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第86話 最強の盾と矛の結末

 この魔法の杖はどんな防御も貫くことができる。


 この魔法の杖はどんな攻撃も防ぐことができる。


「だったら、その魔法の杖で攻撃をしたらどっちが勝つの?」


 その答えは――。



 オラクルが放った強力な魔法攻撃は、リティアの魔法無効(アンチマジック)によりすべて消え去った。

 事前に知っていた俺ですらも驚いた。リティアは、完全に魔法を極めているのだ。


「……ありえない」


 赤髪のオラクルが再び魔法を放つも結果は一緒だった。


 だが最後の最後、オラクルはすべての魔力を賭けてとんでもない魔法攻撃を放った。それはおよそ、妃が到達できる限界を超えていた――。


  ◇


「レナセール、これで大丈夫だろうか」

「はい! とても眉目麗しいと思いますよ!」

「良かった。さて、そろそろ時間かな」


 リティアvsオラクルの試験から一週間が経過していた。

 俺たちはいつも通りに戻っている。


 様々なポーションを売り、絆創膏を販売する、慎ましくも幸せな日々。


 レナセールは絹のような金髪を揺らしながら新しい白いワンピースに身を包んでいた。俺は、黒い服だが畏まりすぎないようなものだ。


 今は自宅。いつもはボロボロの我が家だが、今の内装は様々な装飾で彩られ、まるでお誕生日会のようになっている。

 錬金術で編み出した風船、色とりどりの花。


 そして玄関でサーチが「にゃあっ」と鳴いた。


 扉を開き現れたのは、美しい青髪と日本を思わせる真っすぐな綺麗なストレート、リティアだった。


「お久しぶりです。ベルクさん、レナセールさん」


 まず声を上げたのはリティアだ。続いて、アイス。


「こんにちは、私までお呼びいただきありがとうございます」

「いやとんでもない。来てくれてありがとう」


 季節は冬に近づいてきていた。二人の薄いコートを取って、レナセールがポールにかけてくれる。

 テーブルには既にご馳走が並んでいた。

 レナセールお手製のサラダ、魚がふんだんに使われていて、トマトやキュウリ、新鮮な野菜がいっぱいだ。

 そこにアイスがおすすめしてくれた肉、更にリティアが王宮で使っている食材をあらかじめ送ってくれていたので、ピザを作った。

 なんと錬金術で釜まで作ったのだ。

 それもこれも、今日のために。


「美味しそうです! 凄い、レナセールさん」

「そんなことないですよ。リティアさんやアイスさんが普段食べているお料理と比べると、とてもとても……」

「謙遜しないでください。この前頂いたお料理はどれも美味しかったので楽しみです」


 二人が席に着く。すると階段上から現れたのは――。


「おそろいか。しかし時間が経つのは早いな」

「もうお昼ですよ師匠」


 我が師匠、レベッカ・ガーデンである。

 今日の夜に帰宅予定だ。この七日間、鈍った身体を鍛えてやろうと訓練の日々を送らせて(・・・・)もらっていた。

 するとアイスが泣きじゃくった声で師匠に抱き着く。


「うう、いかないでくださいレベッカ師匠ぉぉお、私を、私を連れていってくださいよおおお」

「お前には教えることなんてあんまりないだろう」

「そんな事ないですよおお。なんでそんないつも謙遜するんですかあああ」

「本当の事だ」

「うう、うう……いかないでええ」


 リティアとレナセールが微笑む中、俺は苦笑いしていた。


 そう、俺は知ってしまったのだ。


 アイス・シードルが、師匠と知り合いだったことに。


 というか、姉弟子に当たる。

 ポテトフライ、打ち上げについてもすべて理解した。


 そして師匠のことが大好き好きだったことに。


 全てが繋がり安心したが、言えていないことがある。


 それは……。


『ベルク様、絶対ダメですからね。レベッカさんとあんなことやこんなこと、更にいえばアレをしたりコレをしたり、むしゃぶりついてたことは絶対に言ってはいけませんよ』

『むしゃぶりついてはないと思うが、承知致しました』


 そう、あんなことやこんなことは言っていないのだ。

 レナセールから念押しされ、師匠には『別に構わないだろ。私はベルクが好きだからな』と言い切られたが口止めしてもらっている。


 正直、師匠の純粋な気持ちは嬉しい。だが、確かにアイスの様子を見ていると不安だ。


「それより師匠、その首どうしたんですか?」

「ん? これは昨日ベルクが――」

「レベッカさん、蚊が、蚊が凄かったですよね! うんうん、蚊が! アイスさん、蚊が凄くてもう!」

 

 そのとき、レナセールのナイスアシストで事なきを得る。

 俺に顔を向けてウィンク、親指を立てた。


 ちなみに言っておくと俺が無理やりしたわけじゃない。


『強く。もっと強く。私は明日帰るんだ。少しぐらい余韻を残してくれ』


 と、見事にまっすぐな事を言われたからだ。


「と、とりあえずみんなで食べてゆっくりしよう!」


 たまらず俺も叫び、食卓についた。


 美味しい食事に舌鼓しつつ、話はもちろん、対決(・・)のことに。


「しかし見ごたえがあったな。私は事前にどちらの杖も見ていたが勝負は最後までわからなかった」


 師匠のことばに浮かない顔をしていたのは――アイス・シードル。


 なぜなら俺たちは、いや、リティアはオラクルに勝利したのだ。

 魔法をすべて無効化し、一切の攻撃をも受けなかった。



『なんだあのリティア妃の魔法の杖は!?』

『魔法を無効化しただと!? あの攻撃を!?』

『ありえない、ど、どういうことだ!?』


 閲覧していた貴族たちも驚いていた。

 リティアは驕ることなく冷静に対処し、やがてすべての魔法を消費したオラクルが気絶した。


 それで勝敗は決した。


「ですが……私の完敗です。負け惜しみに聞こえるかもしれませんが、魔法無効(アンチマジック)は想定していました。ベルクさんなら私の想像を超えるとわかっていたからです。でも想像以上でした。あの杖を一目見た時、声がでませんでした。魔法の杖は効力を上げるほど派手になります。それには理由があり、魔力が外に溢れるからです。しかしベルクさんはすべて内側に集約させていました。おそろしい技術、そして発想力でした」


