プロローグ
この世界は争いの絶えない世界だ。
人と魔族が互いにいがみ合い、ただただ人だから、魔族だからと言う理由で滅ぼそうとする。それは、くしくも人と魔族は同じ生き物なのだと、人生を歩んで来た俺の目に映った。
一度目の人生は、人の子として生まれてきた。
そして、強力な力を持つものとして、周りからは勇者と言われて来た。当時の俺は嬉しかった。周りの人達から認められているようで、この人達のために頑張ろうとも思えた。そして国王にも認められ、正式に勇者となった。
戦地に行って戦っている間も、俺は正義のため、国のために戦っている、そう思えば敵から受けた傷も、空腹や疲労感も、生き物を殺したという罪悪感でさえ耐えられた。そして、戦地で魔族に片腕を切られ、軍は一時撤退した。俺はもう戦うことができないと悟った。しかし、これだけ頑張ったのだ。きっと、周りの人達も労わってくれる、労ってくれる、そう思っていた。
だが周りの反応は違った。
勇者が戦えなくなったどうしよう、勇者の変わりになる人を探さなければ、挙げ句の果てにはお前が腕を失わなかったら戦争は我々が勝っていたのにと、負けた理由に俺の名前を出す者もいた。
その時俺は気づいた。
この人達は勇者が誕生したことに喜んでいたんじゃない。面倒ごとを押し付けられる存在が誕生したことに喜んでいたんだ。
「クソが」
そして俺は憎悪に身を任せ、街を一つ崩壊させ、自ら命を絶った。こんなゴミ共に殺されるくらいなら自殺した方がマシだ。
二度目の人生は魔族の子として生まれた。前世の記憶を持ちながら。俺はどこかしらで願っていた。魔族はゴミ共のような存在ではありませんようにと。
そして俺は魔族側の国王に仕える立場になった。だが、魔族もあの人達と同じように自分のことしか考えていなかった。結局両方とも同じだ。自分のことしか考えていない。前線の自国の兵士が戦っている間、何回、何十回と貴族達がパーティが開かれる。俺は前世の記憶も相まって貴族達に激しい嫌悪を生んだ。だから俺はパーティのワインに毒を盛り、貴族達を殺した。だが、代わりに台頭した奴らも同じような奴らだった。俺は魔族殺しの罪で処刑された。処刑される間も俺は考えていた。
どうしたら戦争が終わるのか。
そして処刑される瞬間、俺は考えて、考え抜いて、一つの正解を見つけた。
人も魔族も全員、殺せばいいことに。首が落とされる瞬間、俺は笑っていた。それはもう満面な笑みで。ドス黒い感情が渦巻きながら、その笑みを見た魔族の反応を楽しみながら。
三週目の人生がもしあるとしたら、俺はその一生を破壊と滅亡の為に使おう。そう決めながら俺は命を落とした。
この二つの人生の憎悪と殺意を反芻させながら。
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