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ワタシ死ねないみたいです。あと○○になる方法、探してます。  作者: マナマナ


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13/66

相楽・・・なのか?

クラス分けの掲示板を見て俺の視線は一人の名前に釘付けになっていた。


『相楽美有』


 俺の知っている名前だ。もしかしたら同姓同名なんてこともあるかもしれないが、そんなにたくさん同じ名前があるとは限らない。無意識に周りの視線を投げかけてみる。けれど今のところ該当する人物はいない。アイツのことだ。俺のことを見かけたら向こうから声を掛けてくる。そういうヤツだと俺は知っている。そしていつものようにこう言うんだ。

『おい、拓哉。また背が伸びたのかよ』

 俺はいつものように答える。

『成長期だからな。そういうお前は相変わらずだな』

『ホントむかつくよな。まあ、見てろよ。これからの俺の成長を』

『楽しみだな。お前が追いついてくるまで続けてやる』

『余裕こいてるのも今のうち。そうなったら今度は俺がお前に同じことを言ってやる』


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 そんなたわいもない普段の会話が今は懐かしい。俺達はもう何ヶ月言葉を交わしていないだろう。


 今でも俺は信じられないでいる。まさか病気を苦にしてあんなことになるなんて・・・・そんなことになる前にお前と話すことができていたなら、俺はお前の親友じゃなかったのかって、ずっと心の中で繰り返し思っていた。


 幸いにも相楽は一命は取り留めた。けれど意識が戻る見込みはない。そんな噂がいつしか教室に流れていた。クラス中お前のことを思って祈ったこともあった。俺は何度もアイツの家に行って面会を求めた。けれど許しが出ることはなかった。

 そして気がついたら時間だけ流れて高校生になっていた。今の今まで俺はずっとお前のことが頭の片隅にあった。元気だったお前の顔がずっとループしているんだ。お互い言ってたよな。同じ高校に行こうって、また同じ部活で楽しもうって約束したのに俺は一人でここにいる。


 目の前にある名前が本当に俺の知っている相楽だとしたら、アイツはなんで退院したことを連絡してこないのだろう。そんな疑問が浮かぶ。

 もしかして当日俺のことを驚かそうとしてどこかに潜んでいるなんてこと十分考えられる。それくらいのことはやってもアイツの性格なら納得できるが、今日みたいな人生節目のハレの日にそんなサプライズはいらない。俺はただお前が無事に戻って来たことだけを知らせて欲しいんだ。

 お互い小さい頃からの付き合いだ。アイツの悩みだって知っている。俺はずっと親友としてアイツと一緒にいたい。なぜならアイツのことを誰よりも一番理解していると思っているから。

 男がなんだ。女がなんだ。そんなこと関係なく俺とアイツは同じ人として性別を越えた友達という形で繋がっている。それはこれからも変わることなんてない。

 本当に相楽なら俺はアイツに言いたいことがある。


 途切れることのない人混み。俺はもう一度新入生の中から相楽のことを探してみた。アイツの姿格好なら遠くからでも識別できる自負がある。


「ん?」

 俺が捉えた後ろ姿に面影のある人物が歩いてゆくのが見えた。だがすぐに

「違うか・・」

 確かに似ている。歩き方もどことなく。でも俺には違うと分かる。何故なら女子の制服を着ているからだ。相楽はそんなことは絶対にしないと分かっている。そんな姿今まで見たことがないし、これからも見ることがないだろう。それに髪だって普通に長めだ。相楽は長い髪が嫌いだ。そんなことを思いつつ、じっと見ていたからなのか?

 彼女は視線を感じたのか分からないが急にこっちに振り返った。けれどこの人混み。目が合うことはなかった・・・・が


「・・・おい・・・・・・うそだろ・・・」


 ・・・相楽?・・・なのか?驚いている俺を余所にまた振り返って歩いて行ってしまう。見間違い?いやそんなはずはない。あの顔は確かに相楽だ。長年傍にいたんだ。見間違うはずなんてない。でもなんであんな格好している?俺は夢でも見ているのだろうか?


 気がついたら歩き始めていたし心の中で叫んでいた。


『相楽なのか?本当に?一体どうしたんだ?その格好は?・・・・・・』

 聞きたいことが自分でも整理出来ないくらいに溢れている。そして声が届く射程距離に入ると気持ちよりも先に

「・・・相楽なのか?」

 無意識にそう声を掛けていた。勝手に言葉が出ていた。そんな俺の声は相手に届いたらしい。再び立ち止まってこちらに振り返る、ゆっくりと髪を揺らせて。まるで昔の再現映像のように時間が止まったみたいな光景だった。


 完全に振り返って目が合う。相手は俺のことを初めて会ったかのようにじっと見つめている。

 今ならはっきりと断言出来る。間違いない。相楽だ。俺の知っている相楽美有で間違いない。なのにどうしてそんな視線で俺のことを見ている?何か言いたいのに言葉に詰まっていると