 今回に限り俺は能力(チート)の恩恵をほとんど受けられていなかった。

 魔法無効はリティアの光魔法を見て気づいたこと。

 先人の知恵を借りることは不可能だったのだ。


 だが今までの知識の蓄積が功を奏した。

 何よりもリティアとレナセールのおかげだ。


 師匠が、それをわかっているのかアイスを慰めるように答える。


「ベルクが凄いのは認める。私ですら作れなかっただろうな。だがアイス、お前の『無詠唱』の杖も同じぐらい凄い。正直いえば錬金術としての力量にそれほどの違いはない。オラクルには悪いが、明暗を分けたのはリティアの力量の差だっただろう」


 盾と矛は机上の空論でしかない。

 実際に扱うのは人物によって変わるのだ。


 俺は全ての力を出し切った。軍配はこちらに上がった。

 だが勝ったともいえない。

 師匠の言う通り、勝利したのはリティアとオラクルの差、いやリティアの勝利に賭けるなりふり構わない差だったと言えるだろう。


 自分のことでなんだが、普通はできるはずがない。

 街の、ただの錬金術にお願いするなど。

 さらにいえばレナセールは元奴隷だ。そんな彼女に魔法を教えてもらうなんてありえないだろう。


 これは、なるべくした結果だといえる。


 彼女は間違いなく姫になるに違いない。

 その素質と器量は十二分にある。


 それを聞いたリティアは得意げになることなく、俺たちの顔を見た。


「とんでもないです。ベルクさん、レナセールさん、本当にありがとうございます。お二人がいなければ、私は勝てませんでした。そしてアイスさん。私はあなたという存在がいたからこそ全てを賭ける決心がついたのです。他の誰でもない、あなただからです。ありがとうございました」


 その場で立ち上がり、深々と頭を下げる。

 俺は貴族が苦手だった。傲慢で人を見下す存在だと思っていたからだ。


 だが違う。階級なんて関係ない。人を見ることが大事なんだ。


「頭をあげてくれリティア。こちらこそ礼を言う。俺のような一介の錬金術にすべてを賭けてくれたことを誇りに思う。アイス・シードル、君という対戦相手(ライバル)がいたからこそ俺も今までの全てを出せた。師匠、俺のわがままにいつも付き合ってくれて感謝しています。――そしてレナセール、いつも傍で支えてくれてありがとう。君のおかげだ」


 アイスの前では少し傲慢かもしれない。だが彼女は嬉しそうだった。


「正直めちゃくちゃ悔しいです。負けるなんて初めてですから。でも嬉しさもあります。だって、次はもっといいものが作れると確信していますから。――また勝負してくださいね」

「ああ、望むところだ」


 それから俺たちは語り合った。今までのこと、錬金術のこと、これからの未来のことも。


 まだまだ俺の錬金術師としての人生は始まったばかりだ。

 

 そして欲も出てきた。


 もっといい物を作りたいと。


 これからより一層励むとしよう。


「なあベルク」

「なんですか師匠」


 頬赤らめながら、胸元がはだけた師匠が声をかけてきた。

 そして俺は思い出してしまった。いや、どうして忘れていたのだろうか。


 酔っぱらうと師匠は――。


「お前は偉いなあ。ほんとえらい。毎日頑張っていて、驕らず。そして何より可愛い。昨日みたいに首にキスしてもらえないか。まだ、足りてないんだ」


 忘れていた。酒を飲むと甘えたちゃんになるのだ。

 俺は、おそるおそるアイスを見た。


「……昨日? ……首? キス? ――うわぁぁっああああああああん! やっぱり、やっぱりいいいいいいいいい、私が先に好きだったのにいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。……わかりました。わかった。ベルクさん、私も混ぜてください! みんなでしましょうぉおっ」

「な、何を言っているんだアイス! ちょっと、師匠まで抱き着かないでくださいよ!?」


 そのとき、より恐ろしい殺気を感じた。


「へえ、ベルク様。そんなに鼻の下を伸ばして、アイスさんともイチャイチャしたいんですか」

「ち、違うレナセール、ち、違うだろ!?」


 ちなみにリティアはというと――。


「……むにゃむにゃ」


 お酒が入ると眠たくなるらしい。よ、良かった。


「ベルク、ほら二階へ行こう。リティアに悪いからな」

「ベルクさん、私もです! 一緒に!」

「し、師匠! 服を脱がないで、あ、アイスまで!?」


「いってらっしゃいベルク様。私も後から行きますね」


 そういったレナセールはおそろしいほど笑顔だった。


 こ、こわい。



 ――――――――――――――――――――――

 あとがき。

 いつもお読みくださりありがとうございます。

 これにて、魔法の杖編(今名付けた)の終了です。


 すんごい手紙からはじまり、リティア、アイス・シードルが現れたりと新キャラクターも多かったですが、それなりに満足のいく形で終わらせることができました。


 これからも更新を頑張りたいと思いますが、もしかしたらまたちょっと遅れるかもしれません。


 ですが、応援するよ! とおっしゃっていただけると嬉しいです! 


 これからも二人の小さくも慎ましい幸せを見守ってあげてくださいませ。

 

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