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第81話 もうやめて、ベルクのHPはゼロよ!

 初めてのお持ち帰りは泣きじゃくる女性二人だった。

 サーチはいつものように明るく迎え入れてくれた。

 にゃあにゃあと二人を慰めるように近づいて、うなだれるアイスの頬をペロペロと舐める。


 レナセールも少しずつ、少しずつ落ち着いてきたが、いつもよりは冷静ではなかった。

 なんて声を掛けたらいいのかもわからず、とりあえず白湯でも持ってこようかと思っていたら、二人は椅子に座り、机に突っ伏した状態で眠りはじめた。


 おそらく泣き疲れたのだろう。いやほんと、マジで泣きすぎだ。


 レナセールはともかく、アイス・シードルはどうしたんだ。

 情緒不安定にもほどがある。


「にゃあっ」

「教えてくれサーチ、なんだと思う」

「にゃあっにゃああ」

「難しいな。女性というものは」


 打ち上げ、ポテトフライ、私のほうが好きだったのに。


 単語を繋ぎ合わせ、アナグラムかと思い考えてみたが答えはでなかった。


「……ぐすん」

「……ぐすん」



 でもまあ、女性が泣いているのは見るのはつらい。



 ただ、よくわからないので寝る。



「おやすみサーチ」

「にゃああ」


 ◇


 ベッドで目を覚ます。

 良い匂いがする。香ばしい匂いだ。

 レナセールがご飯を作ってくれているのだろう。


 上半身を起こして、昨晩のことを思い出す。


 いやほんと大変だったな。


 アイスはもう帰っただろう。なんだかんだで気になって寝つきが悪かった。


 まさか、これも計算……さすが国家錬金術師だ。


「し、し、し、し、し、し、失礼します!」


 すると聞きなれない声がした。

 ドアをコンコンコン。入っていいと伝えると、現れたのは瞼を晴らしまくった青髪美女、アイス・シードルである。


 帰ってなかったのか。

 

 こうしてみると結構若いな。10代後半ぐらいだろうか。


 しかし異世界人はみな一様に綺麗な顔立ちだな。


「おはよう」

「あ、あの……ベルク・アルフォンさん」

「はい」


 アイスは姿勢を正していた。ほれぼれするような真っすぐな背筋だ。

 錬金術師は仕事柄、猫背になりやすいというが美しい。


 だがその背は大きく前に折りたたまれた。


「さ、昨晩は本当にすいませんでしたあああああああああああああああああああああああああ」


 うーん潔い。

 言い訳もせず、端的に謝罪のみ。

 

 角度も素晴らしい。これこそ非の打ち所がない頭の下げ方だ。


「気にしないでくれ。と、いいたいところだが、流石に俺も困ってしまった。理由を話してもらえないか」

「は、はい……実は――」

「ベルク様、おはようございます! 昨晩は申し訳ありませんでした! お食事の用意ができましたので、まずはお召し上がりになってからはどうでしょうか!?」


 そこ現れたのは清々しいまでのレナセールだ。

 彼女は感情の尾を引かない。悲しいことがあってもいつも元気。まあ、元気なのは良いことだ。


「あ、え、あ……」

「レナセールの言う通りだな。先に食事をしてから話そう。その様子だと、彼女には話したんだろう」

「……はい」


 レナセールが元気になっているということならば問題ないだろう。

 何か勘違いがあっただけだ。ならば気にすることはない。


 道中貴族に見られたところは問題だが、そのあたりはアイスに何とかしてもらおう。


「どうぞ、ベルク様」

「ありがとう」


 いつもの席、椅子を引いてもらう。

 食卓には、俺の好きな卵スープ、フルーツ、新鮮なサラダが並んでいた。

 そこに、見たこともないたっぷりと肉が挟まれたパンが一つ。


「ベルク様、そちらはアイス様がお作りになられました。朝、私と一緒に」

「ほう。美味しそうだな」

「ほ、本当に昨晩は……大変、お見苦しいところを……ご迷惑を……」

「気にしないでくれ。――と、すみません。気づけば普通に話してしまっていました」


 年齢は俺のほうが上だろうが、国家錬金術師の階級はかなり上だ。

 気を付けないとな。

 するとアイスが手を大きく振る。


「と、とんでもないです!? 全然、そのままで大丈夫です! それより、お口にあえばよいのですが!?」

「そうか。敬語は下手なんで助かる。それじゃあみんなで頂こうか」


 いつもの卵スープにホッとしつつ、アイスが作ってくれた肉パンに手を伸ばした。

 匂いは牛肉に似ている。かぶりつくと肉汁が染み出てきた。それがさらにパンに染み込んで、柔らかく美味しくなっていく。


「これは、いいな。朝からボリュームはあるが、錬金術師のような食べるのを忘れる職業にピッタリだ」

「そ、そうなんです! その通りなんです!」


 明るい声をあげるアイス。こっちが本当の彼女か。


 そのとき、ふと師匠を思い出した。


 あの人も一度によく食べる。モノづくりに没頭すると忘れてしまうからと。


「ああ、そうそううちの師匠の話なんだがな――」


 そのとき、パンから肉汁が大きく飛び出てしまい、自らのズボンにかかってしまった。

 レナセールがいち早く気付き、しゃがみ込みタオルで拭いてくれる。


「悪いなレナセール、だが自分でやるよ」

「いえ、綺麗にしますから。それとその、レベッカさんの話は――」

「ここにも付いてますよ。ベルクさん」


 そしてアイスが、テーブルに置いていたハンカチで俺の頬をちょんっとしてくれた。

 顔が近いな。


 ――コンコンコン。ガチャッ。


「おはようございます。時間通りに来ました。勝手に開けて入ってくれって言われてたので、大丈夫でしょうか? ――え?」


 そのタイミングで現れたのはリティアだった。

 気品のある白いワンピースを着ている。


 だがそれは今重要ではない。


 問題は、俺の目の前にアイスが覆いかぶさって見えることだ。

 まるでそうなんというか、おそらく彼女から見れば口づけをしているように見える気がする。


 そしてレナセールは膝をつき、なんというか、アレな感じだ。

 ほら、言わなくていいだろう。


「え、は、あ、は、アイス・シードルさん!? いや、そ、それより、ひぇ!? れ、レナセールさん!? な、なにをしていて、はぃっ!? ふぇっ!?」

「リティア、誤解しないでくれ」

「は、ひ、はぁ、な、す、すいませんでしたあ!?!? あ、朝のお邪魔虫は退散しまあああああす!?!?!」


 慌て消えていくリティア。



 俺のHPはもうゼロかもしれない。

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