「えっと・・・日下部・・君?」

 相楽の方から声を掛けてきた。いつもの低めの声ではない。本来の高い声を気にしているから意識的に低めの出していると本人は言っていた。俺だって相楽の本当の声なんて滅多に聞いたことなかったから正直驚いている。


「あ、ああ」

 俺はやっと言葉を交わすことができた。相楽は俺の名前が言えたことにどこかホッとしているみたいに見える。どうも会話が昔みたいじゃない。俺も自然と口下手になっていた。

 こういうのは意識不明だった後遺症的なことなのだろうか?ついそんな考えが頭の中を過る。それにこんなことも考えてしまう。本当は考えたくないのに、再会出来た喜びの気持ちをもっと前に出したいのに。

 相楽はもしかしたら今までの相楽じゃないのかもしれない・・・そんなを考えが頭の中を巡る。

 

 目の前にいるのは女子の制服を着た親友なのにお互い初対面みたいな感じで向かい合っている


「久し振りだな」

 やっと言ってみたものの相楽はすぐには何も答えてはくれない。本当はその後に『なんで女子の制服を着ているんだ』って聞きたいのに、その質問はどこか間違っていてお門違いなように思えて言葉にはならなかった。

「・・・そうだね」

 その返事は俺に合わせているように感じた。これだと本当に初対面の女子と会話をしているみたいじゃないか。

 目の前にいるのは間違いなく昔から知っている相楽のはずなのに、俺の目に映っているのは普通の女子生徒にしか見えない。いつものように気さくな会話はどこか遠くにいってしまって、ぎこちなさがお互いの間に存在している。それでもやっと言葉が繋がった。俺は自分のぎこちなさをなるべく隠したつもりで言葉を紡いでみる。


「退院したんだ。知らせてくれたら良かったのに」

 その質問にも答えはすぐに返ってこない。何かを考えているみたいだ。

「ま、まあ元気になって良かった。それにしてもまさか高校で会うなんてな」

「・・・うん。これは沢渡先生のおかげなの」

 あ〜、言葉遣いまで女子っぽくなっている。余計に緊張する。

「そ、そうなんだ」

 もっと会話を続けたいのになかなか話が続かない。冷や汗が出る。

「そう言えば俺達同じクラスだな。名前を見てびっくりしたんだ」

「うん・・・私こそよろしくね」

 今、膝が崩れそうになった。『私』?え?『私』って?一体相楽の身に何が起こっている?


 戸惑っている。俺は一体誰と話をしているんだ?目の前にいるのは相楽で間違いない。でも昔から知っている相楽ではない。やっぱり事故とか意識不明の影響なのか?

 それとも久し振りにみんなと会えるからって・・・自分でもつまらないことを考えたと思っているがそうでもしないと今の状況がどうしても理解できない。頭が混乱しているんだ。


「お前・・もしかして俺のことからかってワザとそういうカッコして遊んでいるとかじゃないよな」

 考えが勝手に口から漏れるように声になる。冗談でこんなことやるヤツじゃないってことくらい分かっているはずなのに。俺の無神経な質問のせいで相楽は困惑していた顔を投げかけてくる。


「・・・ごめん」

「え?ほんとうに?」

 まさかな。でもその言葉が本当なら・・・少しだけ肩の力が抜けてゆく。

「なんだホントに冗談かよ。驚かすなよ」

 相楽の肩を叩くと小さな声と一緒に俺の胸を目掛けて体勢を崩した。

「悪い。強かったか?」

 相楽は答えることなくしばらくそのままの体勢でいる。髪からはあり得ないくらい女の甘い香りがして、腹の辺りにはなんというかとても柔らかな・・・顔が熱くなってくる。相楽は少し距離を取って自分でも説明が難しいみたいな顔を俯かせて


「ごめんってそういう意味じゃないの。昔の私のこと知ってるんだよね・・・今の私は前の自分のこと、あまり思い出せないの」

「え・・・?でも俺の名前は覚えていたじゃないか」

「それはきっと前の私の記憶が答えたんだと思う。ホントは自分でもしっくりきてないの。でもあなたが日下部君ってことは分かる。けどそれ以上はよく分からない。だからそういう意味でごめん」

 そう言って顔を上げる相楽の顔には嘘は含まれていない。申し訳なくて今にも泣きそうにも見えた。


「ご、ごめん、俺の方が悪かった。変な冗談だった。無神経だった。それに俺は今のお前の事情を分かってなくて、俺の方こそごめん」

「ううん。そんなことない・・・・・あの・・・・・もしかして昔の私の方が良かった?」

 そう言われて素直に『そうだ』って言えない自分がいる。それってどういうことなのか俺自身もよく分からなかったし、何て答えたらいいのかそれもよく分からない。きっと相楽だっていろいろなことに困惑と混乱をしているのかもしれない。


「えっと・・・なんて言ったらいいか」

 本当になんて言っていいか分からない。けれど相楽に対する俺の立ち位置は変わることはないと思っている。今は頭を働かせて言うべき言葉を選ばないとならない。一度深呼吸して


