
「もしもし。待たせたか?」
「ううん。平気。なんかごめん」
「別に謝ることじゃない。それで?」
俺は前置きなしで聞いてみる。やはりまだ満月の影響が残っているのだろうか。それとも赤い夕陽が再び感覚を狂わせているのだろうか。
電話の会話が妙に大きく周りに響いている。
「急にこんなこと言って迷惑かもしれないけど・・・今からウチに来れないかな」
「ホント急だな。電話じゃ駄目なのか?こんなの珍しいけど今は俺しかいないんだ」
「・・・電話だと話しにくい」
相楽が喋らないと沈黙が重くのしかかってくるみたいだ。会話を続けないと
「そろそろ夕飯の時間だ。腹減ってるんだが」
相楽の返信はない。沈黙がさらに濃くなったみたいだ。俺としてもこの場所から早く動きたいという気持ちもあり
「まあ・・・少しなら」
「うん・・・待ってる」
俺が返事をする前にはスマホは切れていた。まあいい。俺は歩き出す。
そういえば高校に入ってから相楽の部屋に行くのは初めてのことだ。中学の頃はそれなりに遊びに行ったことはあった。その頃のことを懐かしく思い出すと同時に今ってどうなんだろう。
変わっていないのか?いや・・・それはないな。やはり覚悟しておいた方がいいのだろうな。
夕焼けが終わり今では夜の支配が始まっている。
不思議と身体が軽く感じる。やっと妙な呪縛から解放されたってところか。それに気分もずっと落ち着いていた。
ベルを鳴らすとすぐに相楽は出てきた。
「いらっしゃい。急にごめんね」
「お、おまえ、そのカッコは・・・・」
「カッコ?」
なんで制服を着ていない?ああ、そうか、家だもん。着替えて当たり前だよな。
「い、いや、ちょっと驚いただけだ」
「変なの」
そうだ。相楽は変じゃない。変なのは俺の方だ。動揺し過ぎだろ。
今、目の前にいるのはかつての相楽の姿があったからだ。
いつも履いていた大きめだった白いジーンズは相楽の背が伸びたせいもあるのか今ではサイズは合っている。それに紺色のパーカー。胸にはサッカーボールの刺繍が入っている。俺も同じものを持っている。一緒に買いに行ったからな。普段着として俺も着ている。なんだか昔に戻ったような錯覚を起こす。ただ髪の長さが圧倒的に違うけど。
「なにしてんの?上がったら」
「あ、ああ」
勧められるまま家の中に入ると
「静かだな」
「うん。今は私一人。お母さん、まだ買い物から帰ってなくて。それより先に行ってて。飲み物持ってくから」
俺は簡単に返事をして二階にある相楽の部屋を目指す。
何回も来ているから慣れっ子ではあるけど、今の状況は昔とは違う。ここにいるのは男としての相楽ではない。100%女子の相楽だ。
そう思った途端、なんだ?心臓が急に鼓動を強くする。
考えてもみろ。女子の部屋に入るんだ。いつもの気楽に登っていた階段が今では全く違う知らない階段に見えてきてしまう。って何考えてんだよ、俺は。親友だろ俺達。間違いなく。
俺は平常心を取り戻して階段を上がっていった。
今日は早起きし過ぎました。空はまだ夜です。
読んでいただきありがとうございます。
空気が澄んでいてかすかな太陽の光を感じる空です。
とてもキレイです。心が浄化される気分もします。
世界にはいろいろ事情があります。いろいろな感情が溢れています。
自分の心はこの空のように澄んでいたいですね。いつまでも。
今日はどんな一日になるのかな。
次も立ち寄っていただけることを一日の始まりに願っていました。