「俺は今の相楽のことは否定しない。相楽は相楽だ。また元気な姿で俺の前に姿を見せてくれただけでも正直嬉しいよ。それが一番言いたかったことなんだ」

 言ってて少し恥ずかしい気分もするが今言える正直な気持ちを伝えたつもりだ。相楽はこんな言葉で納得してくれるのだろうか。


「・・・・・・正直私にもよく分からないの。先生・・・って病院の方の話でもいきなり元の私に戻るか、それともずっとこのままか・・・これから私がどうなってゆくかなんて誰にも分からないって」

 そういう要因があることだけは分かった。だからといってそんな運任せみたいなこと俺には選ぶことなんてできない。いや、誰だってできないんだ。相楽は今は悩みの中で生きているんだ。

 俺はどうする?どうしたらいいんだ?親友だろ。なら、相楽の気持ちを一番に考えるべきだ。

「・・・その・・・相楽はどっちがいいんだ?元に戻れるのと、今のままのと」

「それは・・・」


 相楽がその先を言おうとした時答えをかき消すように予鈴が鳴る。周りにいた他の新入生も先生達に促されて足早にそれぞれの教室に向かい始める。

「俺達も急いだ方がよさそうだ。後ででいい、また話すことできるか?」

「うん・・・」

 俺達は自然と並んで歩いていた。この感覚、この距離感。やはり隣りにいるのは俺がずっと昔から知っている相楽そのものだ。付かず離れずのこの距離感が昔から変わっていなかったことが嬉しい。

「・・・あの・・・日下部君」

「ん?」

「さっきの返事なんだけど」


 相楽が立ち止まったので俺も合わせて止まった。相楽は俺のことをじっと見つめている。その瞳には揺らぐことがない真っ直ぐな視線があった。この瞳は知っている。相楽は自分の決めたことは強い意志を持っていて揺らぐことはないこと。


「私は相楽美有。でも今の私はみんなの知っているかつての私とは違う。元に戻りたいなんて思わない。私は今の私が好き。ずっとこのまま残りの人生を歩んでいこうって。だから今の私のことを見て欲しい。でも・・・さっきも言ったように何かの拍子に昔の私に戻ってしまうかもしれない。それでも私はずっとこれからも相楽美有でいたいと思う・・・・これが答え」

 お前の言葉と瞳に俺は納得するしかないんだ。これから本当に女として生きてゆく。もう昔みたいにはなれない・・・いや、ならない・・・


 俺が何かを言う前に相楽は一人、駆け足で行ってしまう。後ろ姿・・・普通に女子だ。お互いの距離が離れれば離れる程、お前はどんどん遠くに行ってしまう。そんな気がしてならない。

 俺達はずっと友達だった。相楽が変わったとしても関係まで変わることなんてことあるのだろうか。気がつくと俺は後を追うように走り出していた。

「待てよ。友達を置いてくなんて酷いヤツだな」

 あっという間に追いつく。俺の言葉は届いたみたいだ。走っていることが嬉しいのか分からないが相楽の顔は緊張が溶けているように見えた。

 こうして一緒に走るなんて何時以来だ?なんだか俺自身の気持ちも晴れてゆくみたいだ。おかげで今までのモヤモヤした気持ちはどこかに消え去ってしまっていた。


「俺からも言わせてくれ。俺達はこれからも親友だ。部活は一緒に出来ないかもしれない。けどそんなこと関係ない。俺はずっとお前の親友でいるって今決めた」

 これが俺の正直な気持ちだ。俺達の関係はきっとずっと変わらないはず。相楽もそう思ってくれたら。

「日下部君・・・ありがとう」

 相楽は少しだけ笑った。今日初めて見た笑顔だった。

「なあ、できたら呼び方は昔からの方いいな」

「そう?私、なんて呼んでたの?」

「俺のことは名前で呼んでた。思い出したか?」

 相楽はちょっとだけ考えてから

「・・・たくや・・でいいの?」

「そう。合ってる。しっかり覚えているじゃねえか」

 そうだ。この笑顔だ。懐かしくてつい癖で頭に手をやろうとして寸前のところで手が止まった。昔みたいな短髪じゃない。真っ直ぐで艶やかな髪に触れるなんてこと、きっともう出来ないんだろうな。

「俺はサッカー部に入るけどお前は部活とか考えているのか?」

 その答えは顔を横に振るだけだった。そうこうしている内に俺達は教室に辿り着いた。

「またね」

 相楽は自分の席を見つけると歩いて行ってしまう。その姿がこれから普通になってゆくんだ。そんなことを考えながら俺も自分の席を探した。


懲りずに長々と、しかも5000文字越えって・・・

私的には『長くても5000以内で』と思っていたのに記録更新です。

読んでいただきありがとうございます。

う〜ん・・・纏めるのって難しい・・・言い訳ばかりでスミマセン。

話は早くはありませんがどんどん展開してゆく予定です。

次回もよろしくお願いします。

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